第7話

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 真司達はあかしや橋の前にある公園へと向かうと、そこには真司が見たことのある人が立っていた。



「あれ? あの人って、駅で会った……」



 そう。公園で立っていたのは真司が会ったことのある人物だった。

 その人物は真司達に気づくと「お、きたきた」と呟き手を小さく振った。



「やっほー。坊や、また会ったね♪」

「占いのお姉さん!」



 真司達の台詞に菖蒲と幸はキョトンとなる。



「なんじゃ。真司、お前さん美保志みほしのことを知っているのかえ?」

「い、いえ、知っているという訳では無いんですが……この前、駅で会って」

「そうなの。ちょーっと、占いに出たからね」



 そう言うと美保志は改めて真司と目を合し自己紹介を始めた。



「私は、片岡美保志かたおかみほし。会った時も言ったけど占い師をしているの。芸名は美しい星と書いて『美星みほし』よ。よろしくね」

「僕は宮前真司です。宜しくお願いします」



 深々とお辞儀をする真司に美保志は「中学生なのになんて常識ある子なの! 可愛い〜♪」と言って、真司を抱き寄せ愛でるように頭を撫で始めた。それを菖蒲が即座に引き離す。



「これ、美保志。やめい」

「あれあれ? もしかして、菖蒲さん嫉妬〜?」

「……黙らんと、その減らず口を糸で縫ってしまうえ」



 少し怒り気味に笑う菖蒲にさすがの美保子も慌てて「あはは、冗談冗談」と言った。

 真司は美保志と菖蒲が知り合いなことに驚き、美保子との関係を菖蒲に尋ねる。その間、幸は菖蒲の後ろに隠れこちらの様子をこっそりと窺っていた。



「菖蒲さんと片岡さんって知り合いなんですか?」

「うむ。美保志が真司と同じく中学生ぐらいの時に知り合っての。お前さんと同じく、実は美保志にも見える力があるのじゃ」

「えっ!?」



 菖蒲の言葉に美保志は「と言っても、私の場合はピッタリと自分との波長が合う妖怪だけなんだけどね」と言った。



「予知の力と見える力で、昔の美保志は真司と同じように周りには言えず、一人で抱え込んで塞ぎ込んでいた時期があったのじゃ。その様子を私はたまたま見かけての。ちと心配で声を掛けたのじゃ」

「そうそう、懐かしいなぁ。あの時は普通の人かと思ったけど、実は人じゃないって知って怖かったっけ。でも、親身に話を聞いてくれて私すごく嬉しかったのよね」



 語り合う二人に真司は唖然となりながらも「そうなんですか……」と言った。

 そして、ふと、真司は「菖蒲の後ろにいる幸のことも見えるのかな?」と思った。



「あの、もしかして、菖蒲さんの後ろにいる女の子も見えているんですか?」



 真司の質問に美保志はニコリと微笑み、幸はビクッと肩を上がらせる。



「もちろん♪ 初めまして、小さなお嬢さん」



 美保志は幸と目を合わすように膝を折り、腰を少し下げる。幸は緊張しているのか、よそよそしい様子でゆっくりと菖蒲の後ろから姿を現した。



「はっ、初めまして……です」

「その服、すごく素敵ね。可愛い♪」



 フリフリな着物を褒めてくれたことに、幸は一瞬にして顔がパァッと明るくなる。



「ほっ、本当ですか!?」

「うん。私、実はお裁縫が趣味なんだけど、あなたに合う服もいっぱい作りたいなぁ」

「えっ、本当!?」



 嬉しそうに話をする幸とニコニコと笑を浮かべながら話を続ける美保志の様子に、菖蒲も真司も二人の相性が良くてホッとする。



(幸ちゃんのことも見えるし、二人もいい感じみたいだし……良かった)



