異世界。勇士と妹
商店街にある、ファーストフード店。
カウンター内には恰幅の良い男性店員が立っており、そこへ銀髪の少女がやってきた。
「おっ、カレンちゃん! また来たのか!」
「うん」
「今日は何にする?」
「照り焼きハンバーガーを二十個」
「二十個!? 随分多いな」
「孤児院の子供達にも持って行くから」
「そうか。毎度ありい!」
カレンは料金を支払い、しばらくすると大きな紙袋を受け取った。そしてすぐさまハンバーガーを一つ取り出し、包みを開けてかぶりつく。
「なあカレン、いつまで食べ歩くんだ。さっさと買い物して帰ろうぜ」
「ていうか何であんた店員さんに覚えられてんの? 毎日来てるの?」
そばにいたヘンゼルとユイリスが呆れながら言う。
「だってこの街のご飯、美味しいんだもん」
「ほんとあんたは食いしん坊なんだから!」
「む……」
カレンはもぐもぐと食べ物を頬張り、リスのように両頬を膨らませている。
そこへばたばたと五人の若者たちがやってきた。
「おい! 勇士のリーダーはどこにいるんだ!?」
「銀髪の美少女なんてどこにもいないじゃないか!」
「銀髪のリスみたいな女の子ならいるけどこの子なわけないし!」
若者たちはきょろきょろと辺りを見回している。
「あなたたち、この辺で銀髪の美少女を見てない? 勇士のリーダーらしいんだけど」
「……いや、見てないよ」
一人の女性が尋ねてきたので、ヘンゼルはそう答えた。
ちらっとカレンの方に目を移すと、彼女はもぐもぐとハンバーガーを食べ続けている。
ファーストフード店の男性店員は知らないようだったが、カレンは戦場では常に最前線で戦うため、いつの間にかそれなりに有名になっている。
別の街ではカレンが住民に囲まれて大変だったこともあったので、適当にごまかした。
ちなみにヘンゼルとユイリスは基本的に戦場には出ないため、元エルドラード領ではあまり顔を知られていない。美優に至っては敵性人物との接触は皆無で、ほとんど存在も隠されている。
「そっか、ありがと。ねえみんな、見てないって!」
女性はたたたっと仲間のところへ戻っていった。
「もうどっかへ行っちまったのかな」
「ガセネタだったのかも」
「一応あっちの方を探してみよう」
「そうね」
若者たちはばたばたとどこかへ走っていった。
ヘンゼルは彼らの後ろ姿を呆然と見送る。
「ぷっ。あの人たち、あんたのこと探してたんじゃないの?」
「そうみたいね。何故か気付かれなかったけど」
ユイリスが小馬鹿にしたように言うと、カレンはハンバーガーを飲み込んで答えた。
「いや、あんたがそんなもん目一杯頬張ってるからでしょ……」
「目の前にいるのにわからないんだな……」
ユイリスとヘンゼルは残念なものを見るような目をカレンへ向けた。
そこへ、今度は近くにいた別の少女が近付いて来た。同い年くらいの少女だ。
「ねえ……あなたは見かけない顔だけど、この街の子じゃないよね?」
「ああ。この街には最近来たけど?」
少女が声を掛けてきたので、ヘンゼルは答える。
「ふーん……良かったら、私が案内したげよっか?」
「え? いや、別にいいわ」
「むぅ……」
ヘンゼルが断ると、女の子は不満そうに頬を膨らませた。
「ちょっとヘンゼルさん。これって逆ナンってやつじゃないですか?」
「え、そうなの?」
そばにいたユイリスに言われ、もう一度少女を見る。
少女は何やら頬を赤らめながら、上目遣いでこちらを見ている。
「遊びに行って来ればいいじゃないですか。コウスケさんも何日かお休みだって言ってましたし」
「いやいいよ。まだやることもあるし」
「もったいないですね。可愛いのに」
ヘンゼルが「ごめんね」と謝ると、少女は残念そうな表情でどこかへ行ってしまった。
「全く、ヘンゼルさんは相変わらずですね」
「俺は忙しいんだよ。内政のために上層部の人間を呼び出さないといけないし」
「そうなんですか。大変ですね」
占拠した街の内政に関してはほぼランパール王国の上層部任せだ。幸介の部隊とそれに協力している軍部が次々と城を落としていくので、上層部はかなり忙しいとのことだ。
