幕間

Everlasting rain Ⅳ

「名前、どうするの?」

 まだあどけなさの残る、ふたりの姉弟が騒ぐ。

「そうね、名前、考えないとね」

 腕の中の赤ん坊は、じっと私を見つめている。まだ見えてはいないのだろうが。

 この子は近いうちに、宮殿に召されることになる。この子に与えることができるのは、名前だけだ。そしてそれはこの子にとって進むべき道を示し、自分を知る術となるものだ。

「女の子だから、可愛い名前がいいよ」

「急かさないで、リタ。でもそうね、可愛い名前がいいわね」

 この子の父親が、頭に浮かぶ。どんな名前なら、彼に気づいてもらえるだろうか。

 生まれたばかりとは思えないほど、落ち着き払った我が子を見て、ちょっと呆れる。父親にそっくりではないか。これは大物になりそうだ。

 我が子に名前をつけるのは、いつまで経っても、何度経験しても難しい。自分に名付けるようで、気恥ずかしいというのもある。その上、名前の由来としてよくある、こういう人になってほしいという願いは、私にとって叶わないものだ。

 いや、叶わないからこそ、名前に思いを託すしかないのだが。

「決めた。この子の名前」

 姉弟が、顔を輝かせる。彼らに微笑みかけてから、我が子を見る。

「ミコト。あなたの名前は、ミコト。きっとあなたは正しき王となる。あなたの言葉は人々を導き、この世界を照らす希望となる」

 この世界の神は、人々を導きはしない。慈悲深き神は存在しない。

 この世界の希望は、奇跡をもたらす新たな神だ。そしてそれは、私ではない。

 きっと叶わない。名前だけが残り、私がそれを背負うことになるのだろう。そうだとしても、願うことをやめられない。願わずにはいられない。


 ふと窓の外を見る。私をせせら笑うかのように、雨脚が強くなってきた。

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