似てるような

 幸介たちがほのぼのと談笑していると、玄関の扉がガチャリと開く音が聞こえた。


 その後、一人の女の子がたたたっとリビングへと入ってきた。五歳児の鈴だ。


「ただいまー! あ、こうすけとこの前のおねえちゃん!」


 鈴は嬉しそうに幸介たちがいるソファへと近付いてきた。そしてにこっと笑顔で夕菜たちを見上げる。


「おう。お帰り」

「鈴ちゃん、お帰りなさい」


 幸介に続き、夕菜も鈴に微笑み掛けた。


「りょうたは?」

「亮太君は来てないの。今度連れてくるね」


 夕菜は申し訳なさそうに笑顔で答えた。


 鈴はどうやらチャラ男のことがお気に入りらしい。


 しばらくすると、青みがかった短髪の切れ長の目の男性がリビングへ入ってきた。留美の弟の巧海だ。年齢は二十歳。留美と同じく、幸介とは昔からの知り合いだ。


「ただいま。幸介、来てたのか」

「ああ。夕菜、この人は巧海さん。留美さんの弟だ」

「はじめまして。幸介君のクラスメイトの佐原夕菜です」


 夕菜が立ち上がって自己紹介をした。


「はじめまして。可愛い子だね」

「あ、いえ……」


 巧海が微笑むと、夕菜は少し照れながら俯いた。


「……えっと、こっちは妹の玲菜です」


 幸介に抱えられたままの玲菜は「こんにちは」と、にこっと笑顔で巧海に挨拶した。


 巧海は一瞬驚いたような表情を見せ、「こんにちは。ゆっくりしていってね」と答えた。


 巧海はダイニングへ行くと、プラスチック製のコップにウーロン茶を入れて持って来た。


「はい」

「ありがと。たくみさん」


 巧海がコップを鈴に渡すと、鈴は嬉しそうにそれを受け取った。


「幸介、ちょっと二階で話せるか?」

「ああ。夕菜、ちょっと適当にしてて。テレビとか見てていいから」

「うん。わかった」


 幸介は「待っててね」と玲菜をソファに下ろして立ち上がると、巧海と一緒にリビングを出る。


 階段を上がり、二階に着くと、すぐそばの部屋へ入った。ベッドとテーブルが一つずつ置いてあるシンプルな部屋だ。


 扉を閉めるや否や、巧海が言う。


「あの子、笑うと奈津に似てるな」

「まあ、ちょっとだけな」


 何となく微妙にごまかした。彼の言う通り、玲菜の屈託のない笑顔は奈津を思い出させる。


「それよりネット上での『救済者』の評判はどう?」


 置いてあるベッドに腰掛けながら尋ねた。幸介の指示で、ネット上に『救済者』の存在を仄めかしたのは巧海だ。


 巧海は扉に背中を預け、腕を組んだ。


「いい具合に噂されてるよ。あくまでネット上ではだが、体感で言うと八割は存在を信じていて、その中には少数ながら否定派もいる」


 巧海は冷静に分析結果を伝えてくれた。姉の留美とは対照的な性格だ。


 否定派というのは、基本的に「犯罪者は法律で裁かれるべき」という意見の者が多い。記憶を失った犯罪未遂者、犯罪者予備軍たちは多くが起訴されず、逮捕された者も釈放され、自宅療養したり病院に通っているからだ。


 それ以外の否定派の意見の中には、「殺人が減ってつまらない」などという頭のおかしい意見や、「身近な人間を助けてくれなかった」という理由のものもある。


 掲示板やSNSには、「『救済者』様へ。助けてください」といった書き込みも山のようにあり、その内容は学校や職場、家庭内の問題が多い。中には不良たちに恐喝されている、闇金業者や暴力団に追われている、といった内容のものもある。


