第18話 魔人強襲
校長からの眠気がするような挨拶の最中、それは落ちてきた。
集会場の壇上に墜落したそれは、暫く前から使用を禁止されている"昇降機"だった。
多くの教員や、学生が身構える。
今、"昇降機"を使うような生徒は殆どいないし、ましてや今は教師や生徒含め、学園の"全員"がこの場に揃っている筈だからだ。
つまりは、外部からの侵入者以外にはあり得ない。
魔術学園の強力な結界を破って現れた、という事は必然的に、危険な存在が侵入してきた事を意味する。
「そこから大人しく出てこい!」
教員の誰かが言う。
皆が息を飲んで同行を見守る中、昇降機からゆっくりとそれは現れた。
這い出ずるその姿は、毛に包まれた大きな体に、太い強靭な足には鋭い爪、開いた口には鋭い牙が並んでいる。
魔力光の輝きを見れば、それが魔獣の領域に達していると誰の目に見ても明らかであった。
昇降機の中にはまだ中に何人かの魔力光が見え、様子を伺っているようだった。
敵対魔族の侵略か、あるいは突発的な破壊工作か、いずれにしても会場の空気は緊迫していた。
「投降したまえ!如何に能力が高かろうとも我々全員を相手に取れると思うな、中にいる君達もだ!」
舞台袖にいた、基礎魔術教師のホルムズが侵入者達に告げる。
すると、魔獣は昇降機の中に入り、再び現れる。
魔獣が咥えていたのはボロボロの少女だった。
少女は泣きそうな表情でぶら下がっている。
「モモちゃんッ!?何でそんなところに!」
反応したのは回復魔術教師のクリンだった。
彼女は自身の本業の繋がりで、その少女とは家と関係があったので、見間違える筈もなかった。
「……生徒一人程度で揺らぐ我々では無いぞ?」
ホルムズは強気の発言をした。
無論人質の価値を理解させない為だ。
知り合いのクリンはなにかを言いかけたが、焦る心をぐっとこらえた。
すると、魔獣は少女を離し、その場に座らせると、またも昇降機の中に戻り、もう一人連れてきた。
その少女はぐったりとしていて身じろぎもしない。
会場の殆どの人間は恐らく生徒なのだろうというくらいしか分からなかったが、教員達はそれが誰なのかはっきりとわかっていた。
「レ、レモナ…な、何という事をっ……貴様らッ!」
教員達は血がサッと引いていくように感じた。
校長の目の色が変わっているからだ。
心象的な話ではなく、物理的に。
「校長!落ち着いてください!相手の思惑に乗ってはいけません!」
その中で発言ができたのは、ホルムズだけであった。校長は発動しかけた魔術をゆっくりと解除していく。
「交渉だ、君の要求は何だ!」
沈黙。魔獣は何も答えなかった。
緊迫した空間には静寂だけがある。
程なく魔獣は少女達を咥えて昇降機の中へ戻って行った。
そしてまた訪れる沈黙、暫くの間魔獣は出てくる事は無かった。
一体何をしているのだろうか、次の動きを待つ人々の前に、再び現れた魔獣は先程とは変わって、流暢に喋り始めた。
「我は魔人"クドゥリュー"今この犬の身体を借りて貴様らに話している」
魔獣を犬呼ばわりするその声は、尊大な口調で続けた。
「この犬も娘どもも、私の人質だ。解放したければ、大人しくする事だ」
強力な魔術師に囲まれながらも、まるで何とも思っていないかのような余裕を感じさせる。
教師陣の魔力光を見てその余裕があるとすれば、その実力は竜級に匹敵する事だろう。
「要求は何だッッ!?」
誰もが威圧感に口を紡ぐ中、問いかけたのは校長だった。
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