何か変じゃん

 日曜日の午後。


 幸介と美優は、施設『虹色園』で過ごしていた。


 夕方になるとどこかへ遊びに行っていた子供たちも帰宅しており、好きなようにテレビゲームをしたり、学校の宿題をやっている者もいる。


 今日は玲菜は来ておらず、ソファに座る幸介の膝の上を唯がキープ。くっついたまま、ほとんど離れない。


「ねーねー、幸介さん」


 胸にピッタリとくっついてきた唯が、上目遣いでこちらを見上げる。


「ん? どうした?」

「私ね、今、料理の練習をしてるんです。留美さんと小夜さんに教えて貰って」

「へー。何で急に?」

「まあ花嫁修業ですね」

「いや、お前早過ぎない?」


 彼女はまだ九歳の子供だ。料理に興味を持つことはあるだろうが、花嫁修業とか言う年齢ではないと思う。


「そんなことないですよー。だって幸介さんもご飯が美味しい方がいいでしょ?」

「そりゃまあそうだけど」


 確かにご飯が美味しい方がいいというのは間違いない。こちらの世界へ戻ってきたばかりのときも、沙也加の作るご飯が美味くなっていたので、いい方向に驚いたのを覚えている。


「だから、今度食べて下さいね」

「ああ。楽しみにしてるよ」

「はい」


 唯の頭を撫でてやると、彼女は頬を赤らめて嬉しそうに抱きついてきた。


「むぅ」

「あら。どうしたんですか? 美優さん」


 隣に座る美優が頬を膨らませていると、唯は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべた。


「ゆ、唯ちゃん。ちょっとくっつき過ぎじゃない?」

「いいじゃないですか。私はまだ小学生の子供ですよ?」

「む……」

「それに、毎日幸介さんと一緒に眠ってる羨ましい人には言われたくないです」

「なっ、何でそれを……!?」


 美優が驚いて訊き返すと、唯は「あ、しまった……」と口を押さえた。


 美優はじーっと怪訝な視線を唯に向ける。


「いや……誰かに聞いたような気がするんですよ」

「ふーん……何か怪しいのよね、あんた」

「な、何がですか……?」


 唯は何やら焦ったように目を泳がせると、美優はそんな彼女にジト目を向けた。


「あまり子供っぽくないし、雰囲気や口調が誰かに似てるのよ。お兄ちゃんもそう思いませんか?」

「ふむ。そう言えば、誰かに似てるような……」

「わー! わー! 何を言ってるんですか。こんな感じの子は世の中にいっぱいいますよ!」

「そ、そうか」


 何故か焦りまくる唯に呆れつつ答える。


 そこへ、五歳児の鈴がとことこと近付いてきた。


「ねーねー、みゆちゃん。何かお話して」


 鈴はにっこりと笑顔を向けてきた。


「あ、僕も聞きたい」

「私も」


 鈴の発言を聞いて、そばにいた年少の子供たちが嬉しそうに顔を上げる。


「えー。でもみゆちゃんのお話って何か変じゃん」


 一人の少年が顔を顰めて反論した。


「何で? 面白いよ」

「そうそう」


 こちらの少年と少女は美優の話を好きなようだ。


「私の話のどこが変だって言うの?」

「だって本の話と違うもん。この前も変なかぐや姫の話をしてたし」

「まだあなたは子供だからわからないのね」


 美優はやれやれと言うようにかぶりを振った。


「私はみゆちゃんのお話好きだよ」

「私も」


 どうやら少女たちには好評らしい。


 美優は何度か子供たちに物語を話して聞かせたことがある。それは以前幸介が適当に話した物語なので、途中から内容がめちゃくちゃになっていく。しかし一部の子供たちには人気があるらしい。ちなみに物語にはしょっちゅう性格の悪い女が登場する。


「よし、じゃあ湖の伝説の話をしてあげるね」


 美優がそう言って鈴を抱きかかえると、鈴は「わーい」と嬉しそうな表情になった。


 美優が「昔むかし……」と話し始めたところで、玄関から扉が開く音が聞こえた。先程買い物に出掛けた小夜だろう。


 しばらくすると、やはり小夜がリビングへと入ってきた。


「小夜さん、お帰りなさい」

「お帰りなさい」

「ただいま」


 子供たちが出迎えると、小夜は笑顔で答える。


 小夜は食料品が入ったスーパーの袋をダイニングの方へ持っていくと、それを置いてすぐにリビングへ戻ってきた。


「幸介、ちょっと来て」

「はい」


 幸介は唯をソファへ下ろして立ち上がる。そして小夜と一緒にリビングを出た。


 廊下を歩き、奥にある階段を登る。


「そう言えば、カレンは家ではどんな感じですか?」

「ずっと秋人に勉強を教えて貰ったり、本を読んで過ごしてるわよ」

「そうですか」


 カレンらしいと思い、少し微笑む。


 昔、彼女は雪乃や幸介から数学を熱心に学んでいたし、暇さえあれば家にある本を読みふけっていた。最近も、学校では授業を真面目に受けている。秋人の家で本を読むのも、この世界のことを知ろうとする意思もあるのだと思う。


 二階の個室へ入り、腰を下ろして早々、小夜は話し始めた。




「不良グループ?」

「そう。最近倉科市近辺で勢力を拡大してるみたいなのよ。確かな人数はわからないけど、推定五十人以上はいるわ」


 幸介が驚くと、小夜は困ったように眉尻を下げた。


「ふーん。結構ヤバい奴らなんですか?」

「いわゆるオヤジ狩りと言われる強盗致傷や婦女暴行など、被害者が多く出ているわ。被害者の中には大怪我をして入院した者もいる。大麻の密売をしているという噂もある」

「クズどもの集まりだな」


 呆れたように呟く。


 幸介と美優は日々、犯罪者、暴力団、不良たちの記憶を消しているが、能力は完璧なものではない。美優の『視覚同調』から逃れ、罪を犯す者もいる。


「勢力を拡大している理由はわからないけど、恐らく金。さっきも言ったように、大麻の密売などにも絡んでいる可能性が高い」

「警察は?」

「動いてはいるけど、中々尻尾を掴めないそうよ。何らかの理由で逮捕者が出ても未成年の下っ端。全員逮捕には時間が掛かるし、再犯の可能性もある。証拠不十分で釈放される者や、保護観察処分程度で済む者も多い」


 幸介は「はあ」と溜め息を吐く。警察は法律や証拠を基に動くので、こうなるのは仕方がないかもしれない。しかし、未成年者だとしても、処分が甘すぎると思う。もちろん警察がなければ世の中が大変なことになるので、必要な組織ではある。


「その不良グループを優先して潰して欲しいの」


 クラスメイトを含め、周囲の人間が危険に晒される可能性があるので、そういった輩は消しておいた方がいい。


「近くにそんなのがいたら目障りだ。すぐに潰します」

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