第21話 石化の大蛇 弐

「で、このデカい蛇どうしますか?」

「う〜ん……中々気性が荒いようだしこのままでしとこうくか、それとも……」

「……レイさん、もしかしてこいつと友達に……とか思ってるんですか?」

「あ、バレた?」


 全モンスターと友達を目指してる俺としては、この大蛇とも友好な関係を築いておきたい。あわよくば一緒にクエストを……


「ムッ、浮気探知機能が働きました。レイさん?」

「えー……」


 ニムの浮気探知機能の基準が分からない。その内同性と話してだけで浮気とか言われてしまうにではないだろうか。

 そんな事を考えながら、大蛇の対処について話し合っていると、背後から誰かが走ってくる音が聞こえて来た。


「レイ様! ニム様!」

「カンナ様ですか。お怪我は?」

「私は何もしてませんので……それよりお二方は……」

「私は無傷ですが、レイさんが……」


 と、ニムは心配そうにチラリと俺の左腕を見た。


「ああ、俺も大丈夫だ」

「でもレイさん……それ、石になってますよね」

「石になってるな」


 軽く肩を回そうとしてみたが、重さで全然動かなかった。


「ごめんなさいレイ様……私のせいで……」

「そんな気負わないでください。取り敢えず、無事で良かったです」

「ですが……」


 申し訳なさそうに胸の前でギュッと自分の手を結ぶレナさん。

 一向に様子が変わらなそうだったので、額に軽くデコピンをしておいた。

 レナさんは額を軽く抑えながら、


「い、いきなり何するんですか……」


 と、薄ら涙を溜めながら言った。


「レナさんは固すぎです。王族で育った姫様じゃないんですから……もっと軽く行きましょうよ。冒険に怪我は付き物ですよ?」

「……わかりました」


 少し気に食わないと言った顔をしていたが、何とか納得してくれた。

 これで一件落着かとも思ったが、背後からの唸り声が聞こえてくる。


「むー……セリカさんが言っていた"いちゃいちゃ"って言う状況と似てます……」


 あの人はあの人でニムに面白い事を教えてくれる。

 俺は笑いながらニムの頭を軽く撫でた後、大蛇の方に目を向けた。


「さて、これからどうしようか……」


 レナさんに気にするなと言った石化した左腕だが、実はかなり重い。正直な事を言えば、重さに引っ張られて倒れそうなのだ。


「ニム、この腕砕けないかな?」

「……私にレイさんを殴れと?」

「ダメかな?」

「無理に決まってるじゃないですか……」


 ニムは悲しそうな顔で答えた。かなり酷なお願いだったらしい。


「じゃあ、レナさんの弓矢で……」


 そう期待の目を向けて見たが、レナさんは首を全力で横に振っていた。

 皆俺の事をか弱く見すぎではないだろうかと思っていると、突如ニムが俺のカバンを漁りだす。


「ニム、何してんだ?」

「いえ、レイさんが持ってた回復薬ならと思いまして」

「今ストック切れてる」

「そうですか……」


 ニムは途端に残念そうな顔をした。


「ま、あとは自然回復を願って待つしかないか」


 倒れた大蛇を背もたれにしながら俺は座り込んだ。

 大蛇本体はすぐ対処出来たが、本体がいなくなっても何らかの形で敵に異常を残す辺り、さすがSSS級と言ったところだ。

 しかし、このままでは四日後のコウ達との再開に間に合わなくなってしまう。


「まあ、焦っても仕方ないか。治るまでゆっくりお茶でもしよ……ニム、ちょっとカバン取ってくれ」

「わかりました!」


 そうしてニムからカバンを受け取り、中から木のコップとお茶を入れた水筒を取り出す。

 三人分のお茶を注いだついだ後、ニムとレナさんに渡した。

 お茶を渡されたレナさんは、一口飲んだ後ポツリと声を零す。


「レイ様はすごいですね……こんな状況でも焦らず冷静に対処出来るなんて……」

「どちらかと言えば、こっちの方が俺らしいんだけどね。自然の中で自然と生きる……それが子供の頃の生活だったから。大した事じゃないよ」

「いえ、とても立派です……。それに比べて私は……」

「そう言う暗い話は、自分家のベッドの中でやって下さい」

「……はい」


 少し強めに言ってみたが、レナさんは何故か微笑んでいた。


「レイ様もニム様もお優しいですね」

「……私も入ってるんですか?」

「はい。相手を殺めず、尚且つレイ様の下に行かないよう配慮して戦うお姿、とてもご立派でした」

「そ、そうですか」


 パニック状態だった割にしっかり分析しているなと思っていると、褒められて照れたニムがボソボソと呟き始める。


「わ、私の機嫌をとっても、レイさんは渡しませんからね……」

「ふふっ、大丈夫ですよ」


 ニムの照れ隠しに、レナさんは小さく笑って返した。

 そんな光景を見ながら俺が微笑ましく思っていると、不意に大蛇の身体がピクリと小さく動いた。


『……』


 今まで死んだように動かなかった目がキョロキョロと周囲を見回し、ついに俺と目が合った。

 全く見た事も無いモンスターと、至近距離……というか直での接触。襲われたら確実に死ぬ。

 せめてニムと恋のB辺りまで行きたかったなぁと、俺は最後を悟った。


『……えっと、どちら様で?』

「喋れんのかよ……」


 思わぬ事態につい荒い口調になってしまった。

 まだまだ長く生きられそうだ。


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