第7話
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――そして、お互いお菓子作りに試行錯誤をしていると、あっという間に勝負の日がやってきた。
勝負場所は商店街の一部に仮設ステージを建て行われることとなったのだ。
――パンパンッ
勝負開催の合図が聞こえる。
小豆の待合室には、菖蒲と真司。豆麻の待合室には、白雪と雪お雪、そして星とルナがいた。
「小豆ちゃん、緊張してますね」
ボソリと菖蒲に耳打ちする真司。小豆は椅子に腰掛け俯き、その手は微かに震えていた。
菖蒲もそんな小豆を見て小さく頷く。
「うむ。しかし、あの菓子はなかなかだと思うの~」
「確かにそうですね。花言葉をモチーフにしたお菓子の案、とても良いと思います」
真司がそう言うと、菖蒲はテーブルに置いてある小さな箱を小豆に手渡した。
「小豆」
「は、はい」
「これを持って、頑張るのじゃぞ」
小豆は小さく頷くと箱を一つ持って会場へと向かった。
また、真司と菖蒲もそれぞれの場所へと向かったのだった。
その頃の豆麻達はというと、豆麻が少し大きな箱を不安げな眼差しで見つめていた。
「あらあら、緊張しているようですね」
「うん!」
「……いい……出来。……だから……大丈夫」
「そ、そうだよな! 白雪姐さんが折角考えてくれた案だし、大丈夫だよな!」
豆麻の言葉にお雪が元気よく頷く。
「うん♪ それすごく可愛いよ~♪ 後、美味しそーう!」
「よしっ! 俺、行ってくるっ!!」
力強く頷くと豆麻達もまた、会場に向かったのだった。
――そして、勝負は始まった。
「さぁ〜、いよいよ始まりたぁ! 甘味勝負!! 果たして今回はどちらが勝者となるのか!? 因みに、司会を務めさせていただきますのが、天狗こと
「いいぞいいぞー!」
「小豆ちゃん、負けるなー!」
「豆麻、頑張れよ!」
歓声が響き渡る会場の中、小豆と豆麻は、それぞれのお菓子が入った箱を前に出しお互いにそれを交換する。
今回の勝負事はこうだ。
お互い作ったお菓子を交換し、口にしたことが無いというので、それぞれの味と見た目をお互いで評価するという流れである。そして、最終はそのケーキを妖怪達にも振る舞い、妖怪達にどれが良かったかを投票箱に入れる。味の点数、見た目の点数。より良い点数を稼げた方がこの勝負の勝者だ。
そして、その仲裁役としてテーブルの中央には菖蒲が座っていた。
小豆と豆麻は、それぞれ向かい合うように椅子に腰掛ける。そして、目の前に置かれている箱に手をかけ、そっと箱を開けた。
「「っ!!」」
小豆たちは出されたお互いのお菓子に驚く。
小豆の目の前にあるお菓子は、六角形の形をしたケーキ。しかし、それは普通のケーキではなく和風ケーキだった。
生地は、ほうじ茶の香りがするスポンジケーキでケーキの中央に抹茶クリームがあり、クリームは薔薇の形をしていた。
見た目はシンプルだけど〝和〟を忘れていないお菓子だった。
そして、豆麻の方にはグラス型のカップに入ったゼリーが目の前にあった。
ゼリーの中央には生クリームが小さく乗っており、ゼリーの中には立派なハナミズキが咲いていた。
お互い花をイメージしたお菓子に、小豆と豆麻は目を合わせる。
「……まさか」
「うそ、でしょ……?」
豆麻と小豆は花の意味を細かく調べ作ったのだからこそ、目の前に置かれている花の意味に理解した。
そして、恐る恐るお菓子を口に含む。
「っ!! すごく、美味しい!」
「え……? このクリーム、豆乳?」
顔を勢いよく上げ、小豆と豆麻は目を合わす。
「あんた……」
「小豆、お前……」
「おやおや〜? 何やら、二人の様子がおかしいですねぇ。一体、何があったのでしょうか?」
「し! お前さんは黙らっしゃい」
菖蒲に止められた天翔は「えーー」と、言って不貞腐れる。
「豆麻さん、今ですよ」
客席で見ていた白雪が小声で言った。
その後に続いてお雪や星、肩に乗っているルナまでもが豆麻を応援した。
「がんばれー!」
「……がんばれ」
「にゃー!」
豆麻は白雪達に黙ったまま頷くと、真剣な顔をして小豆の傍まで歩み寄る。
「な、なんやねん……」
「小豆……! お、おお俺……俺っ……お前が好きだっ!!」
その台詞に事情を知らない妖怪達は呆然となる。会場が少しシンと静まり返ると、今度はもの凄い歓声が辺りに響き渡った。
「おーっと!! これはこれは!! まだ始まったばかりなのに、なんと、ここで告白です!! 青春です!!」
「いいぞー!」
「よく言った!!」
「いやーん、私の豆麻く~ん!」
「小豆ちゃんも頑張れー!!」
歓声は止むことなく続いていた。
そして、菖蒲の静かにしなさいという意味を感じ取ったのか、菖蒲が片手を上げると会場は再び静かになる。
(菖蒲さん、すごいな……さっきまでの歓声を一気に静かにさせちゃった……)
会場が静かになると、菖蒲は小豆を見て口を開いた。
「して、小豆よ。豆麻はお前さんに想いを打ち明けた。ま、その菓子を見ればわかるやろうが、お前さんもそれに答えなければな」
「は、はいっ……!」
小豆は、緊張した面持ちで頷くと豆麻を見る。目があった豆麻は、恥ずかしくて目を逸らそうとしたが、それは駄目だと思い、目を逸らさなかった。
「豆麻……ウッ、ウチも……ずっと、ずっとな……す、好きやっ! 素直になれんかったんやーーっ!!」
叫ぶように"好き"と想いを伝える小豆の顔は、苺のように真っ赤になっていた。
もちろん、それは豆麻も同じだった。
豆麻は恐る恐る小豆の手を握る。
「あ、小豆。俺……素直になれなかった。ごめん……」
「ううん。ええんよ……」
菖蒲と会場で見ていた真司達は、手を握りあって恥ずかしそうに微笑んでいる二人の姿にホッとし、自分達もまた微笑んだ。
(よかったね、二人共)
会場は、歓喜する妖怪や感動して泣く妖怪などがいた。
こうして、この甘味の勝負事は呆気なく幕を閉じたのだった。
え? 結局、どっちが勝ったのかって?
それは、両者引き分けである。何せ、それぞれのお菓子には和と洋が入り交じり、何よりも、〝愛〟が詰まった美味しいお菓子だったのだから。
(終)
next story→四ノ伍幕~仲良し~
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