12月21日(土) 旅の準備
「そんじゃ、要るものを揃えていきますか……」
「おー」
冬休みに入り、一日目。
とはいえ、土曜日で休日なためそれほど休みとしての恩恵を感じられていない俺たちは、大型ショッピングモール『夢街』へと訪れていた。
家から自転車で十五分ほど。
敷地面積はおよそ四五〇〇〇平方メートル、三階建ての建物であり、そのうち下二階が売り場スペースで店舗数は一四〇にも昇るという――博多駅のアミュプラザには劣るものの、そこそこに大きな商業施設である。
さて……では、そんな場所に俺たちは何をしに来たのか。
数日前に話したクリスマスのプレゼント選び? 答えは否。そちらはクリスマスの前日――二十四日に済ませるので今は関係ない。
それよりももっと大事……というわけでもないのだけど、早々に終わらせておくべき用事――来たる年明けの旅行に備えた大切な準備フェイズなのだ。
来週以降はクリスマスや大晦日で忙しく、かといって年明けでは足りないものが出てきた時に間に合わない可能性がある――と考えたならば、必然的に今日という日しかなかった。
故に、こうして二人、歳末セールを求めてやって来たオフィスレディや子供連れの主婦層に混じり、財布を片手に訪れた次第である。
「――で、何を買えばいいの?」
計画立案者が自分でないせいか、全くの他人事な我が幼馴染。
最早、完全に三歩後ろを付き従う大和なでしこスタイルで挑む気らしく、丸投げ状態だ。
「んーと……ちょっと待て」
ポケットからスマホを取り出し、予め写真に撮っていた修学旅行のしおりの携行品リストを開いた。
着替え、筆記用具、財布、体操服やジャージに、各個人で使用するアメニティなど……意外性のない、通常の旅行でも必要なものがズラズラと書き綴られている中で、持ってなさそうなアイテムを適当にピックアップしていく。
「えー……まずはスキー用のアンダーウェア――ヒートテックやタイツなど……だってさ」
「……下はともかく、上は持ってない」
「俺は逆だな……。まぁ、これについては近くのディスカウントストアで安物を買っておけばいいだろ」
一応、本格的なものを買おうと思えば、二階にスポーツ用品店があるため用意することはできる。
だが、持っていないということはこれまで必要なかったということであり、ならば修学旅行のためだけに使うようなお金でもないだろう。
ということで、次。
「あとは……日焼け止め、だとよ」
スキーは雪の照り返しが酷く、日焼け止めを塗っておかないと散々な目に遭う――なんてことはよく聞く話だ。
先生もしおりを渡す際に再三注意していたし、これに関しては忘れるわけにはいかない。
「……去年のじゃ、ダメ?」
「ダメだろ…………多分。知らんけど」
どうやら家に昨年の残りがあるらしく、そう尋ねてきたかなたであるが、何とも了承しがたい内容に俺は言葉を濁す。
「無理にとは言わんが、やめとけ」
「んー……じゃあ、新しいの買う」
素直に頷く幼馴染を確認し、スマホに視線を落とした。
「それと、コート」
「コート……? それなら着てるけど……」
パッと裾を持ち上げて、見せびらかすようにクルリと回転してみせたかなたであるが、俺は違うとばかりに首を振る。
「かなたもそうだし、俺もだが……ロングコートは禁止だと。コート類は華美でない腰までのもので、ダウンジャケットも認めない――なんだと」
「えー……やだなー……」
本気で嫌そうな表情を見せるかなた。
そんな彼女に、更なる情報を教えるべくスマホの画面を差し向けた。
「なら、買うのやめるか? それだと、学校指定のコートになるらしいけど」
「それもやだー……。……あれ、ダサい」
「じゃあ、大人しく新しいコートを選ぶんだな」
きっとこれも、学校側の配慮なのだろう。
普段なら、自前のコートは全て禁止しているのだが、せっかくの修学旅行で外泊するから――と、制限付きではあるものの認めてくれたのだ。
……まぁ、何でロング丈だとダメなのかは理解できないがな。
「……そら、買って?」
――というわけで、一通りの買うべきものを挙げたので、嵩張るコートから買おうとエスカレーターで二階へと上がり、立ち並ぶアパレルショップでも覗こうかと繰り出せば、我が幼馴染はそんな台詞を吐く。
「別にいいぞ。ただし、それが今年のクリプレな」
手に取った黒のコートは、大きな襟とボタンが特徴的でオシャレ可愛いデザインをしているが、残念ながらフードがない。
また、個人的にファーが付いている方が好みであるため、別のものを探そうと商品を棚に戻し、返す視線をかなたに向ける。
……案の定、ふくれっ面だった。
「……じゃあ、やめる」
「それが良い。せっかく交換するのに、中身を知っていても面白くないからな」
渋々と断りを入れるかなたの様子に頷き、店を出る。
さて、次へ行こうか。
「…………でもなら、私のコート、そらがちゃんと選んでね?」
「何が『なら』なのかは分からんが……まぁ、構わないぞ」
二人一緒にいるのだし、むしろそれが当たり前だろう。
そう思って了承すれば、本人もいつもの調子を取り戻したようで、人の手を勝手に取り、ズカズカと前へ進み出す。
大和なでしこはどこへ行ったのやら……。
でもまぁ、それでこそかなただと、俺はそっとため息と苦笑を零して歩いた。
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