6月2日(日) 県大会・団体戦・二日目

 勝者がいれば、敗者がいる。

 残る者が現れれば、去る者もまた存在する。


 それは等価交換のように当然に成り立つことであり、弱肉強食の蔓延る食物連鎖のようだ。


 今日でバドミントン福岡県大会・団体戦、その二日目であり最終日を迎えるわけだけども、会場に集まるチームの数は目に見えて少なくなっていた。

 当然である。昨日で二回戦までを終え、当初の四分の一しか残っていないのだから。


 しかし、肌に纏わりつく敵意は前日以上に強い。

 名の知れた学校、猛者、それらにジャイアントキリングをみせるブラックホースたち。一堂に会する彼らは皆、強豪と呼ぶに相応しいものの、ウチもそれに負けないメンバーをしている。


 まずは、ダブルスの一番手。俺と同じ二年生でありながらメンバー入りを果たした、監督期待のペアだ。

 先日行われた個人戦でも三位と入賞を果たし、実力は十分。景気と活力に満ちた特攻隊長になることだろう。


 続く、ダブルスの二番手。三年生の先輩ペアであり、日本最強のペアでもある二人だ。

 去年の全国大会・個人戦・ダブルスの部で優勝。それどころか二年生の頃から未だに負け知らずで、プロ入りの話もきているらしい。


 ここからはシングルスメンバー、その一人目。勝つべきときは勝ち、負けてもよいときはとことん負ける――という安定した選手だ。

 その驚くべき点はこちらの二連勝、または二連敗時に必ず勝つということであり、団体戦において欠かせない人となっている。


 そして、シングルスの二番手。言わずも知れた部長だ。

 実力だけで現バドミントン部の部長の椅子を勝ち取り、それに見合った成績を収めた方で、折り紙付きの実力を持つ。


 最後に、シングルスの三番手。俺こと畔上翔真だ。

 運のいいことに今年は全国大会への出場権までいただき、また、今大会においても先頭三組が勝ってくれるものだから未だに試合をしていない。


 だけども、トリとして選ばれた使命と覚悟を持って、出番の際にはきちんと臨みたいと考えている。


 試合前のアップを終えれば、いよいよ時間は迫ってきていた。

 真の勝者を決める戦いが、今、始まろうとしている。



 ♦ ♦ ♦



「貴校は高校総合体育大会兼九州・全国大会予選、団体戦の部において、頭書の成績を収められましたので、これをここに賞します」


 全てが終わり、表彰式。

 口上とともに手渡される賞状を部長が受け取り、同様に俺が代表してトロフィーを手にする。


 いきなりの結論で、突然の結末。

 けれど、その過程において語ることなどは何もない。


 危なげなく勝ち進み、決勝戦のみ五戦目までもつれ込むという接戦具合をみせたものの、劇的な展開が起きるわけでもなく、俺たちは優勝を果たした。


 ただ、それだけである。


 その帰り道。

 唯一の勝者は喜色の声を、それ以外の敗者は後悔の念を携えて歩いている中で、視界に一人の男が入ってきた。


「畔上翔真」


「……国立、亮吾」


 彼は、パーカーにジーンズという私服姿で現れる。

 その出で立ち、そして選手として会場で見かけなかった事実に、先日のトーナメントで負けていたのであろうことを察した。


 だが、それはそれとして何の用なのだろうか。


「……個人戦では、君の負傷で戦えなかった。団体戦は、俺たちが不甲斐なかった。けどまだ、九州大会、そして全国がある。君には負けない。再戦して、叩き潰してやる。――それだけを言いに来た」


 ビシッと指を突き付けられ、そう宣告される。

 悔しさからか、その腕は震えていた。すぐに下ろされ、用は済んだとばかりに返される踵。


「……――俺にも、戦いたい相手がいる」


 遠ざかる背中に、届くように少し声を張り上げて伝える。


「練習でも、模擬試合でもない、負けたら終わりな大会という場で。でも、そいつはアンタに負けた。もう、九州大会という場しか残されていない。……だから、申し訳ないけど、俺はアンタよりもそいつが勝ってくれることを祈るよ」


 面と向かって、真っ直ぐに挑戦しに来てくれた相手に悪いとは思うが、俺は俺の思いをしっかりと返した。


 相手の足は止まる。

 振り返ると、もう一度指を突き付けてきた。


「――だったら、俺がまた勝ってやる。その何某にも、君にも勝って認めさせてやるから覚悟しておけよ」


 だけど、彼の腕はもう震えていない。


 やり取りを終え、残された俺は皆が待つ駐車場へと向かう。

 その道すがらに思った。


 勝負というのは残酷だ。


 勝者がいれば、敗者がいる。

 残る者が現れれば、去る者もまた存在する。


 だけど死ぬわけではない。

 嘆き、折れて挫け……それでも、また立ち上がれる。


 全てを勝者に託して、彼らは次を――前を向く。


 だから俺たちも、その思いを受け止め、先へ進まなければいけないのだと感じた。

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