第54話 お前が魔王になるんだよぉ!
「7体の魔王?なにそれ、そんな事してないけど……」
「虚空塔に封印されとった魔族を全員解放したじゃろう?あの中には魔族や人族が封じとった連中もおったのじゃ。あそこは封印するのに便利じゃからの。まあ……まさかお主が儂らを解放したとは思わなかったが」
「え、嘘、それじゃもしかして」
《やはり、これがお前の天命なのだろう》
「7体の魔王達は、復活した矢先にちょうどよい魔力の塊があったから、権能ごとぶんどったのだろう」
分割してたっていうと、意識とか記憶だと思うけど……欠落してる感じはないけどなぁ……
「よくわかんないけど……そいつらから取り戻さないと魔術使えないってこと?」
「その通り!しかもそやつらは、繋がったお主の魔力で好き放題という訳じゃ、星読みでも、魔力の痕跡を調べても、お前の仕業となるだろうな」
なんじゃそりゃあ!めちゃくちゃやん!
「……ヴィ婆ちゃんがその魔王だったりしない?」
「いや、権能も魔力も自前ので十分じゃったからな。あやつらも自力でやっていくかと思ったが、よほど弱っていたらしい」
封印されてたのは変わんないじゃん。
というか本当なの?……急に現れる親戚以上に怪しい存在いる?
《バラバラにして海に蒔いたのに何故虚空塔に封印されていた?》
「そりゃ、あの世に連れてかれる前に分霊を作ったからの。本体はとっくにお陀仏じゃ。しかしまぁ、大人しく闇を広めておったのに、魔族を蘇らせようとしたとかで封印されたわ、術式を知りたいだけじゃったのに」
……イヴさんや、分霊って?
《我々がやった、自我=記憶の分割と似た技術だな。我々のは次から次に乗り移る事を目的としていたが、分霊は個体として確立させたものだ。言わなくとも分かると思うが、魔力が本体の者にしかできない》
なるほど、少なくとも人間じゃない。
「魔王じゃ無くても、迷惑な存在じゃん」
「そんな事言っていいのか?儂は世にも珍しい闇の属性存在であるぞ?」
「属性存在?なにそれ」
《人族が魔術を使うのに契約する相手だ。魔術を使う時に、いちいち精霊に呼びかけているだろう?アレだ。お前は我輩から収奪した権能を使っていたが、今や……》
え、じゃあイヴも魔術使えないの?
《……そうだな》
ただの可愛くないマスコットとなったのか、哀れなり。
「魔術が使えないと困るのではないか?奴らから取り戻すのに力は必要なのではないか?」
確かにそうだけどなぁ。
「うーん、必要っちゃあ必要なんだけど……」
「いいぞ、闇は……!深くて……!楽しいぞ……!」
なんかウキウキしてるご先祖。
大丈夫なのかな?
《まあ、問題ない。結果は見えている》
イヴがそう言うなら。
「流石に何も使えないのは辛いし、その契約とやらお願いできる?」
「ああ、いいとも……さあ、儂の手を取るがいい……儂と同じ闇へ、そしてここまでおりてきたなら……」
何か色々言ってるけどスルーして手を握る。
「──お前も儂となるのだ!!」
「え」
視界は深紫の闇に包まれる。
◆◆◆◆◆◆◆◆
深紫の闇に包まれ、フーカは気を失った。
「カカカッ、急に現れる親戚ほど怪しい存在も他にはいまいて。まあ、子孫といえど所詮は子供かの」
ヴィヴァフヴァントは物事があまりにも簡単に進み、笑いを堪えきれなかった。
不安定な分霊を補強しようと獲物を探せば、素材として十分な、自らの血を引くものがすぐ近くにいたのだ。
あとは適当な事を言って肉体を乗っ取れば分霊でなく完全な復活を遂げられる。
能力が他の魔王に渡っているのは、彼にとって少し惜しくはあったが、それでも魔力と肉体があれば問題が無かった。
「さてと、覗かせてももらうかの」
フーカの額に触れ、ヴィヴァフヴァントの体は消失した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
深紫の光に包まれた空間に私は浮かんでいた。
「カカカッ!さて、儂の闇をお主に与えるにあたって、まず修めねばならんものがある」
そう言って私の胸に触れたご先祖。
「先ずお主は己の中の闇と向き合──ん?うぉぉぉぉぉ!?」
何か言おうとしたご先祖は、私の体から突然溢れ出した、何かの濁流に押し流されていった。
《命知らずだな、まあこいつが賢明ならば我輩に滅ぼされてはいないか》
当たり前のように隣に浮かぶイヴ。
なにここ、どこ?!ていうか何、今の!?
