お前らのほうが

 教室に入ると、クラスメイトたちからの視線を感じた。


 昨日沙也加が教室へ来たことで、彼女との関係をみんなが知ったせいだろう。


 静かな視線の中を窓際の席へ向かう。


 夕菜と愛梨の視線にも気付いた。

 クラスメイトたちがそれ程騒がしくしてこないのは、愛梨のおかげかもしれない。


 自席に着いた直後、亮太が近づいて来て、空いていた隣の椅子に腰を下ろした。


「なあ、幸介。お前平峰沙也加と幼馴染みだったのか?」


 小声で話してくるあたり、この話題について話していることを公然とならないようにしているらしい。


 もし大っぴらに話題にすれば、それに便乗して人が集まり、幸介が質問攻めに合うかもしれない。そうならないように、亮太なりに配慮しているのだろう。


「まあ、そうだな」

「何で!?」

「何でって……小さい頃、家が隣同士だったんだよ」

「まじかよ。めちゃくちゃ良いじゃん」

「お、おう。そうか」

「だからあんなにべたべたするほど仲が良かったのか」

「ああ……ん?」


 何か若干敵意のようなものを感じたような気がする。それに昨日の昼休みには亮太は居なかったはずだ。


「じゃあお前、昔から沙也加さんに膝枕なんかして貰ってたのか!?」


 突然幸介の肩に手をかけて詰め寄ってくる亮太。声を抑えてはいるが物凄い形相だ。


「怖い! 愛梨、助けてくれ!」


 亮太の剣幕が怖いので、思わず近くの席で夕菜と話している愛梨に助けを求めた。


「亮太! 辞めなさい」

「あ、はい」


 亮太は特に反抗することもなく、大人しくなった。


 他人のプライベートのことなので自重する意思があるのか、元々愛梨には止められていたからかもしれない。やはり愛梨は頼りになる。


「助かった。さすが愛梨」

「ふう。すまんな。取り乱してしまったようだ」

「……つーか、何で知ってんの?」

「昨日お前らのことを聞いてから屋上に覗きにいったんだよ」

「堂々と言うな」


 半眼で亮太を見る。

 彼は数秒前とは打って変わって落ち着いている様子。


 そしてまた話は戻る。


「で、家が隣同士で小さい頃からよく一緒に遊んでて? 仲の良い幼馴染みになったと」


 亮太は頬杖をつき、つまらなさそうな態度になった。


「まあ、そういうことだな」

「そんなチートがこの世にあるんだな」

「それってチートなの?」


 呆れながら訊き返す。


 世の中にはもっとチートなものがあるのを知っている。美優の能力もその一つだ。


「でも、まさか一緒にお風呂に入ったことがあるとかそんなお約束は言わないよな?」

「ん? ああ、そう言えばそんなこともあったような……」

「……」

「……」


 言葉を失う亮太に、幸介も無言で対応する。


「はは……今俺は何かを聞き間違えたようだ。すまないけど、もう一度言ってくれ」


 亮太が「やれやれ」と言ってかぶりを振る。


「そんなこともあったかもな。めちゃくちゃ昔の話だけど」

「……」


 亮太は何やら唖然となっている。


 かなり小さかった頃の話なので、そこまで驚くことでもないと思う。


「なっ……」

「ん?」

「なにぃぃぃ!?」(小声)


 亮太が再び物凄い形相で詰め寄ってきた。


「うわっ、怖い! 怖いよ!」

「うるせー! 今の話本当なのか!?」

「いや、嘘だ」

「嘘つけえ!」

「じゃあ確認すんな!」


 亮太は胸倉を掴んで食って掛かってきているが、一応声を抑えている。


 幸介も小声で対応した。


 突然、スパン! っと音が鳴った。


「いてっ!」


 亮太が頭を押さえて振り返ると、彼の背後には愛梨。筒状に丸めたノートを持って腕を組んでいる。


「辞めなさいって!」

「あ、はい。ごめんなさい」

「追及は程々にしときなさいって言ったでしょ?」

「そうでした」

「程々なら許可したのか」


 かなり怖かったので、もっとしっかりと制限して欲しいと思った。


 亮太は落ち着いた様子でこちらに向き直った。


「っていうか、何で沙也加さんとの関係を今まで隠してたんだよ?」

「別に。訊かれなかったからな」

「そりゃ訊かないだろ。思いもよらないっつーの」

「まあとにかく隠したわけじゃないよ。どうでもいいからな」

「そ、そうか」


 沙也加との関係がバレたとしても、そんな些細なことはどうでもいい。わざわざ言わなかっただけだ。


「……でも付き合ってるわけじゃないんだよな?」

「それはない。愛梨たちにも言ったけど、あいつとは姉弟みたいなものだし」

「それが信じられないのよね」


 愛梨は腑に落ちないといった様子で呟く。


「まあ膝枕なんてしてたしな」


 亮太はまたつまらなさそうに頬杖をついた。


「でも大変だよね? これから皆に色々訊かれるかも」

「つーか既に色々と後悔してるんだけど」


 亮太を半眼で見ながら愛梨に答える。

 それを見て、愛梨が「ぷっ。だよね」と笑う。


 しばらく話していると、ガラガラと教室前方の扉が開いた。


「はーい。ホームルーム始めますよー」


 担任の女教師の声が響く。


「じゃあ戻ろっか」

「そうだな。でも羨ましいぜ。この幸せ者が!」


 亮太が明るく捨て台詞を残して幸介の席を離れていく。


 幸介は窓の外に視線を向け、小さく呟く。


「……お前らのほうが幸せだよ」


 しかしそう言いながらも幸介は思う。


 確かに少なくとも今、自分のそばに沙也加や美優がいてくれることは幸せだと。

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