Reminiscence Ⅳ

 あれは、悪夢だったのだろうか。

 目を覚ますとルークがいて、お腹の大きさは変わっていなかった。違和感と言えば、ルークがやけに大人びて見えたことだ。二、三歳は老けた、いや、成長しているように見えた。

 彼は何も話さなかった。時々苦悶するように顔を歪めたが、子どもが産まれた時には涙を流して喜んだし、愛おしそうに子どもを抱いた。

 出産を終えた私が落ち着いたころ、彼は大真面目な顔をして、こう告げた。

「新しい世界を作ろう」

 何を言い出すのかと思ったが、彼の描く理想郷は、とても魅力的だった。

 魔力のない世界。人間が、平等に暮らせる世界。魔力が無い人間が、人として生きて行ける世界。人々は家畜のような扱いから逃れ、新たな世界を築くのだ。

 突拍子もない話だが、彼は絶対にやり遂げる、そう宣言した。そして私は、彼を信じた。

 追い立てられて集まった、魔力を持たぬ人々の集落で、私は片っ端から声をかけた。私が生きていることに驚いた者もいたが、気にしている場合ではなかった。賢者に飼われているアルヴの人々も説得し、次の満月の夜、あの森に集まるように仕向けた。私の役目は、それだけだった。


 半信半疑で集まった人々は、奇蹟を目にした。

 まっさらな大地に、賢者が築いた世界はなかった。

 混乱する人々の前に君臨したのは、ひとりの青年だ。

「ここはよく似ているが、君たちの知っている世界ではない。ぼくが作った世界だ。信じられないなら、信じなくても良い。まあ、もとの世界には戻れないけどね。ここでどんな世界を築くのかは、すべて君たちにかかっている。だが忘れるな。君たちを地獄から救ったのは、彼女だ」

 彼は私の手をとった。片腕に赤ん坊を抱え、ローブをまとっている私は、さぞかし聖女に見えたことだろう。

「ここを楽園にするのか、それとも別の地獄にするのか。彼女の望みがどちらか、わからないほど愚かではないだろう。ぼくも多少は、手を貸してやる。ぼんやりしている暇はないぞ」

 戸惑う私に、ルークは笑いかけた。


 アイリスと名付けた娘は、ルークに似て聡明だった。あっという間に築かれた国と城で、私たちは望み通り、幸せな暮らしを送った。

「君たちの邪魔をするのは気が引けるから、ぼくは別の憑代を探すこととするよ」

 ルークの姿をして、彼は言った。

「彼ら自身は気づいていないようだが、というかぼくがそうさせたんだが、魔力をもつ者は案外多くてね。憑代探しには困らないんだ。ああ、この世界で魔力という存在はすべての記憶から消されているから、安心していいよ。それではまた、いつか会おう」

 彼のその後はわからない。同じ国にいたはずなのに、彼と会うことは二度となかった。

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