第15話 ニムのムニムニ。ニムの愛。

早速浴室に移動したが、脱衣所にてニムが俺の貸した服が脱げなくなったと言い出したので、脱がすのを手伝った。

ニムと自分の頭と身体を洗った俺は、浴槽にニムと並んで入る。


「お風呂って暖かいですね~」

「そうだな……」


正直なところ、俺は混浴を甘く見ていた事を実感した。

ニムはドラゴンだ。しかし、今の姿は普通の女の子。小柄だが、出てる所は出ている普通の女の子なのだ。

つまり、何が言いたいのかというと……


「ニム、胸が当たってる……」

「ふえ? 確かにそうですけど、それがどうかしましたか?」

「あー……うん、やっぱ何でもない」


全く恥じらいを感じさせないニムを見て、俺も覚悟を決めた。

ドラゴンは服を着ない。それはつまり、ニムは今の状態が正装であり、今の状態こそが一番ストレスが少ないと言う事。

ニムがしっかりと休息を取れるならよう、俺は恥ずかしさを押し殺して夫婦(仮)らしくするべきだろう。


「ニム、初めてのお風呂はどうだ? 熱くはないか?」

「はい。とても気持ち良くて満足です。レイさんもいますし、何だかとても幸せです」

「そ、そうか……」


突然ドキッとする事言ってくるのはやめて欲しい。心臓に悪いから。


「に、ニムが満足出来たなら良かったよ」

「はい。人間が作った物も、中々侮れませんね」


痛感……とまでは行かないが、ニムは少しだけお風呂文化に理解を示した。

ニムが珍しく人の文化を褒めてくれたのが嬉しかったのか、口元が自然と上がっていた。


「レイさん、急に笑いだしてどうしたんですか?」

「いや、ニムも成長して来てるなーって。人間の習慣もすぐ身につけてくれるしね」

「ドラゴンは頭が良いですからね」


得意げな顔でニムはそう言った。

確かにニムは人間の知識こそ無いが、別段アホの子と言うわけでも無い。土地や産業などについては苦手そうではあるが。

ニムの得意不得意について頭の中で分析していると、不意にニムが良いことを思いついたとでも言うように俺を見て来た。


「人間の知識を全部身に付けたら、レイさんと結婚出来ますか?」

「ニムは人間として俺と結婚したいのか?」

「それ以外に何かあるんですか?」

「いや、俺がドラゴンの風習に沿ってニムと結婚する事も良いかなって。竜族にもあるだろ? そう言う契とか儀式とか」

「まあ一応は……」


俺から目を逸らし、ニムは何処か沈んだ……と言うより呆れた表情をしていた。


「ドラゴンの契は、パートナーとの戦闘ですから……」

「物騒だな。ニムの両親もそうやって結婚……契を結んだのか?」

「はい。両親からはそう聞いてます……。でも、私はレイさんと戦うなんて嫌です。そもそも、契自体嫌いです。理由はどうあれ、好きな人同士が戦うのは間違ってます」


きっと、竜族の結婚の儀式が戦闘なのは、相手の強さを測るためだろう。

野生界は正しく弱肉強食の世界。人間の様に段々仲を深めてから結婚なんて長々と時間をかけていると、繁殖する前に相手が死んでしまうかもしれない。なので、野生界では気に入った異性との求愛から繁殖までが非常に短期間だと親友が言っていた。

生物として当たり前の思考。しかし、ニムは野生育ちなのにそれが嫌だと言った。


「ニムは、繁殖以外に何か目的があるの?」


俺が聞くと、咄嗟にニムは俺の方に向き直り、真剣な眼差しで言ってきた──


「私は、一生愛せて……一生愛してくれるパートナーが欲しいです。でも他の皆は、そう語った私の事を笑いました……。その視線から逃げたくて、自分の住処に閉じこもってました」

「……もしかして、閉じ込められてたって言うのは」

「はい。皆の視線が私を閉じ込めてたって事です……。私だって自分がおかしい事は自覚してるつもりですよ? でも、やっぱり私は愛が欲しいです。ドラゴンの子育ては放任主義が絶対ですが、それに寂しさを持つように生まれてしまった私は、誰とも馴染めませんでしたから」

「そっか」


ニムは寂しそうな顔をしていた。俺が慰めるように頭を撫でると、心地よさそうにして目をつむる。


「ニムは可愛いなぁ……」

「そ、そうでしょうか」

「寂しくいから構ってくれる人が欲しいなんて、ニムは本当に可愛いよ」

「そ、そう言う訳ではないのですが……」


わしゃわしゃとニムの頭を少し荒く撫でていると、珍しくニムが顔を赤くさせた。


「そっかそっか、ニムは寂しがり屋さんだったか」

「だ、だからそうでは……って、レイさん? 何だか顔が赤くありませんか?」

「ん? 別にそんな事は──……」


無い、と言いかけた所で視界がグルグルと回り始めた。

どうやら長風呂と女の子と一緒に入っていると言う緊張でのぼせてしまったようだ。

しばらく視界が揺れた後、俺の身体がニムの方へと倒れて行く……


「れ、レイさん!?」


意識が途切れる寸前、ニムの慌てた声が聞こえ、ムニュっとした胸の柔らかい感触が顔を包んでいた。



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