第3話
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午後の授業が終わり教科書等を鞄の中に入れる真司。
教科書を鞄の中に入れていると真司の肩を小さく誰かが叩いた。
「宮前君」
「え?」
叩かれた方に振り向くと、そこには水鈴が立っていた。
「おっ、大神さん!?」
「宮前君、今日日直でしょう? これ」
そう言って水鈴は真司に日誌を手渡した。
「あ、ありがとう」
「ついでに取ってきただけだから。それと……また、明日ね」
「う、うん」
水鈴は真司に日誌を手渡すと自分の席に戻り鞄を持って教室を出る。
水鈴からあまり話しかけられたことが無い真司は、ポカンとしながら水鈴が教室から去る姿を見つめていると海に何度も肩を叩かれた。
「真司、ついに大神さんと話したんか!? 羨ましい!」
「あはは……」
苦笑いをこぼす真司に遥も鞄を持って真司の隣の席に座った。
「まぁ、いつも一人で話す相手は先生ぐらいやもんな。昼休みも一人でどこかに行くし」
「気づいたらおらんくなるもんなぁ。ミステリアスや……でも、そこがいいよなぁ」
うっとりする海を見て呆れる遥。
遥は真司の方を向くと「日誌書くんやろ? 待っとくから」と真司に言った。
「あ、うん! 直ぐ書くから」
慌てて日誌を開き、今日のことを日誌に書く真司。
海も自分の鞄を持って遥が座っている前の席に座って遥と話す。
「にしてもさぁ、大神さんってなんであんな一人を選ぶんやろうな。ほら、最近、別の女子が大神さんをご飯に誘ったやん? それやのに大神さんはどっか行って一人でご飯食べることになったし」
「まぁな。一人が好きなんじゃないか? それか、なにか理由があったとか。まぁ、どちらにしてもそこから陰口とか女子同士のいざこざとか起こらんくて良かったよな」
「これが同学年からも愛される高嶺の花子さん言うやつか!」
「高嶺の花な」
海の間違いに躊躇い無くツッコミを入れる遥。
横の会話を聞いていた真司は、日誌を書きながらも苦笑していた。
そして、日誌を書き終えた真司は筆箱を鞄の中に入れ、椅子から立ち上がり鞄を肩に掛けた。
「お待たせ。もう、書いたよ」
「はやっ!?」
「んじゃぁ行くか」
遥と海も鞄を持って椅子から立ち上がると、真司達は教室を出て職員室へと向かった。
「でさ、大神さんさ。お昼休みおらんくなるけど、どこに行ってるんやろうな?」
「さぁ?」
「うーん……中庭とか?」
水鈴に興味が無く素っ気ない返事をする遥と水鈴がどこに行っているのか考える真司。
真司は水鈴のことを考える。
(確かにどこにいるのか気になるかも。でも……)
考えていた真司に笑みがこぼれる。
真司は水鈴がお昼休みに一人でどこに行くかよりも、水鈴から話しかけてくれたことが嬉しかった。水鈴との会話といえば挨拶ぐらいだったからだ。
仲良くなったわけでも友達になれたわけでもないが、真司は水鈴との距離が何となく近くなったような気がしたのだった。
「じゃぁ、日誌渡してくるよ」
「んー」
「行ってら」
職員室の前に着いた真司は日誌を持って職員室のドアを開ける。
「失礼します。えっと、先生は……」
職員室に入ると真司は稔を探すが、どうやら職員室にはいないようだった。仕方がないので日誌を稔の机の上に置き職員室を出る真司。
稔の机の上は整理整頓され綺麗だったが、目につく机の端には一口サイズのチョコレートが置いていた。
職員室の机の上にも甘い物を置く稔に真司は思わず苦笑すると、真司は職員室を出て海達と共に帰路へと着き、いつもと変わらずそのまま商店街へと向かったのだった。
