June

6月1日(土) 県大会・団体戦・一日目

 高校総合体育大会兼九州・全国大会予選。その団体戦。

 先日行われた個人戦とは会場から違い、今回は北九州市にある総合体育館で開催されている。


 その入口へと、俺は部員でありスタメンでもある五人を連れて歩いていた。


 ……さて、ここで頭の良い、もといバドミントンに詳しい人であれば気が付く違和感が存在する。


 バドミントンの団体戦とは全部で五回――ダブルスを二戦、シングルスを三戦し、先に三勝した方が勝ちというルールだ。

 となれば、必要な人数は七人。一方で俺たちは六人。ルール上、二番目と三番目に出場するシングルスの選手はダブルスにも重複して出場できるため別に問題はないのだけど、選手の体力の関係などを含めて普通は行わない。


 では、なぜウチではそれを行っているのか。

 そして、それに伴う我らバドミントン部の致命的な事実を教えよう。


 単に弱小部活動であり、部員がそれだけしかいないから――とただそれだけの理由である。


 故に、何の迫力もなく、圧力もなく、彼らは気まま勝手におしゃべりを楽しんでいた。


「けど、亮吾くん凄いよねー! 県大会一位を取って、一人で全国大会に出場しちゃうんだもん」

「それな、さすがは俺たちのエースだ」

「もしかすると、このまま俺らが優勝しちゃったりして?」


 ――そう軽口を言い合う彼らをよそに、ロビーの対戦表を俺は覗き込んだ。

 一回戦はそれほど強くない中堅校といった感じか。だが、それ以上に気になるのは畔上翔真と、それから蔵敷くらしきそらがいる学校。


 彼らとは同じ側の両端という位置関係だから、三回勝たなければ当たらないということになる。

 なお、今大会の本日の予定は二回戦まで。


 生き残らなければ、再戦の道はない。



 ♦ ♦ ♦



 結論からいえば、俺たちは二回戦で負けた。

 マッチカウント一対三――俺が同時に出場したダブルスで勝利して以降、ダブルス・シングルスと三本奪取され、控えていた五人目が出ることもなく、あっさりと試合は終わる。


 悔しい……負けたことが。辛い……ここで再戦できなかったことが。


 けれど、別に部員を責めるわけではない。

 アイツらはアイツらなりに頑張ってくれた。それどころか、独りだった俺にちゃんとした部を与え、ずっとついてきてくれた。


 あるのは、そこに対する感謝だけだ。


 観客席から覗く目下のコートでは、それこそ畔上翔真率いる学校が二回戦を行っていた。


 そのメンバー構成を見ると、少し意外で理解し難い部分も見られる。

 まずはダブルス。こちらはそれぞれが個人戦で三位と一位を取っていた二年生コンビと三年生コンビだったはず。単純に強く、また、問題もない。


 だが、シングルスは話が違う。

 シングルスの二番手、そこに出場しているのは蔵敷宙ではなった。


 確か……部長といっていただろうか。俺が個人戦の一日目で下した相手。

 どちらとも戦い、勝ったからこそ言えるがその席だけ出場すべき選手が違うように俺は感じる。


「…………なんて、外部の俺が言ってもどうしようもないか」


 気持ちの誤魔化しだ。

 畔上翔真と戦えない不満を別の所へぶつけているだけ。


 その時沸いた一際大きい歓声に、我を取り戻す。

 見れば、畔上翔真の学校は買ったらしい。それも、最初の三戦のみで。


「九州、全国大会では負けない。必ず倒してやるからな」


 強く拳を握りしめ、俺は去る。

 敗者は敗者らしく、リベンジに心を傾けて――。

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