何であんたまで

 母親へのプレゼントを買うべく、夕菜たちは、ショッピングモール内の色々な店を見て回った。


 玲菜は幸介と手を繋ぎ、先程からずっと楽しそうに歩いている。何となく素直な妹が羨ましい。


 それに、夕菜は彼の名前を呼ぶことも照れてしまって中々出来なかったというのに、妹は「こうすけ」と平然と呼び捨てにしている。


 幸介の方も楽しそうに玲菜とお喋りをしながら、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩いている。


 そんな姿を見ると、彼が本当に幼女好きなのではないかと疑う気持ちが強くなり、少し不安になる。


 しかしそれ以上に、幸介が玲菜に向けるとても優しい表情は、夕菜を温かい気持ちにさせた。


 そうしてショッピングモールを歩いているうちに買い物は進み、玲菜はピンクのハンカチ、夕菜はケーキを、幸介は花束を買っていた。


「っていうか、何であんたまで買ってんの?」


 何食わぬ顔で幸介が花束を買ったことに、夕菜が突っ込む。


「いやー。玲菜の恋人としては、将来お母さんになる人にプレゼントをあげとかないとな」

「はあ!? あんたやっぱり!」

「バカ、冗談だって!」

「本当でしょうね!?」

「当たり前だろが! これはまあ、せっかく玲菜と知り合ったんだから俺も何かプレゼントをしたいんだよ」


 焦りながら答える幸介に、夕菜はジト目を向ける。


「本当? 本当なら別にいいけど……」

「本当だって」

「そう」


 幸介が必死に言い訳をするのを見て、夕菜は少し落ち付きを取り戻す。


「恋人? 玲菜の?」

「玲菜、気にしなくていいわよ」


 玲菜が幸介を見上げ、頬が赤く染めながら呟くので、夕菜は彼の発言をなかったことにして話題を切り上げた。



 買い物を終えた夕菜たちは、母親が待つ佐原家へ向かった。



※※※



 佐原家へ向かう間も、玲菜は幸介の手を引いて歩いていた。


 駅前から住宅地へ向かってしばらく歩くと、数分程で佐原家の前に着いた。


 夕菜の家は幸介が住むマンションとは割と近い。玲菜と出会った交差点のすぐ近くだ。


 先日、幸介は夕菜を送ったときに家の前まで来たので、何となく見覚えがあった。


「じゃあこれ、お母さんに渡しといてくれ」

「えっ……うん」


 幸介が持っていた花束を夕菜に渡そうとすると、彼女は何か歯切れが悪そうに頷いた。


「ねえ。あんた、ちょっと上がっていく?」


 夕菜が上目遣いで尋ねてきた。


「え? えっと、今日はそろそろ帰ろっかな。何か疲れたし」

「そう」


 剣道の試合はそれ程でもなかったが、その後の買い物で少し疲れた。女子との買い物は何故か疲れる。


「こうすけ、一緒にケーキ食べよ」

「よし、行こう。玲菜に言われたら仕方がない」

「うん」

「何それ!? あんた玲菜に甘過ぎない!?」

「めちゃくちゃ平等だろが」

「どこが!?」


 憤慨する姉を放置し、玲菜が門をくぐり、玄関の扉を開く。


 幸介と、まだむすっとしたままの夕菜もその後に続いた。


「「ただいまー」」

「おかえりー」


 夕菜と玲菜が帰宅を知らせると、女性の返事が聞こえた。


 廊下に出てきた女性は、幸介を目にして「……あら?」と言って立ち止まる。


「こんにちは」


 幸介は笑顔を作って挨拶。


「えっと……どなたかしら?」


 夕菜に似て美人で、優しそうなほんわか声の女性だ。夕菜の母親だろう。ロングのピンクがかった髪を結んで、左側から胸の辺りに流している。


「初めまして。夕菜さんのクラスメイトの奥山幸介って言います」

「あらそう……夕菜の恋人?」

「ち、違うわよ!」


 母親が尋ねると、夕菜は顔を赤らめながらムキになって否定した。


「こうすけは玲菜の恋人だから」

「えっ……?」


 玲菜の発言を聞いて、母親はきょとんとなった。


「「……」」


 その場に沈黙が流れる。


「もしかして……幸介君ってロリコンなの?」

「違います。あ、これお母さんにプレゼントです。今日誕生日って聞いたんで。ほんの気持ちなんですけど」


