第24話 ベル

 この街はかつて一つだった。土地も産業も人心も。だけど十数年前、街の中心を分断するように灰色の壁が隆起した。それ以来この街は二つに分かたれてしまった。土地も産業も人心も。

「おじちゃん、これからお仕事?」

 瞳を輝かせた少年が僕に問う。僕は笑顔で「うん」と返した。

 景色を覆う灰の壁の傍に、連絡塔が建てられている。二つの街を繋ぐ、唯一の連絡手段。僕は連絡塔を上り、最上段に置かれた金の大鐘の近くへ行く。

 この街は壁の向こうの街よりも早く日が昇る。夜明けを向こう街へ知らせるために、この大鐘は専門の人間が鳴らすことになっていた。

 僕は大鐘を鳴らした。分かたれた街の唯一の共有財産が、高らかに鳴り響いた。

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