ショッピングエリア_5

「いらっしゃい…って、セーバルとキョウじゃない。何か忘れ物?」

「いや、サーバル達と合流できたんだが、セーバルが食べたパンケーキをみんなも食べたいそうでな」

「ボブキャット!久しぶり!」

「調子はどう?」


 サーバルとカラカルが猫ように右手首をクイッと動かして挨拶する。

ネコ科のフレンズの挨拶の仕草だろうか。かわいい。


「まあまあよ。大きいテーブルに案内するわね。その荷物はこっちで預かるわ」

「ありがとう、助かるよ」


 隊長はようやく大量の荷物から解放された。一時的にだが。


「みんなのご注文はパンケーキでいいのね?」

「うん!」

「セーバルも!」

「セーバル、また食べるのね…」

「キョウも食べる?」

「いや、オレはいい…飲み物だけもらおうかな」


 なかなかボリュームのあるパンケーキだったので、流石にきつい。


「わかったわ。またコーヒーでいい?」

「他になにかおすすめはあるか?」

「ジャパリカフェのオススメは紅茶ね」

「じゃあそれで」

「ワタシ達も紅茶で!」

「かしこまりました」


 ボブキャットが厨房に入っていく。


「キョウ、いいものを見せてあげるわ」


 隣に座ったカラカルがデジタルカメラを取り出す。


「ポチポチっと…よし、おっけー」

「これは…」


 カラカルはカメラのギャラリーを開く。

保存されていたのは、ショッピング中の写真だ。

お土産屋で謎の置物を選ぶサーバル。なんだこれ…

サーバルの顔出し看板に顔を突っ込むサーバル。ただのサーバルじゃないか…

色々な衣装でポーズを決めるサーバル。かわいい。

恥ずかしそうな顔でナース服を着ているカラカル。


「しまったッ!消してなかった!あれ、パスワード?なんで!?」


 カラカルが慌てて写真を削除しようとするが、カメラはパスワードを要求した。


「くっ、ミライさん…タダで貸してくれたと思ったら、こんな仕掛けを…そうよね、ミライさんがフレンズの写真を1枚たりとも逃すはずないわよね…」


 カラカルはプルプルと震えながら呟く。


「まあ、なんだ、この写真もかわいいと思う…ぞ?」

「うん…ありがと。後でアルバムにするから、キョウにもあげるわ。この写真は絶対、未来永劫入れないけどね!」


 決意に満ちた声。もはやかける言葉は見つからない。


「お待たせ。パンケーキ、できたわよ」


 タイミングよくパンケーキが到着した。


「やったー!いただきまーす!」


 サーバルの無邪気な声が気まずい空気を洗い流した。



「はい、紅茶もどうぞ」


 白いカップに、澄んだ美しい赤色が映える。

一口飲むと、優しい甘さが幸福感を与える。

茶葉の香りも良い…が、自分の知る紅茶とは少し違った香りがする。


「お砂糖の代わりにメープルシロップが入ってるのよ」

「ああ、それの香りか。毎日でも飲みたいな」

「紅茶のティーバッグがあるから、いくつかあげるわ。でもお店にも来てね」

「助かる。オレがパークのスタッフだったら常連になるだろうな」

「ふふ、ありがとう。ヒトが来やすい立地の支店には、常連のスタッフさんもいるわよ」


 きっと自分が考えるよりずっと大変だと思うが、ここで働き、フレンズと過ごすのはとても幸せそうだ。



「ふぅー、ごちそうさまでした!」

「幸せな気分です…」

「おいしかったわ。『百獣の王の一族』の子達を連れて、また来てもいい?」

「ええ、もちろん大歓迎よ」


 トラの表情がだいぶ緩んで見える。恐らく普段あまりしなかったのであろう集団行動で緊張しているようだったが、少しずつ慣れてきたようだ。


「おなかもふくれたし、セーバルの服を見にいこー!」


 意気揚々とサーバルが先導する。

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