第42話 和風グラタン

今日はクリスマス。


子供達は、昨夜はサンタさんからのプレゼントに心踊らせたでしょうか?


今頃、届いたプレゼントに歓喜しているのかもしれませんね。



「ぽんすけ、おいで」


朝食のご飯が炊けたので、火を止めて棚から小さな箱を取り出します。


「プレゼントよ」


駆け寄ってきたぽんすけに見せるようにして、箱を開けました。


赤色で、お星さまの柄が入った新しい首輪。


お座りをしてそれをクンクンと匂っています。


「着けてあげるわね」


古い首輪を外して、新しいのを着けてます。


ピカピカの可愛い首輪を気に入ってくれたのか、嬉しそうに私の頬を舐めました。


「まぁ。ふふふっ。喜んでくれて良かったわ」


葉子さんが起きてくるまでの間、はしゃぐぽんすけと遊んでいました。



「ハルさーん!」


パタパタと階段を掛け下りて来ました。


「葉子さん、おはようございます。あら、気付いてくれましたか」


「ありがとうございますー!凄く素敵です!暖かいし!」


葉子さんが好きな、青色の毛糸で作ったカーディガン。


冬の間こっそりと編んで、何とか間に合ったので、枕元に置いておいた物です。


「ふふっ。気に入っていただけて良かったです。さ、朝ごはんも出来てますよ」


「はーいっ」


葉子さんは上機嫌でお盆を取り出して、私が握ったおにぎりや、お味噌汁を乗せていきました。



「世の中はクリスマスなのねぇ」


里芋をおすそわけに来てくださった、栗原さんの奥さんが、お茶の湯呑みに口をつけました。


「クリスマスってイブの方が本番な気がしません?25日は、終わった感じがしてしまいますー。不思議ですよね、前夜なのに。あー!目が痛いっ」


葉子さんが、玉ねぎを切りながら言いました。


「サンタさんのプレゼントを楽しみに、ドキドキするからかもしれませんね」


私がそう言うと、栗原さんは「懐かしいわねぇ」とニコニコしています。



里芋と玉ねぎ、しめじと鶏肉も入れて和風のグラタンを作っています。


鶏肉は皮から焼き目をつけて。


玉ねぎも、じっくり炒めたら甘味が出ます。


しめじを加えて炒めたら、小麦粉を馴染ませ、牛乳と茹でて潰した里芋とを合わせて煮ます。


ソースにはお味噌で味をつけて、とろみが付いたらグラタン皿に。


チーズをたっぷりと乗せて焼いたら完成。


オーブンを開けると、こんがりと焼き上がったチーズが食欲をそそります。


トロリとした里芋、お味噌で和風に仕上がったグラタンは、冬ならではのメニューですね。


「まぁ、ハイカラねぇ。美味しそう。お父さん、早く来ないかしら」


栗原さんの旦那様は後からいらっしゃるとの事でした。


ちょうどその時、食堂の扉が開きました。


「こんにちは」


「まぁ、とても良いタイミングで。いらっしゃいませ。ちょうどお料理が出来たところなのですよ。おにぎりは何になさいます?」


栗原さんの旦那様を席にご案内して、葉子さんにお茶をお願いしました。


「そうだなぁ・・・昆布でお願いできるかな」


「かしこまりました」


私は奥様の分の梅のおにぎりを作りながら、旦那様のグラタンをオーブンに入れました。


「我が儘言って悪かったね。里芋の料理なんて、困っただろう」


「いえ。煮物以外なんて、私も滅多に作りませんから楽しかったですよ」


奥様のグラタンとおにぎりをテーブルに運びました。


「旦那様の分もすぐに出来ますから」


「ありがとう。じゃあ先にいただこうかしらね」


奥様はグラタンに興味津々のご様子でした。



「まぁ、美味しい。お父さん、これ美味しいですよ」


里芋グラタンを食べて、奥様は笑顔になります。


「食べなれないお料理でしょうから、お口に合うか心配でしたけど、そう言っていただけて安心しました。はい、お待たせしました」


お料理をお持ちすると、旦那様は早速「いただきます」とグラタンを食べ「うん、旨い旨い」と気に入ってくださいました。


「葉子さん、そのカーディガン素敵ねぇ」


奥様がおにぎりを食べながら、洗い物をする葉子さんを見て言いました。


「ハルさんが作ってくれたんですよー」


「へぇ、そうなの。編み物は歳とってからは出来てないわねぇ・・・すぐ疲れちゃうの」


そう言って笑うと、それを見て隣で旦那様も笑いました。



「ハルさん、葉子さん、ごちそうさま。いつも美味しいお料理、ありがとう」


「また食べ飽きた食材があったら持ってくるよ。はははっ」


「もう、お父さんったら・・・あら、ぽんすけも新しい首輪になってるのね」


見送りに出てきたぽんすけにそう言い、優しく頭を撫でました。


「クリスマスのプレゼントね。良かったわねぇ、よく似合ってるよ」


栗原さんの奥様に撫でられたぽんすけは、嬉しそうに体を擦り寄せていました。



「葉子さんは、お部屋のお掃除は済みましたか?」


「えー・・・あははは」


テーブルを拭きながら、葉子さんは苦笑いをしていました。


「あら、ふふっ。大丈夫ですよ。私もまだ奥の部屋が終わってませんから。明日はお休みにして、ゆっくりやりましょうか」


「はい!いやぁ・・・ハルさんみたいに、自分の部屋くらい、普段から掃除しておくべきでした。来年からは気を付けます!」


「私もお手伝いしますから。はい、珈琲ここに置いておきますね。お疲れ様でした」


「ありがとうございますー」


布巾を洗って竿に干した葉子さんが、私が座っているテーブルにやって来ました。


お客様が帰られてからの、葉子さんとホッと一息つく瞬間。


寒い冬も、こうして一緒に珈琲を飲んでくれる相手がいると、心まで温まるようです。


勿論ぽんすけの存在も、私にとってとても大切ですよ。

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