これから_1

 ―白。

清潔感のある白い天井と、薬品のにおい。

ここは病院か?


 相変わらず身体が重い。

目だけを動かし、周囲を見る。

病室のベッドに寝かされているようだ。

虹色に光る液体を点滴されている。

部屋の隅に置かれた椅子で、私服姿のルイスが本を読んでいた。


 どうにか体を動かし、起き上がろうとする。


<<おいおいおい!キョウ!目が覚めたのか!>>


 気づいたルイスに補助され、体を起こした。


「ここは病院か?どのくらい寝てた?」

<<ここはパークセントラルの病院。ラボに併設されてるんだ。作戦中も含めると、寝てたのは3日くらいだな。ちょっと待ってろ、先生を呼んでくる>>

「ああ…」


 まだ少しボーっとする頭で周囲を見回す。

点滴のチューブが右腕に伸びている。

視線を下げたとき、視界の端に黒いふさふさが入り込んだ。


「!?」


 コヨミのしっぽ。

手触りも、記憶にあるものと同じ。

おかしいのは、触るとくすぐったいという感覚があるということだ。

恐る恐る、しっぽの根元へ向かって視線を動かす。

オレ。

オレの尾骨の辺りから生えている。

しかももう1本。辿ってきたしっぽの反対側へ伸びている。

入院着にはしっかりとしっぽを通す穴がついていた。


 さっきまでは気づかなかったが、頭にも違和感がある。

もふっ。

これも懐かしい感覚。

ピンと立った猫の耳。

もしかして、フレンズになってるのか!?


 待て待て待て、慌てるな。

一番大事なことを確認しよう。

…あるべきものはある。ないものはない。

よかった。

いやいいのか!?


「キョウさん!」

「はい!?」


 2本のしっぽがビクっと跳ねあがり、ふにゃりと倒れた。


「あっ、ごめんなさい、驚かせてしまって」


 勢いよく入室してきたカコ博士が謝る。


「だ、大丈夫です」

「その様子だと、もうお気づきのようですね」

「まあ…」

「まずは確認を…あら?」


 カコ博士が白衣のポケットを探り、何かを探す。


「カコ博士、速すぎです…忘れ物をしていくなんて、らしくないですよ」

<<俺はちょっとわかるな>>


 ミライさんとルイスもやってきて、ミライさんがカコ博士に手鏡を渡す。


「ご、ごめんなさい。つい、ね?はい、キョウさん。自分の姿、よく見てみて」


 カコ博士から手鏡を受け取る。

頭には黒と白の猫耳。鏡で見て初めて気づいたが、左目もコヨミと同じ黄色っぽい目に縦に細い瞳孔の、まさしく猫の目になっていた。

無意識に2本のしっぽがゆらゆらと揺れてしまう。


「うう、羨ましいです…!」

「ミライ、ややこしくなるから我慢してね?」

「わ、わかってますよ!?」


 そう言いつつも、カコ博士も興味津々という様子でオレを見てくる。


「よかったら、何があったのか聞かせて貰えないかしら?」


 カコ博士は研究者モードに入ってしまったのか、いつもと口調が少し変わってきている。


「構いませんが、その前に1つだけ教えてください」

「ええ、もちろん」

「…サーバルは?」

「無事よ。サンドスターを消費しすぎたときの症状が出ていたから、相当無茶をしたみたいだけど。昨日、目を覚ましたわ。ただ、とても話を聞ける状態ではなくて…あの山と、セーバルのことがわかるのが、あなたしかいないのよ」

「わかりました」


 サーバルが無事なのはよかった。立ち直るにはもっと時間が必要かもしれないが…

オレはあの結晶の中にセーバルがいることや、サーバルが結晶の中のセーバルを助けようとしていたこと、そしてコヨミのことなどをカコ博士に全て話した。

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