 ネット上に『救済者』の存在が広まれば、こういった書き込みが増えるのは予想出来た。


 そして巧海は、被害状況や加害者の詳細などをネット上に晒すよう誘導しており、最近ではそれが多く晒されるようになっている。


「じゃあ加害者に非があるものを厳選して詳細を片っ端から送ってくれ。もちろん身元がバレないようにな。何かあれば秋人に相談すればいい。後はこっちで片付ける」


 巧海は「了解」と答え、部屋を出ていった。


 残った幸介は、「はあ」と溜め息をつき、ベッドに寝転ぶ。目を瞑っていると、ふと昔を思い出した。



※※※



 異世界に行ってしばらくの頃のことだ。


 幸介はヘンゼル、カレンと出会い、彼らを捕まえて奴隷にしようとしていた黒ずくめの男たちを何とか倒した。


 兵士たちが事後処理をしている中、幸介は男たちが持っていた拳銃の一つを、こっそりと腰に忍ばせていた。


 しばらくすると、カレンたちの両親が目を覚ました。


「コウスケ! 私たちが生きているのはあなたのおかげよ! 本当にありがとう!」

「君は俺たち家族の恩人だ。それにしても、まだ子供なのに多分俺より強いんじゃないか」


 二人には大いに礼を言われ、その後はとても良くしてくれた。


 夕方になり、帰宅すると、雪乃と美優が出迎えてくれた。


「お兄ちゃん、お帰りなさい! ご無事で何よりです」

「もう、あまり心配させないでよ!」


 二人ともかなり心配したらしいので、「ごめん」と謝った。


 持ち帰った銃は、弾を抜いて居間の戸棚の上へ置いておいた。弾を抜いておけば、美優や雪乃が知らずに触っても問題はない。


「こ、これは……?」


 雪乃は拳銃を見て驚いていた。彼女もその武器を知っていたのだと、後で気付いた。



 その日の夜、隣で美優が眠った後のことだ。


 喉が渇いた幸介は、起き上がり、何か飲もうと静かに居間へ向かった。居間にはまだ雪乃がいた。


 幸介が何となく部屋を覗くと、彼女が拳銃へ近づくのが目に入った。


 雪乃はそっと拳銃に触れ、目を瞑った。能力を使ったらしく、再び目を開けた雪乃は驚いたように呟いた。


「え……? 佐原、健流……くん?」


 当時、記憶がなかった幸介には、誰か分からないその名前だけが頭に残った。



※※※



 暗くなってくると、唯たちが見送る中、幸介たちは帰って行った。


(どうやらカレンのやつ、私の正体はバラしてないみたいね。だって、バレてたら幸介さんはあんなに甘えさせてくれないもん)


 先ほど彼に抱きあげられたことを思い出し、頬が熱くなる。



 昔、ユイリスは魔女の血を狙う者に拉致されたことがある。


 あのときは本当に怖かった。敵に拘束されるということは死を意味する。それに加え、どんな拷問を受けるかわからない。


 ユイリスは実際にその恐怖を肌で感じ、それを理解した。


 無理矢理血を抜かれそうになったが、間一髪のところで幸介たちに助けられた。


 それから、彼のことを慕っている。


 その後、ユイリスは幸介たちと行動を共にするようになった。


 彼は美優を一番に大切にしており、カレンを一番に信頼していた。それが、少し悔しかった。



 今日、幸介が二人の女子を連れて施設へ来た。


 一人は先日も来た、幸介のクラスメイトだ。綺麗な女子だったが、彼とはそこまで深い関係ではないと思う。


 目に付くのは彼女ではなく、幼い妹の方だ。彼ことを好きなのが丸分かりだし、べたべたくっつき過ぎだ。昔の美優以上に酷いかもしれない。

 

(幸介さんが子供に優しいのは知ってるけど、それにつけこんで恋人だとか言ってるし、何か結婚するとか言ってるし!? それは許せない!)


 レムリナなら一夫多妻が認められていたので他の女にも少し嫉妬する程度だったが、この日本という国では一人としか結婚出来ないと聞いた。少なくとも、あんなぽっとでの子供には彼は渡せない。


 そんなことを考えていると、頭の中に何かがよぎった。


(そういえば、あの子の笑った顔、誰かに似てるような……)


 少し考えると、それが誰なのか思い出した。


 あれはまだ自分が幼い頃。


 ブラッディマリー家の中でも落ちこぼれだったユイリスは、ある日、自分に特別な能力があることに気付いた。


 それは、『門番』の能力。こちらの世界と異世界を繋ぐ、ゲートを操る力だ。


 その能力を使って一人でこちらの世界に来たときに、彼女に出会った。

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