23 既視感(3)

 ミコトが向かったのは、図書館だった。地質学に関する本をかき集めて、積み上げたものを順番に、ぱらぱらと眺めていく。読んでいるようには見えない。

 テオは手持ち無沙汰にその様子を眺めつつ、読み終えた本をもとに戻していく。ミコトはその都度、囁くように礼を言ったが、本から視線を外さない。

 あっという間に読書を終え、ミコトは頭を抱えた。静かな館内では話すことも躊躇ためらわれて、外に出る。

「困ったな。地質学的には、この島が特別新しいなんて根拠はないらしい。その記述もない。いったいジャスミンは誰から、この島が比較的新しいものだと聞いたんだろう」

「それも、言い伝えみたいなものなのかな。ベゼルでは、一般的な話とか?」

 それなら誰かに話を聞きに行こうということになった。だが、一般人に尋ねては怪しまれそうだ。歴史や伝承に詳しそうな人物をふたりで考えたところ、一人思い当たる人物がいた。


 衛兵にモーゼフに会いたいと伝えると、怪訝そうな顔をされてしまった。今さらわざわざ、陛下の補佐官に会う理由がわからなかったのだろう。とはいえ、特に理由も尋ねず手配してくれた。

 モーゼフは勤務以外、ほとんど自室に籠って本を読んでいるらしい。見た目から想像される通りである。

 モーゼフの部屋に通されると、その散らかり具合と、本の多さに唖然とした。

「すみませんな、汚い部屋でして。場所を替えましょうか」

「いえ、その必要はありません。立ち話でも構いませんから」

 そう言いつつも、長椅子に形成された本の山を崩しにかかっているモーゼフを、ふたりで手伝う。

 埃が舞うので窓を開けて、何とか座る場所も確保した。

「ええとそれで、ご用件は」

「はい、突然なのですが、この島がいつ頃できたのかご存知でしょうか」

 はあ、とモーゼフは不思議そうな顔をして、立派な顎鬚あごひげに触れる。

「いつ頃、というのは存じ上げませんな。記録の辿りようもありませんが、おおよそ、周辺の小さな島々と同時期ではないかと。火山島ですから、大陸とは別の過程を辿っておりましょうが」

「なるほど。視察をしていて気づいたのですが、この島には古樹が見当たりませんね。目安としては、樹齢二、三百年以上のものでしょうか。火山噴火でもあったのですか」

「それは気づきませんでしたな。この地に人が住むようになって二百年弱ですが、火山活動は観測されておらんようです。地質から、ここ千年の間は噴火していないと見られておりますが」

 帝国の外へと人々は出て行き始めたのがおおよそ五百年前、外縁部まで広がるのは三百年前ぐらいだとされている。人目につくようになったころに植生が形成されたというのは、偶然にしては出来すぎている気がする。

 活火山によって、近年出現した島は複数確認されている。ベゼルが比較的新しいという認識は、本来であれば生まれそうにない。それでも、いちおう尋ねる。

「では、専門家も含めて多くの方が、比較的新しいとはいえ、この島は永く存在していたと考えておられるのでしょうか」

「そうですね。疑いもしませんでしたよ」


 ジャスミンは誰かから、「この島が比較的新しい」と聞いたのだ。その誰かが、何かの勘違いか、火山島という性質による先入観から、彼女にそう教えた可能性は十分にある。しかし、ミコトには他にも、ひっかかりがあるらしい。

「イルファさんを疑ってるの? もう亡くなってるみたいだけど」

「正直に言えば、そうだね。手口とかは全く不明だけど。普通なら何とも思わないんだろうけど、私には思うところがあってだね……」

 手掛かりを見つけて興奮しているかと思いきや、ミコトはどこか落胆しているように見える。

「ぼくにはわからないけど、ジャスミンに訊いてみるしかないんじゃないかな」

「そうだね。気は進まないな」

 落胆を超えて、悲しそうにすら見える。いったいなんだと言うのか。

「ミコト、本当はいろいろわかってるんでしょ」

 テオは彼女が何かを隠しているように見えて、ちょっと口を尖らせた。話したがらないのには理由があるのだろうが、教えてくれても良い気がする。

「私はわかっているのかな。……どうして知っているのかわからないけど、知っていることってあるものでしょ」

 意味がわからない。テオは返す言葉がなく、黙り込んでしまった。

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