序章 此岸

Prologue

 最初に忘れたのは、自分の姿だった。


 それでも、彼の姿を忘れることはない。そして、彼が呼んでくれた自分の名前も。

 私は覚えている。我が子たちを、愛した人々を、彼らと過ごした思い出を。忘れたのは、自分の姿だけだ。そしてそれらの記憶は、哀傷に満ちている。


 誰か、此岸を彷徨い続ける私に、忘却の雨を降らせてはくれないか。

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