第6話 ヴェール雲
その町の観光名所は雲だった。夏頃に町の遥か遠くで発生する入道雲。一見どこでも見られそうな雲だが、訪れる人々の目的はその町でしか見れなかった。
この日も一組の男女が町に訪れた。町の名産である赤ワインとオリーヴをレストランで嗜み、運河の畔に連なる古代遺跡をカヌーの上で観覧し、行き先で意見が分かれ、結局二人のそれぞれ行きたい場所へ駆け足気味で向かうこともした。
時刻は夕暮れ。カップルが向かったのは、街の名所である雲だった。町のどの建造物よりも一際巨大な紫の雲は、西日に照らされ上部のみが黄金に輝いていた。
と、徐々にその入道雲の周りを霞のように薄い雲が取り巻き始める。霞はみるみるその厚みを増す。土星の環のような霞は入道雲をベールのように包み込む。
この町の名物は、夕暮れの花嫁と呼ばれる雲同士の現象である。
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