幕間

Everlasting rain Ⅲ

 人間は同じことを繰り返すというのは、本当らしい。

 ふらりと出かけた街では、雨が降っていた。俄か雨らしく、ほとんどの人が雨宿りをするか、走って家に帰るかしていて、ざわついていた。

 私は頭巾と外套で全身を覆っていたので、雨を気にせず歩いていたのだが、大きな荷物を両腕に抱えた女性とすれ違った。

「お持ちしましょうか」

 ずぶぬれになった女性は、びくりと怯えたようにこちらを見上げ、すぐに目をそらした。

「いえ、大丈夫ですから。あ、ありがとうございます」

 いかにも身分の高そうな恰好を見て、ぎょっとしたのだろう。彼女は平民に見えるが、身なりは少々粗末だった。

「そのままでは風邪をひいてしまう。せめて屋根のある所まで運びますよ」

 私は彼女の荷物をひょいと担ぎ、人の少ない雨宿り場所を探した。

 彼女には警戒されているようだったが、物盗りに見えない恰好が幸いした。おとなしく私についてくる。

 屋根の下に入ると、私は彼女に手巾を渡した。彼女が固辞するので、無理にでも顔を拭いてやった。淡い色の髪と、深い青色の瞳が印象的な少女だった。

 彼女はどうして私が親切にするのかがわからないのか、それとも私にあらぬ疑いをかけているのか、私から必死に目を背けていた。無理もない。

「家は近いのかい? 女性には重い荷物だけど」

「え、ええ、それほど遠くはありません……」

 消え入るような声だ。

「雨はもうすぐ止みそうだけど、送っていくよ。大変だろう」

「いっ、いえ、結構ですから」

 彼女は急いで荷物を抱え上げ、立ち去ろうとする。とっさにその腕を掴む。彼女がひっ、と小さく悲鳴を上げた。

「待て待て。そんなに警戒しなくても。ただの親切がそんなに怖いのか」

 彼女は気まずそうに目を泳がせ、荷物を置いた。

「じ、実は、父が病気で……。うつるといけないですし……」

「そうだったのか。長い病かい? 君にはうつっていないようだが」

 彼女はうなずいて、そのままうつむく。

「ひと月ほど前からで……。私や母にはうつらないので、うつる病でもないかもしれませんが……」

「そうか。それなら私にもうつらないだろう。君よりかはよほど丈夫だろうだからね。ちょっと診せてくれるかい」

 彼女が目を丸くする。

「お医者様ですか?」

「うーん、ちょっと違うけど、医学は少しかじっていてね」


 医者からくすねた薬が思いのほか効いたらしく、彼女の父親はすんなりと回復した。彼女の両親は、突然現れた男を警戒しつつも、恩人として感謝してくれた。

 彼女は私にすっかり気を許したらしく、それから何度か会っては、とりとめもない話を交わした。しばらくして、どこかで私の身分を知った彼女は、うんと気まずそうな素振りを見せた後、なぜだか涙を流した。それがどうしようもなく、可愛らしかった。

 私が彼女に与えたものは、幸福ではなかっただろう。一時の幸福は、いっそ不幸だ。そんなものを与えられるくらいなら、ずっと不幸せなほうがいい。そう思いつつも、私は刹那的な享楽を求めていたのだ。

 それをどこかで苦々しく思いながらも、私は、死んでも彼女を幸せにしたかった。いや、私は逃げたかったのだ。王という不自由から。


 未練がましい私自身のおかげで、結局その運命から逃れることはできなかったわけだが。







***

 これにて三章が終了。(私が)待ちに待った四章に突入します。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。じわじわ増える❤や★にはいつも励まされております。

 四章まで読んでいただくと、再読したくなるかも……。

 投稿が執筆に追いつきつつあるので、作者としては時間稼ぎしたいところです。

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