 持っていた花束を母親に渡す。


「わあ~。幸介君ありがとう」

「はい」


 彼女の喜んだ顔を見ると、頬が熱くなった。


「あんた何赤くなってんの?」

「なっ、別に赤くなってねえよ」


 夕菜がジト目を向けてきたので、焦りつつ否定した。


「まあ別にいいけど……せっかくだから一緒にケーキを食べようと思ったんだけど、いいわよね?」

「もちろん。上がってって」

「お母さん、玲菜もプレゼント」


 玲菜も、綺麗に包装された箱を母親に渡した。中身は彼女が買ったピンクのハンカチだ。


「ありがとう玲菜」

「うん」


 母親が微笑むと、玲菜もにっこりと笑う。


「幸介くん、今ちょうどご飯作ってるから、よかったら食べってってね」

「え、いいんですか?」

「ええ。プレゼントも貰っちゃったし」


 彼女が微笑んだ顔と優しい声は安心感があり、どこか懐かしさを感じた。


「そうね。食べていったら?」

「こうすけ、一緒にご飯食べよ」

「ああ。じゃあお言葉に甘えて」


 靴を脱ぎ、夕菜たちの後に続いて家に上がる。


 リビングの隣にはダイニングがあり、テーブルには豪華な料理が並べられていた。


 幸介は玲菜に案内されるまま、テーブルの席の一つにつく。


 今日は家族で誕生日のお祝いでもするのかもしれない。


 テーブルの豪華な料理以外にもまだ作っている途中のものがあるようで、キッチンでは夕菜の母親が料理の続きを始めた。


「じゃあ私がケーキを切るわ」

「玲菜も」


 夕菜と玲菜はケーキを切ろうと、仲良く箱を開いている。


 幸介は立ち上がり、料理中の母親に近づく。また頬が熱い。


「あの、お母さん。何か手伝いましょうか?」

「あら、いいのよー。幸介くんは座ってて」

「そうですか……」

「ちょ、ちょっと!? あんた何私のお母さんにデレデレしてんの!?」

「うっ……いや、デレデレなんてしてねーし!」


 幸介が焦りつつ否定すると、夕菜の母親は優しく微笑む。


「そうなの? 可愛いわね」

「えっ……そ、そうですか?」

「デレデレしてるじゃない!?」


 照れる幸介を見て、再び夕菜が声を荒げた。


「こうすけはお母さんのことが好きなの?」

「いやー、はっはっは。その通りだ。もちろん玲菜のことも大好きだけどな!」

「ほんと?」

「もちろん、本当だ」


 幸介が腕を組んで深く頷くと、玲菜は頬を赤く染め、にっこりと笑顔になった。


「えへへ~、やったー。じゃあ玲菜、こうすけと結婚してあげるね」

「ちょっと玲菜、何言ってんの!?」


 玲菜の爆弾発言を聞いて夕菜が戸惑う。


「……」


 幸介も言葉を失っていた。


『まっ心配しなくても結婚式のときにキスするんだよー』


 にこっと笑った奈津の顔が一瞬頭を過ぎった。


 しかしすぐに表情を取り繕う。


「おー。マジマジ!? 玲菜、俺は一生お前を守る!」

「きゃ〜!」


 幸介がガッツポーズを作って言うと、また玲菜は頬を赤く染めて喜ぶ。


「ちょっとあんた、何小学生を口説いてんの!? お母さんのこと好きっていうのも否定しなさいよ!」

「幸介君、嬉しいわ」

「お母さんも何喜んでんの!?」


 夕菜が声を荒げて抗議していると、母親は呆れたような表情になった。


「はあ。夕菜ったらやきもち?」

「ち、違うわよ! 何で私が!?」

「わかったわかった。夕菜のことも大好きだって」

「ななな何言ってんの!? っていうか、そんなついでみたいに言われても嬉しくないんだから!」


 幸介の適当な言葉を聞いて取り乱す夕菜。その顔は真っ赤に染まっている。


「もー。しょうがないわね。ってことはついでじゃなければ嬉しいのね?」

「そっ……そういうわけじゃないわよ! バカあ!」


 夕菜は顔を赤らめてばたばたと走って出て行ってしまった。


「お姉ちゃん、何怒ってるの?」

「ふふふ、あの子も素直じゃないんだから」


 母親は娘の後ろ姿を見送りながら、にこにこと微笑んでいた。

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