《さぁな。大方、お前の意識を闇へ染め、その隙に何かしようとしたのだろうが……そうするには先客が多すぎたな》
ご先祖を押し流している何かは、グロテスクな姿をした死者、或いは亡者の群れ達。
空間の光を覆い尽くすほどに蠢いているそれら。
先客って……何者なのこいつら?
《お前の中身だ》
私の中……身?うっそ、こんな百鬼夜行的なのが私の?ご冗談を。
心の中の闇っていったら、全身白装束か、褐色銀髪の何かアナザー何とか的な奴じゃないの?
《だから闇をなんだと思っているんだ……あれは本来我輩の中にあった厄災達、そして殆どは"お前の中に元々いた"連中だ。何故かは知らんがな》
いやいっそのこと、私の中の闇を抽出したらたまたま、こんな見た目になったって方がマシなのだけども。
「な、なんじゃこいつら!お主の闇どころじゃないぞ!なんなんじゃ全く!はなせぇ!」
濁流でもがくご先祖。
《我輩達にはどうにもできん、そのまま飲み込まれろ》
ご先祖の顔を蹴っ飛ばすイヴ。
「このっ!やめろっ!くっ!クソトカゲめぇぇ!!」
《老害は大人しく亡者の参列に並んでおけ、我輩達が友好活用してやろう》
イヴに濁流へ押し込まれたご先祖は、そのまま飲まれていった。
《……よし、これで闇の権能は一部修復されたな》
え、いいのこれで?ご先祖が試練を出してそれをなんとか乗り越えて闇属性を取り戻すとか、そう言う流れなんじゃないの?
《いいか?あやつは自分以外の存在など歯牙にもかけん。契約なぞ結んで得になる事なぞないわ》
どんな相手が知らないから何とも言えないけど、これで魔術が使えるならいっか。
《大体な、我輩という最高の闇の存在を置いて、他と契約するなぞもって他なのだからな》
え、なに、嫉妬してるの?
《勝手に言っていろ、お前に我輩の気など分かるまい》
まあいいや、ここからどうやって出ようかな。
《簡単だ、お前がここから出たと思い込めれば良い。せっかく闇を得たのだ。お前が得意な門でも開いてみろ》
「じゃあ久々にやってみますか。《──開け!闇の門!》」
死霊渦巻く空間が割れ、光ひとつない暗闇が開く。
《では行こう……我々の権能を奪った愚か者共に鉄槌を下しにな》
◆◆◆◆◆◆◆◆
「さて、集まってもらったのは他でもない。今年の寮対抗戦についてだ」
円卓に集うはアドルノ寮の生徒達が数人。
「今年こそ……勝つ……!私も改造完了した……!」
「燃やすぞー、やるぞー」
「私がいれば優秀よ!どんな手段を使ってでも勝つわ!」
張り切る女性陣を見てネーデルは頷きつつ。
「……と言いたいところなのだが」
そう言葉を区切り、集まった生徒を見るネーデル。
「どうかしました?ネーデル様?」
「……わからないか、モモ君」
モモの質問に頭を抱えるネーデル。
「何か問題があるのでしょうか?」
「──参加者が少な過ぎる」
「え?」
「ここにいる生徒以外、参加しようとしている生徒はいない。"選別"で残った筈の一年生達は行方が分からず、数少ない二年生以上の生徒は、虚空塔で好き勝手にやっている。そして、今年最も有望視されていた戦力のフーカ君は……」
「そういえば見てないわ!何してるのよ!」
「──補修だ」
「裁定の剣……お墨付きが……?」
「……本当です。今、彼女には魔術は使えませんし……何故か初歩的な試験すら合格できてないみたいで……」
「と、言う事だ。このままでは我々は人数不足で競技に参加すら出来ない。故に」
「お、やるかいー?あれー」
乗り出すアリシア。
「何が始まるんですか?」
「"新入生歓迎会"だ」
「ふふふ……今年は派手になる……!」
「何か分からないけど、面白そうね!」
「始めようではないか、アドルノ寮の伝統をなぁ!!ククッ、クククッ、フハハハッ!!」
円卓には気味の悪い笑い声が響いた。
私、黒幕じゃありません!〜異世界転生したら最強すぎてラスボスになりつつある件〜 銀杏鹿 @ginkgochang
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