不良グループ

……

……


 今日、私は自宅へやってきた恋人から酷い暴力を受けた。彼と別れようとしたことが受け入れられなかったらしい。


「何でわかってくれない!?」

「やめて……がはっ!」


 顔を本気で殴られた。


 鈍い音がして、私は倒れた。倒れてうずくまると、腹部を思い切り蹴られた。


 暴力は今までに何度もあったが、今日が一番酷かった。何度「やめて!」と叫んでも、やめてくれなかった。


「お前は俺の言うことを聞いていればいいんだよ!」

「ゔっ……」


 何度も顔を殴られ、体を蹴られた。


 激しい痛みに襲われたが、殴られ続けていると何も感じなくなった。


 いつの間にか、私は意識を失った。


 

……

……



 すでに亮太と夕菜は帰宅しており、病室内には愛梨と眠ったままの母親の二人きり。


 外は暗いが、夕菜のことは亮太が送ってくれると言っていたので大丈夫だろう。


 愛梨は痛々しい姿になった母親のそばに腰掛け、手を握っていた。


 母親をこんな目に遭わせたのは、あの男に違いない。彼女の恋人である男、小沢だ。


 今までにも何度も絵梨に暴力を振るっていたし、彼女が別れようとした途端にこの有り様だ。彼のことが本当に許せない。



 愛梨が見守る中、絵梨はゆっくりと目を覚ました。顔の左側は包帯を巻かれているので、右目だけが薄く開かれている。


「愛梨……」

「……! お母さん……!」


 愛梨は涙を浮かべながら母親を呼んだ。


「……ここは?」

「病院だよ……」

「そう……」


 絵梨はゆっくりと自分の顔に触れ、現状を把握していく。頭から左目にかけて巻かれた包帯を確認した絵梨は、ゆっくりと左手を下ろした。


「痛くない?」

「……うん」


 彼女の左目は失明していると医者から聞いた。しかし、今はそのことについて話す気にはなれない。絵梨も知ってか知らずか、それを口にする様子はない。


「あいつに、やられたんだよね……?」

「……」


 絵梨は悲しげな表情のまま、何も答えなかった。


「心配したんだよ……?」


 頬に流れる涙を拭いながら言う。


「愛梨……ごめんね」

「……うん」


 愛梨は再びゆっくりと絵梨の手を握った。母親の手は震えていた。暴力を振るわれたときのことを思い出したのかもしれない。


「ねえ。もう、あいつには会わないよね……?」

「……そうね。彼の連絡は拒否するから、私のスマホを頂戴」

「うん……あれ?」


 愛梨が手を伸ばそうとした先には、母親のスマホはなかった。


 絵梨の私服のポケットに入っていたスマホは、そばの棚に置いたはずだ。それがいつの間にか無くなっている。


「お母さんのスマホ、ここに置いたと思ったんだけど」

「そう……じゃあ、後でいいよ」

「うん……」


 置いたはずの場所にスマホがなかったことに少し違和感を感じたが、後回しにした。今は母親のことで頭がいっぱいだ。


 彼女が目を覚ましたことは嬉しい。しかし、彼女の左目は失明している。もう取り返しがつかない。


 


※※※




 倉科駅東口エリアにある、だだっ広い整備された公園。周りには木々が生い茂っており、真ん中には噴水がある。


 すでに辺りは暗く、複数の街灯が公園内を照らしている。


 そこにたむろっているのは、いかにもガラの悪そうな数十人の不良たち。


 煙草を吸いながら仲間とだべる者。派手な女といちゃつく者。先程別の場所で男性から巻き上げてきた金を数えている者など様々だ。


 そんな不良たちの中に、長い金髪をオールバックにしている、細身で見るからに不健康そうな男がいた。グループのリーダーで名前は古谷。地べたに腰を下ろし、数人の男女に囲まれている。


