第4話 クエスト探し…いざ洞窟へ。
翌日、ニムと共に冒険者ギルドに訪れた。今日も昨日もここに居る人達は変わりないが、ニムが入って来た途端に皆の表情が驚愕一色に染まる。
ニムはそんな視線を受けながら、見知らぬ場所に警戒を示しつつ俺の腕に抱きついて来る。
「レイさん…ここの人達、なんか怖いです…」
「ニムはここに来た久しぶりのお客さんだからね。皆びっくりしてるんだよ」
「そ、そうでしたか…。何だか狙われてるような感覚があって少し怯えちゃいました…」
まだ不安の色は残っていたが、ニムはほんの少しだけ腕に抱きつく力を緩めた。
ニムが感じる『狙われている』というのは、おそらく”そう言う意味”で見てる人達からのものだろう。
そんな考えと共に、ニムへと集中する視線を通り抜け、先程から職員ロビーで固まるカンナに声をかけた。
「おはようカンナ」
「…お、おはよ」
「ほら、ニムも挨拶」
「お、おはようございます…」
俺の背後になるべく身を隠し、ニムはカンナに挨拶をする。お互いに見つめ合い、気まずい雰囲気が流れていた。そして、状況が飲み込めていないカンナは俺に尋ねてくる。
「レイ…その子は?」
「俺の…婚約者?」
「あ゙っ?」
女の子ってこんな低い声が出るんだなと素直に感心しつつ、俺はロビーのカウンタに貼ってあったクエスト用紙をカンナに差し出した。
「カンナ、これお願い」
「その前に説明してくれるかしら?いきなり婚約者ってなに?」
「なに…って聞かれても…」
見るからに不機嫌そうなカンナを見ながら、俺は考える。
今答えられる事と言ったら、親にあたるメーさんから許可を貰っている事実上婚約した相手としか説明が出来ない。
「取り敢えず、両者公認だぞ?」
「…あとでじっくり話し聞かせて貰うからね」
何故かカンナは怒っていた。
「あの…もしかして怒ってる?」
「べっつに?」
心底機嫌が悪いと言ったようなカンナは、無造作にクエスト受注処理をしている。
そんなカンナをまじまじとニムは見つめ、何か納得したような顔をしていた。
「なるほどなるほど…。レイさん、浮気はよくありませんよ?」
「え、浮気?なんの事だ?」
「…今はそう言う事にしておきますね」
半眼を作ってニムは此方を見る。その視線から逃げたくてカンナの方に向き直るが、こちらもこちらで俺を睨んでいた。
「はい、薬草採取のクエスト頑張ってね。あと、なるべく早く帰って来なさい」
「りょ、了解しました…」
何故だか今日のカンナは威圧が凄い。一体どうしてしまったのだろう。まるで阿修羅のようだ…
「なんか失礼な事考えてるわね?」
「そ、そんな事ないよ?」
「ふーん…どうだか」
「あはは…。それじゃあ、行ってきます!」
カンナの視線から逃げるべく、俺はニムの手を引いて急いで冒険者ギルドを後にした。去り際にボソッと「行ってらっしゃい」と言ってくれるのを見るに、どうやら本気で怒っている訳ではないらしい。
一体、俺とニムの事を知ったとして、カンナに何があると言うのだろうか。
***
冒険者ギルドを出た後、ニムの手を引いたままとある洞窟の入口までやって来た。
「レイさん、ここは?」
「ここは破音の洞窟。今日はここの最奥にある薬草を取りに行くよ」
「分かりました!」
ニムはビシッ!と敬礼をした。その姿はとても可愛らしい。
敬礼をした後、気合いを入れ洞窟に入ろうとするニムを俺は一度引き止める。そして、ポケットから取り出した耳栓を渡しておいた。
渡されたニムは、首を傾げて不思議そうに尋ねてくる。
「なんで耳栓を…?」
「着けとかないと後で痛い目見るぞ?」
「えっ」
酷く動揺した様子でニムは間抜けな声を出す。
今回クエストでやって来た破音の洞窟。F〜SSS級まであるクエストランクの中では最低ランクのものだが、とある事情で誰からも選ばれない放置クエストと化している。
「ここにいるモンスターはちょっと面倒臭い能力を持っててね。初見は皆その能力の餌食になる」
「そ、そうなんですか…。レイさんがいて良かったです…」
「そこまで大袈裟な事じゃないよ」
苦笑しつつ、何処か怯えた様子のニムの頭をポンっと一度撫ながら俺は続ける、
「耳栓をしとかないと、ちょっと鼓膜が破けちゃうだけさ」
「十分大事じゃないですか…」
破音の洞窟には二つ名がある。
初見で行けば確実に鼓膜が持っていかれる事と、その対策を取れば音によるコミニュケーションが取れなくなる事。
その二つの点から、俺の住む町ではこう呼ばれている─
─…『初見殺しの騒音穴』と。
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