 それは菖蒲も思ったのだろう。菖蒲も二人を見ては「ふふっ」と小さく笑っていた。

 そして、二人の話が一通り終えると幸は菖蒲達に向かって頭を下げた。



「菖蒲様、有難うございます! 私、この方と一緒に行こうと思います!」

「私の家はボロ屋だから気に入ってくれるかは不安だけどね」



 苦笑する美保志に菖蒲は「大丈夫じゃよ。のう、幸?」と、幸の方を見て尋ねた。

 幸は元気よく「はい!」と、返事をする。



「家はもちろん私にとって大切ですが、またこうやって人と楽しい会話をできるだけで幸せです!」



 幸の嬉しそうな表情に菖蒲も真司もクスリと笑うと、美保志は「じゃぁ、そろそろ行こうか」と幸に言った。

 幸はまた元気よく「はい!」と返事をする。美保志は公園を出ようとした所で真司に伝えたい事があるのを思い出し、足を止めて真司の方を向き優しい笑みを浮かべた。



「宮前君、この世界にはあなたのような力を持っている人が存在するという事を忘れないで。私の友人にね、私とは違う不思議な力を持っている子がいるの」

「そう、なんですか?」

「うん。深海アリサっていうんだけどね。その子は霊感が強くて、妖怪ではないけれど幽霊を見て話をすることができるの。そして、見えない人にも霊を見せる力を持っているのよ」



 自分とはまた違う別の人や力の話を聞いて、真司は内心驚いていた。そして、興味津々な様子で美保志の話に耳を傾けていた。

 美保志は『深海アリサ』という人物の話を真司に続ける。



「その子は今、喫茶店をやりつつも困っている幽霊も人も助ける探偵事務所の仕事をしているの」

「霊も人も助ける……」

「うん。あの子にとって霊は、ホラー映画みたいな感じじゃなくて生前の時と何ら変わらないように見えるみたい。泣いて、笑って、怒って、悲しんで……だから、困っている霊も人も助けたいそうなの」



 苦笑する美保志は「私には霊は見えないけどね」と真司に言った。

 真司の心にスーッと風が吹く。今まで真司はこの力は『自分だけ』と思っていた。

 周りからは理解されることもないと。けれど、真司と少し似た不思議な力を持った人……美保志や香夜乃みたいな人が少なからず存在すると知って、真司は自分が『異端』ではないと知った。

 勇の主人である清太郎のように妖怪に関わる者もいる。

 この地上でどれぐらいの人が妖怪と関わりを持っているかわからない。けれど、真司は今まで出会わなかった普通の人とはどこか違う人と出会った。

 この出会いは、川から砂金を見つけるように貴重で稀だろう。真司は、この人達との出会いやそういう人がこの世界には確かに存在すると知って安心し、又、嬉しかった。

 美保志はそんな真司に微笑みかける。



「君は、これからもっと自分に近い人達と出会うことになるわ。だから、その力と一人一人の出会いを大切にしてね」



 その言葉は、菖蒲にも以前に似たようなことを言われたことのある真司。

 真司はあの時も、そして今もこの言葉をしっかりと受け止め「はい」と、返事をする。美保志も菖蒲も真司の返事に笑みをこぼすと、美保志は話を終えるように「さてと!」と言いながら手を小さく叩いた。



「それじゃぁ、幸ちゃん早速家に行こうか」

「はい!」



 幸は返事をすると美保志の手をぎゅっと握り、二人は歩き出したのだった。幸は歩きながら真司達の方を振り返り、空いているもう片方の手で手を振った。



「菖蒲様、真司さん、本当にありがとうございます! 私、落ち着いたら絶対にお二人に手紙を書きますから!」



 そう言って、幸と美保志は公園から去ったのだった。

 菖蒲は一息つくように「ふぅ」と小さく息を吐くと、真司の方を向いて「一件落着やったね」と言った。

 すると、真司は些細な疑問を菖蒲に話した。



「でも、菖蒲さん。片岡さんの事を知っていたなら、どうして最初から幸ちゃんと片岡さんを引き合わせなかったんですか?」

「今まで家から出なかった幸に『今の風景』を見せたかったからじゃ。家も街も昔とは変わった……座敷童子にも住みにくい物へと変わった。その事実に、澄江とは違う人間ともう一度手を取り暮らしてほしいというのを知って欲しかったのじゃ」



 微笑む菖蒲を見て真司は「そうだったんですか」と小さく呟き空を見上げた。

 青々とした空にゆっくりと流れていく白い雲。時の流れが違う以上は、また幸にも辛い思いがやってくる。それは、親しくなるほどに。

 けれど、真司は思ったのだ。いずれまた悲しみがやってくるかもしれないけれど、毎日を悲しむだけでなく、幸にとっては些細な時間でも幸せになってほしいと。

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