「古谷さん、何か駅の東口辺りで警察がうろうろしてるらしいっスよ」

「あ? 何で?」


 そばにいた側近の男に訊き返す。


「何かメンバーがオヤジ狩りの最中に刺しちまったらしくって」

「おいおい、何やってんの。そりゃ警察も動くよ?」

「でも古谷さんのコネでてきとーに揉み消せるんじゃないんスか?」

「ばーか。殺しちまったらさすがに無理だっつの」


 そう言って古谷が煙草を咥えると、側近の男は「どうぞ」とライターで火を付ける。


「とにかくお前は誰が刺したのか調べてこい」

「了解っス」


 側近の男は立ち上がり、古谷のそばを離れていった。


「古谷さん」

「ん?」


 次に古谷に近付いてきたのは、先程まで別の仲間とだべっていた黒髪で短髪の男。グループの幹部。男は古谷のそばでしゃがみこんだ。


「大麻の売れ行きが好調ですよ。一緒にあの粉をばら撒いてるおかげで高く売れてますし」

「そりゃ朗報だ」


 古谷は「ふっ」と微笑する。


「あの金色の粉は何なんですか? あんなクスリ見たことないんですけど」

「俺も詳しくは知らねーよ。とにかくばら撒けって言われてるだけだから」


 古谷は気怠げな表情で煙草の煙を吐く。


「その代わりに大麻の方は見逃して貰えてるんですよね?」

「そーそー。あの粉は使わねー方がいいよ? マジでヤバそうだからさ」

「そうなんですか……メンバーにも使用禁止を念押ししといた方がいいですかね?」

「この前言ったからもういいよ。やる奴は何言ってもやるだろうし」

「わかりました」


 そんな会話をしている古谷たちの近くには、茶髪を立てた男が浮かない表情でうろうろしていた。名前は木島。



 しばらくすると木島のスマホが鳴った。

 木島は古谷たちから離れると、スマホを耳にあて、小声で話し始めた。


「おい。リーダーの近くに来たぞ。次は何をすればいいんだ」

『もういい。戻って来い』

「は!? どういうことだよ!?」

『いいから戻って来るんだ』

「金はちゃんとくれるんだろうな?」

『ああ。残りの五十万を渡す』

「わかった」




 話し終えた幸介は公衆電話の受話器を置き、人けのない路地へ向かう。


 木島の視界は美優が監視しているので、彼はリーダーを見るだけでいい。


 先程木島が一人でいるときを見計らって彼に接触し、交渉した。


 最初は目の前に現れた幸介に怯えていたが、金を渡すと素直に従った。



 しばらくすると木島が戻ってきた。


「おい! リーダーに何か用があるんじゃないのか?」


 木島は少し苛立った様子で言う。

 彼にはリーダーの近くへ行けとだけ言ってあった。


「それはもういい。確認だがリーダーは長い金髪の男で合ってるな?」

「え? ああ……そうだけど……」

「じゃあそいつと話してた黒髪の男が幹部か」

「見てたのかよ。ああ、そうだ」


 不良グループのメンバーはリーダーの命令なら聞くとのこと。しかし実際にリーダーからの指示をメンバーへ伝えているのはほとんどが幹部の男らしい。


「よし。これは残りの金だ」


 そう言って幸介は札束を木島に渡した。金額は五十万円。先程も前金として同じ額を渡していたので、合計で百万円。もちろんカレンがある場所から召喚した金だ。


「おお! マジかよ! ほとんど何もしてねーのにいいのか!?」

「ああ。じゃあな」


 そう言って木島と別れた。


 その場を離れた幸介は、近くの目立たない場所で待っていたカレン、美優と合流。


「美優、リーダーは長い金髪の男だ。顔は覚えたか?」

「はい。大丈夫です」

「じゃあそいつを監視して。カレンはそいつが人けのないところへ移動したら拘束しろ。殺すなよ」

「二、三人で行動した場合は?」

「構わずやれ。俺もサポートする」

「了解」


 カレンは表情を変えずに答えた。


 銀髪碧眼の少女、カレン・ウォルコットはエルドラードを滅ぼしたメンバーの中では最強の戦闘員だ。


 自在に召喚出来る剣と銃、動きの速さ、そして索敵能力を使い、圧倒的な戦闘能力を発揮する。もちろんたかが不良グループのリーダーに不覚を取るはずがない。


 幸介はスマホを取り出して秋人に発信。


『もしもし』

「小沢はどうだ?」

『まだ現れない』

「じゃあ姿を確認したら連絡してくれ」

『了解』



 しばらくすると、カレンは不良グループのリーダーである古谷の拘束に向かった。

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