第6話

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 その頃の菖蒲達はというと、さすがに甘い物続きで少々胸焼けを起こしていた。


「さすがに私でもキツいのぉ……」

「右に同じくです……」

「おっ、お二方、申し訳ありません……」


 真司と菖蒲はお互い目を合わせると苦笑いする。


「気にせんでええ」

「そうですよ」


 真司は、一息つくために畳に手を付き何もない天井を見上げる。


「……それにしても、こうも色々あると決められないですねぇ」

「そうやのぉ。うーむ……」


 菖蒲は手を顎にやると何かを思いついたように小豆の名前を呼んだ。


「そう言えば、小豆よ」

「は、はい! なんでしょうか!」


 小豆は慌てて正座をし菖蒲に向き直る。何やら緊張しているようだ。

 真司は、小豆のそんな様子を見て「やっぱり、菖蒲さんって位の高い妖怪なんだなぁ」と、つくづく思った。

 白雪も勇も、そして隣にいる小豆さえも、周りの妖怪達は菖蒲のことを『ねぇさん』と呼んだり様を付けしたりする。そして何かが起こると、こうやって菖蒲に頼っているのだ。

 時には顔色を窺いつつ話をする妖怪もいる。真司は改めて菖蒲の正体について考えた。


(結局、いつも菖蒲さんの正体を聞き逃すし……一体、菖蒲さんの正体は何なのだろう? 想像がつかないなぁ)


「小豆。お前さんは、豆麻のことをどう思っとるのじゃ?」

「……へ?」


 唐突な質問に小豆はもちろん隣にいた真司も目が点になる。そして、小豆はカッと目を見開いた。


「そりゃぁ、腹立ちますよ! 小豆を馬鹿にして!! 小豆だって和菓子として皆様に愛されているのにっ!」

「いやの、そうじゃなくて……つまり、豆麻のことを好いておるのか否かを聞いておるのじゃ」


(あー。やっぱり……)


 真司は菖蒲が言いたいことが何となくわかり苦笑する。何せ、勇の時も直球で聞いていたからだ。

 小豆は、またもや目が点になると、今度は顔が首から段々と赤くなっていった。


(この反応は……)


「ほぉ」


 菖蒲も真司も、小豆の反応に何となく察しがついた。


「そ、そそその……べ、別にウチはっ!……はぅ」


 否定しようにも菖蒲の前だからか、それとも自分の気持ちに嘘を付けないのか、小豆は小さな声で「……はっ、はい。す、すすす好き……です……」と言った。


「あ、やっぱり」

「やはりの」


 菖蒲たちがほぼ同時に言うと、その言葉に小豆は大層驚いた。


「え、えええっ!? あ、あああの、お二方は私の気持ちに気づいてっ!?」


 二人はお互い目を合わせると同時に小豆を見る。


「ま、まぁ……さっきの反応を見れば」

「そりゃぁの~。お前さんらとは付き合いも長いし、私を誰やと思っとるんえ?」

「は、はぅ……恥ずかしいです……」

「でも、好きなら、なんでいつも喧嘩を?」


 真司の言葉に小豆は目を泳がせ慌てふためく。


「べっ、別に好きで毎日喧嘩をしているわけちゃうんですっ!」

「お前さんも素直に慣れない妖怪というわけじゃな」

「うっ……」


 どうやら図星をつかれたらしい。


「それならいい機会ですし、この勝負で告白したらどうですか?」


 真司の唐突な案に、菖蒲は小さく頷いた。


「うむ。私も今し方それを言おうと思っとったところじゃ」

「ええええ! こ、ここ告白!? む、無理ですっ、無理ですーっ!」


 小豆が慌てて首を振ると小豆が菖蒲に喝を入れた。


「黙らっしゃい!」

「ひゃうっ!!」


 ピシャリと菖蒲に怒られ、小豆は怯えた犬や猫のようにシュンと俯き肩を下げた。

 真司は菖蒲が誰かに対して怒ったことに目を見張り驚いていた。


(あの菖蒲さんが、怒った……?)


 真司が言葉を失っている中、菖蒲は小豆に話を続ける。


「ええか? 小豆。私はの、おたが……いや、えーと……あれじゃ! お前さんが、うじうじとしているのが見ていられんのじゃ!」


 うっかり豆麻が小豆に対しての想いを言いそうになった菖蒲は慌てて言い直す。

 小豆はそのことには気づかず「うぅ。わ、わかりました……」と、渋々返事をした。

 そんな小豆に菖蒲は話を続ける。


「こうも喧嘩してたら、それこそ想いなど一生伝わらぬし届かぬぞ! 妖怪なら、妖怪らしくせい!」

「は、はいですっ!!」


 またもや喝を入れられ、小豆は背筋を伸ばし大きな声で返事をした。


「うむ! そうと決まれば、想いに溢れた菓子を作るえ!」

「は、はいっ!」

「僕も手伝うよ、小豆ちゃん」


 真司の言葉に小豆が胸の前で手を組み、救いの神が現れたかのような表情をした。


「真司さん……! 菖蒲様、真司さん、ありがとうございます! ウチ、頑張りますっ!」


 こうして菖蒲達もまた、想いを伝える為のお菓子を作ることとなったのだった。

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