幸介は大体は上層部と相談し、前もって呼ぶ人物を決めているらしい。
しかしたまに用事があるときに適当に知り合いの大臣を呼び出すと、『勝手にワシを呼び出すなと言うとるだろうが!』と、ヘンゼルも一緒にぐだぐだ文句を言われたりする。
「つーかお前はどうすんの?」
「私は孤児院の子供に変身してコウスケさんに甘えるので忙しいです」
「またかよ」
ユイリスが後ろ手を組みながらしれっと言うのを見て、ヘンゼルは呆れた。彼女は毎度子供に変身し、幸介に甘えているのだ。
「とりあえずカレンは放って置いてさっさと買い物して帰りましょう。まだ食べ歩くつもりかもしれないですし」
「そうだな。帰って来なかったら後で呼び出すわ」
二人はお喋りをしながら歩き出した。
クリスティーナは呆然となっていた。
探していた妹がそこにいたのだ。
安堵と同時に混乱していた。
隣にいたアレックスが銀髪の少女へ視線を向けながら言う。
「あのもぐもぐ食べてるのがリーダーで勇士ナンバー1のカレン・ウォルコットだな。かなり有名人でさらに美少女だから人気もある。何も食べてなければだが」
「ふーん……」
妹のことで呆然となっていたが、適当に相槌を打ちながら銀髪の少女へ目を向ける。
少女は思ったよりも幼く、鬼のように強いなどとも思えない。
「で、俺の調査によると、あっちの銀髪の少年の方が勇士ナンバー3のヘンゼル。金髪の少女は勇士ナンバー10のユイリスだ」
「は?」
思わずそんな声が漏れた。そしてアレックスの方を見る。
「今何て? 金髪の少女の方」
「だから、勇士ナンバー10のユイリス。仲間の中では新参者らしいな。それがどうした?」
「……マジ?」
やはり聞き間違いではなかったようだ。
つまり妹は現在エルドラードの街を次々と占拠している『救済者』の仲間。勇士のメンバーだということだ。
再び妹の方へ目を向けると、二人は銀髪の少女を放ったままどこかへ向かおうとしている。
「ちなみにナンバーは指揮系統の順番で、カレンは『救済者』の命令しか聞かないらしい」
「そう……詳しいわね……」
「がはは。取材の成果だ」
妹から視線を移さずに相槌を打つとアレックスは得意げに笑った。
彼の言葉は、あまり頭に入って来なかった。
(つまりあの子は行方不明の間に『救済者』の仲間になってて、しかも指揮系統でナンバー10!? 絶対舐めてる……!)
「あのクソガキ……さんざん心配させといて……」
「へ?」
クリスティーナが顔を顰めて呟くのを見て、アレックスは戸惑う。
クリスティーナは駆け出した。
二人の背中に近付くと、銀髪の少年の隣を呑気に歩く妹の肩に手を置いた。
「ちょっと! こら! ユイリス!」
ユイリスは振り向くと、驚いたように目を見開いた。
「げっ……クリスティーナ姉様!?」
「え? 姉様?」
隣に居た銀髪の少年も驚いている。
「あんた何してんの!? こんなところで! 心配したじゃない!」
「ごめんなさい! 実は世界平和のために協力を!」
「ちょっと来なさい!」
「うえぇぇ!?」
クリスティーナはユイリスの首元を掴み、ずるずると引きずる。
「わー! わー! ごめんなさい!」
「言い訳なら聞くわ。全部話しなさい」
手足をジタバタと動かしてぎゃーぎゃー喚く妹をそのまま引きずっていく。
周りの通行人たちも、何だろうとざわつきながら視線をこちらへ向けている。
「ヘンゼルさん助けてください! やばいです死にます!」
「……いや無理だよ、何か怖いもん」
ユイリスが抵抗しながら言うが、銀髪の少年は助けに来ない。
「うえぇ〜ん! じゃあ後で呼び出してください! でないと何日も説教地獄が……!」
ユイリスは引きずられながら必死に叫んだ。
「え、説教されるの? 何日も?」
銀髪の少年は呆然と呟く。
妹を引きずりながらとりあえず人の少ないところへ移動しようと歩いていると、アレックスが戸惑ったような表情で近付いてきた。
「あ、妹を探してくれるっていう話はもういいわ。見つかったから」
「えっ、見つかったの? マジで?」
アレックスは驚いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます