学園生活(仮)

第1話 魔力視の授業

「では二人組を作ってください」


せんせい の なかまづくり !!

こうかは ばつぐんだ !!


 私は倒れた、気分的に。

教員の宣言によって。

周りの生徒達は淀みなく二人組を作っていく。


 何ということをしてくれたのでしょうか。

よりによってモモとかレモナが居ない時に……!


 いや、逆に考えるのだ。

仮にも私は貴族の娘。

そして魔術適性もなんか凄いらしいし、ここで取り巻きの一人や二人が出来てもおかしくない……はず。


「……」


 足音を消して教室の端の方へ歩く。

壁の花と化し、風景と一体化する。

動かざる事山の如し。九頭龍風香は動かない。


《なにをしているんだ?》


透明化していたイヴが話しかけてきた。


 時を待ってるの。

強キャラはホイホイ自分から動かないの。


《まさか……恥ずかしいのか?》


断じて違う、違うったら違うの。


《……こんな事で断るような奴はいないぞ?》


 いる……いるの。

既にコミュニティが出来ているとする。

すると似たような言葉が出てくる、例えば。

「あ、ごめん別の人と組むから」

とか言うワードが出てくる……のだ。


《……強者の考える事とは思えんな》


「……」


 遠巻きに私を見る生徒達は、私の目線がそちらへ向くと、皆目を逸らす。


 何故……?裁定の剣からお墨付きかつ、魔人の襲撃で生き残った貴族の美少女なんて、ポイント高くない?

パーティーに加えたくならない?


《美少女?そんな物は何処にいる?》


 トカゲの感性じゃあ、分からなくてもしょうがないか。


 もしこれで容姿に不自由していたら暗黒面を被っていた所だった。

黒い仮面を被らなきゃならないところだ。

言わなくて済んだぜ、コホーとか、ユアファーザーとか。

あ、でもかっこいいかも、仮面。


《彼らが来ないなら、お前から話しかけてみなければ道は開けない、お前が避けるならば相手も避けるだけだ》


……知ったような事を、トカゲのクセに。


《命の危険に比べればこんな事は大した問題ではなかろう?こんな大した事も出来ないのか?》


 この、魔力供給切ってやろうか……!


《出来るものならやってみろ、碌に魔力操作もできんやつに、そんな真似できるわけなかろ?》


くっ!……背に腹は変えられないな。

私の流儀には反するけど……うん。


「お、おい、そこの」


 近くで所在無さげにしていた生徒に声をかける。

何処かで見た事あるような気がするが思い出せない。


「あ!あの……フーカさんですよね!」


 声をかけた生徒は物凄い勢いで迫ってきた。


「え、あ、」


「ぼ、僕はミケ・クロフォードです!この間サロンで会いましたよね!」


「お、おお、よろしくミケ…」


 特に変わった様子のない生徒だった。

栗色の前髪で目が少し隠れている他には印象に残るようなところが無い。


サロンで会った?イヴ?覚えてる?


《……分からぬ、魔力も他の子供と然程変わらぬし…》


「えーと、では二人組は全員できたかな?」


 見計らったように教師が確認する。

……いや、私を待ってたんだろう。

危なかった、誰かが3人組とか作らなくて良かった。


「皆さんも知っているでしょうが、世の中のものには魔力が宿っています。今日はそれを見る練習をしましょう」


 魔力光?私には碌に見えないからやりたく無いのだけれども。


「では二人組の相手を見て見ましょう…先ずは魔力を集中して--」


 ミケを見、説明を聞き終わる前に、魔力を目に集中さた。


前に同じ事はイヴに聞いたし、必要なさそう。


 相変わらず色付いては見えない。僅かに霞んだようなチラつきが見えるだけ。


「魔力視は得意なんです!」


 自信満々に言うミケ。

この子も一応サロンにいた生徒だ。

それなりに何かしら出来るんだろう…多分。


「皆さん見えましたか?魔力視は人によってかなり見える範囲が違いますが、魔力視をすれば目に魔力光が集まるのでお互いによく見え--」


 その時事件は起こった。


「おぐぇ」


 ミケは泡を吹き、倒れて来た。

慌てて受け止めた、小刻みに痙攣している。え、癲癇!?大丈夫なの!?


《こやつの感覚が鋭過ぎるのだろうか…》


 鋭過ぎるのだろうか、じゃないよ!

どうするの!?


《何か問題があるのか?》


 問題しかない!

--真っ先に疑われるのは私だし!


《まず自分の保身とな……適当な事を言って医務室にでもつれていけ……》


 只でさえこの間の事件で変な目で見られてるんだから!やばいやつでしょうこれ!


《自覚あったのだな……取り敢えず魔力を集中させてるのをやめろ》


え、うん。

取り敢えず集中を切って、一呼吸。

視界のチラつきも無くなり、多分解除出来ているはず。


 心無しかミケの表情も安らいだような気がしなくもない。


「そこの子……大丈夫ですか……?」


 教員が近くに来ていた。

接近にまるで気付かなかった。

生徒たちの間を見て回っていたのだろう。


 ぐったりと私には寄りかかっているミケに視線が向かっている。

幸いなことに、泡を吹いている顔は見えていない。


適当な言い訳を考えなければ……!

取り敢えず、別状がないって事にしとかないと……!


「あ、はい、大丈夫です。ちょっと疲れてるみたいで……」


「あら、そうなの?でもちょっと様子が…」


 相変わらず微妙に痙攣しているミケ。


「なんか小刻みに揺れてるけど…」


「だ、大丈夫ですよっ!この子は普段から振動してるんです!!こんな感じですからっ!!」


「え、そ、そうなの?いや大丈夫なのそれ!?」


 余計疑われてんじゃん!

私ってこんな頭悪かったのか!?


《……なぁ、もう少し他になかったのか?》


呆れ気味の声が聞こえた。

うるせえや、私だって好きでこんなことしてる訳じゃないわい!


「な、なぁ、大丈夫だよな!ミケ君!」


 透明化したまま、ミケの腕を動かせイヴ!

見えないなら、ミケが返事してるように出来るだろう!?


《無理だな、お前には見えてないかも知れんが、そいつには我輩が"見えている"》


動いたら、魔力光ですぐにバレるって事?


《正解だ》


当然の如く反応のないミケ。


「……えっと、ミケさん?」


 こうなったら声真似だ!

私の技をみせてやる!


「"ダイジョウブデス!センセ!ボクゲンキデス!"」


 どうだ!私が生前、通信講座で習った腹話術は!この世界には多分ない!多分!


「え、あ、そ、そうなの?ねえ、顔を上げてくれないかしら……?」


半信半疑!

顔を!?仕方ない、顔の泡を拭って、目は無理やり開けさせれば……!!


「ふ、フーカさん?何を……?」


「な、なんでもありませんよぉ〜!!ミケの顔をちょっと拭いただけですから!」


「そ、そうなのミケさん?」


「"ソノトオリデス!ナンデモナイデスヨ!"」


 ミケの顔を後ろから支えて先生の方へ向ける。


《なんと……この前の音響魔術と遜色ないな…優れた技術は魔術と区別がつかない……という事なのか……》


 イヴは感心していた。

いやそんな場合じゃないよ!どうにかしてよ!


「え、そうなの……?あれ?ミケさん!その目は!?」


「何か変な所でも--」


 確認の為にミケの顔を見る。

無理やり開けた瞳は、いつのまにか白目を向いていた、いくら腹話術がうまくいっても、これではただひたすら不気味だ。


「大丈夫です!この子時々白目を剥きながら話すんですよ!」


「え!そうなんですか!」


「ほ、ほら!"トキドキソウナリマス、イツモノコトデス、ダイジョウブ、ダイジョウブ"」


「そ、そうなんですか、じゃ、じゃあ大丈夫そうで…」


 何とかなった!何とかなったぞ!

それ見たことか、私の現代知識は役に立つのだ!現代技能は素晴らしいのだ。

ああ、これぞ無双!


「ブフォッ」


 ミケの口から勢いよく泡が吹き出た。

その勢いの所為で思わず手が滑り、ミケの身体が崩れ落ちる。


「み、ミケさん!?」


「だ、大丈夫です!時々倒れるんですよこの子!」


「それは大丈夫じゃありませんよ!」


これは、完全にアウト。ごまかしきれない。何とかしてイヴ!この際何でもいい!


《……そいつも気絶させろ》


 はい?何を言ってるんですかあんたは。

変温動物には難しい質問だった?


《ここいる全員を気絶させてお前も倒れていれば、疑いはかかるまい!犯人はこないだの魔人だ!》


 見直した!そんな事思いつきもしなかった!方法が全くわからない事を除けば天才的な発想!


《全員の視線を集めて、お前が魔力光を出せばよい》


 いや、どうやんの!ていうか私の魔力光ってそんな殺人的なの!?


《簡単だ!》


素早く教師の裏に回るイヴ。


「ひぎぃぃぃぃぃ」


 教師はものすごい悲鳴をあげた。

周りの生徒たちが一斉にこちらを見る。

一体何を……?


《今は良い!早くしろ!》


 まいっか!喰らえ!

私は自分の目に全力で魔力を込め、放つようなイメージをしながら言った。


「《真の英霊は目で殺す!》 」


「ぁあああああ」

「きゃぁぁぁぁ」


教室は阿鼻叫喚の渦となった。

皆、色々垂れ流しながら気絶した。

その部屋の中で立っているのは私だけ。

足元には彼ら彼女たちと、液体。


ああ、こう言う時の決め台詞は確か。


「あれ、私何かしちゃいましたか?」


《今度鏡を見るといい。二度と魔力光を出したくなくなるだろう》


--その日、件の魔人が教室を襲い、生徒含め教員を気絶させた、という事になった。

全員、何が起きたのか殆ど覚えておらず、ただ一つ悍ましい何かを見た、という証言だけが残されたからだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「いつまでこうして寝てればいい?」


《我輩にはわからん。誰かが来るまではこのままだろう……》


 周りの生徒達と同じように気絶したフリをし始めてしばらく経ったらような気がするが、誰一人として、この教室へ来ない。


「この部屋にいるのつらい」


《お前よりも鼻が効く我輩にそれが言えるのか?》


「いや、まあ、うん。ごめん。それで、さっき教師に何したの?」


《……お前にはまだ早い》


「……そう。それでさ、何度も聞くけどそんなに私の魔力光って酷いの?」


《魔力光を見せるだけで、恐怖や嫌悪感を与える魔術よりも強力だ。少なくとも人間の魔力光ではない》


「これでも私はれっきとした……」


 生前を思い出そうとして、上手く思い出せなかった。余計な知識やら技術なら無駄に出てくると言うのに。


《れっきとした何だ?》


「少なくとも人間だった筈!」


 結局、人が来たのは夕方になってからだった。それまで私とトカゲは酸っぱい臭気の海に包まれたまま待ち続けたのだった。

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