第16話 水面

 水面は静かに揺れていた。櫂船で新任地に向かっていた日向の某の心持ちは、不思議なほど穏やかであった。

 上野の生まれであった日向の某は、背筋のしっかりした、武人気質な丈夫であった。大人として世人から囃されていた彼は、生花に知見があり、有名な大宿の大家の下で生まれた娘と出逢い、程なくして二人は細目に影無き夫婦として、後生まで語り継がれるほど、仲睦まじい夫妻となった。

 生物が潤いだす梅雨のある日、大夫の上から新任状が日向の某に届いた。伴侶を故郷に残す気持ちは、辛すぎる決断であったが、夫妻は涙ながらに別たれた。

 木目の細かい櫂船に揺られ、彼は新任地についた。人気の無い水門に船を止め、彼は足を踏み入れる。緑のはえる草原には、いくつかの風車が静かに回っていた。

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