海と遥と途中で分かれ商店街に向かうために橋へと向かう真司。
長い坂を下り公園と小学校を通り過ぎ、足谷池の横を通ると今度は急な上り坂を登る。そして、登った先にあるのは神社と荒山公園へと続く一本と渡り橋――あかしや橋がある。
真司は橋の前に着くと「あれ?」と呟く。
(橋の色が変わってる。塗り替えたんだ)
以前までは橋の高欄の色は赤みのかかった茶色だったが、今は浅葱色に変わっていたのだ。
最近塗られたのか高欄の所には『塗りたてなので触らないで下さい』と注意書きの紙が貼られていた。
「今日塗ったのかな? 前の色も地面と合っていて好きだったけど、この色もいいかも」
そう真司は独り言を呟くと、真司は周囲に人がいないことを確認し橋に一歩踏み出した。
そして、あやかしの商店街へと辿り着くと真司はいつも通り入り口近くに建っているお店の店主である山童や木魚達磨に挨拶を交わした。
「こんにちは」
「おぅ、お帰り!」
「んだ。おがえり」
山童は細い毛に覆われた腕を組みながら「そういや、姐さん達は今日は服屋に行くらしいで」と真司に行った。
「服屋ですか?」
「おぅ。なんでも雛菊のねぇちゃんの服を買いに行くらしいわ」
「そうなんですか。なら、お店にいないのかな……?」
このまま菖蒲のお店に向かうか悩む真司に木魚達磨がコロリと丸い体を横に傾ける。
「行っでみたらいいべ。居なかったら、また戻っで来ればいいべ」
「そうですね。じゃぁ行ってきます」
「またなぁー」
山童と木魚達磨に軽く頭を下げ菖蒲のお店へと歩き出す真司。そんな真司の背中を見送りながら、山童達は手を振っていた。
真司は商店街の表通りを暫し歩くと、途中から商店街の細い裏道を歩き店の玄関口へと向かい玄関の引き戸を開けた。
(あ、菖蒲さん達の靴がある。ってことは、家にいるんだ)
そう思っていると「おかえりなさーい♪」と言う声と共にドタバタと走る音が聞こえてきた。
真司はお腹に力を入れ、猪の如く真司に向かって突進してくるお雪を受け止める。
「ぐっ……た、ただいまお雪ちゃん」
「うん♪」
真司の胸に抱き着きパッと花のような笑みを浮かべるお雪。
「あのね、あのね、これから雛菊お姉ちゃんと菖蒲さんのお洋服を買いに行くの♪ だからね、真司お兄ちゃんはここで待ってて。一緒に行こう♪」
「これから?」
「うん! 真司お兄ちゃんの意見も聞きたいから、真司お兄ちゃんが帰ってくるの待ってたの♪」
「そうなんだ」
真司とお雪が話をしているとギシギシと板張りの床を歩く音が聞こえてきた。
「真司、おかえりんしゃい」
「おかえりなさい、真司さん」
「こっ、こんにちは宮前さん」
菖蒲に続き白雪・雛菊か玄関へと現れ真司に挨拶を交わす。お雪はいそいそと靴を履くと先に外に出て「早く行こう!」と楽しそうにしながら言った。
「あらあら雪芽ったら」
「久しぶりに服屋に行くからの。乙女は服と小物には弱いのじゃよ、ふふっ」
クスクスと笑う菖蒲と白雪も靴を履き外へと出ると菖蒲は真司の方を向いた。
「真司、お前も来んしゃい。男からの意見も聞きたいからの」
「はい。と言っても、僕、ファッションとかには疎いのでよくわからないし参考にならないかもしれませんが……」
「ふふっ、大丈夫じゃよ。雛菊に似合っているか否かを言うだけでもよい。のぉ、雛菊?」
靴を履く雛菊は顔を上げ「はい!」と元気よく返事をする。
真司は稔の為に人間の常識やお洒落にやる気を見せている雛菊が微笑ましくなり、自然と笑みをこぼしたのだった。
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