模擬戦


 3人で写真を撮り終え、ターニャの食事を眺めつつ雑談をし、その後に宿を出て冒険者ギルドへとやってきました。


 冒険者ギルドへ着いて真っ先に地下の訓練所へ向かいます。

 この地下訓練所は使用できなくとも一般人も出入り自由で見学ができます。

 昨日私もセリスの魔法を見るのに入りましたしね。


「昨日も思ったけどここじゃ大規模魔法の練習ができないよね。空間魔法で拡張くらいすれば良いだろうに」


 全身黒い魔女の格好をしてふよふよと浮かぶ幼女なセリスが呆れたような呟いた。


 写真を取り終えた後セリスは小さな姿に戻ってしまったんですよね。

 私としては大きい方が魅力的だと思うんだけど。


「馬鹿みたいに維持コスト掛かるしそういう目的で作られてないんだから当然だろ?」


「普通の魔法使は大規模魔法なんて絶対できませんよ」


 普通の魔法でも中級で大変なのに。

 私も魔法使えますがそんな大規模魔法なんてとてもとても………


「メリル、私は絶対できないとか無理とか不可能なんて言葉は聞き飽きるほど聞いてきて、それら全てぶち壊してきたんだ。

 だから私から言わせてもらえば…………ちょっと待って、言葉を選ぶ」


「え?今凄く良いこと言おうとしてたじゃないですか?」


「その……メリルが言った事をあまり強い言葉で否定したくなかったから」


「………お前ら本当に仲良くなったな」


 ……なんというか、こう……生意気そうな目付きの鋭い子供がここまで素直に答える姿が可愛いじゃないですか。


 なんて考えながらセリスの方を見ると目が合ってお互い苦笑してしまいました。


「言葉を選ぶ必要なんてありませんよ。

 私も深く考えず無理なんて言いましたけど、修行したらできるようになるかもしれませんし」


「それはメリルの努力次第なんだが……

 うん、気にしなくて良いならズバッと言うとするよ。

 ………コホン、無駄とかそんなのはやってみなければ分からない。

 失敗しても失うものが軽いならやってみるべきだよ。

 ダメなら別の方法で、その繰り返しから新たな発展が生まれる。

 成功とは百、千にも届きそうな程の失敗の積み重ね。

 それができるできないも決めるのは他人ではなくソイツ自身心の強ささ。

 だから、私から言わせてもらえば自分自身が選んだ道に無理とか無駄なんて言葉は関係無いんだよ」


「けっきょく言葉選らんでんじゃねえか」


「セリスの根は優しいですからね」


「私の事を優しいなんて言うのはメリルくらいだけどね………………こんなこそばゆい話よりもここって空いてれば勝手に使って良いのかい?

 そっち空いてるんだが」


 訓練所では既に何人か模擬戦なんかをしている団体がチラホラいまして、セリスが指した場所は周囲に人が居なくて広いですが奥の方ですね。


「場所を使うのは自由だけど武器のレンタルと模擬戦用の魔法具に金がかかるな。

 レンタル武器は全て刃が潰れてるから危険性を抑えられて長く戦えるんだよ。

 んで、場所はそこで良いとしてセリスは何の武器を使うんだ?」


 そういえば模擬戦するって話でここに来てたんでしたね。

 セリス達との雑談が楽しくて忘れかけてました。


「ん~……フォークだろうが何だって使えるんだけど………

 そうだね、この姿だから草刈り鎌が良いかな」


「ねーよそんなの」


「貧乏平民の子供が一番持ってそうな武器だろうに……」


「セリスって平民だったんですか?」


「あれ?言ってなかったかい?私の生まれは山に囲まれた田舎だよ」


「奇遇ですね。私の実家も山に囲まれていて何処までも畑が続いてそうなド田舎の出身です」


「けっきょく武器何使うんだよ!」


 ターニャに怒られてしまいました。

 ごめんなさいと謝ると言い過ぎたとターニャも謝ってきました。


 ターニャはまだセリスの事を良く思ってませんからね。

 面白くなくてつい強い口調で言ってしまったのでしょう。


「あ~……ターニャは剣を使うんだよね、ならナイフで良いよ」


「それじゃ借りてくるから待ってろ」


 そう言ってターニャは早足で窓口の方へ行ってしまいました。


「セリスって武器も使えるって話ですけどどれくらい上手いんですか?」


「どれくらいねぇ……それ1つを極めようとしてる奴に同じ武器だけじゃ敵わないけど、並の使い手より上手く使えると思うよ」


「なるほど……ではあの模擬戦はどう思います?」


 この位置から見える剣士同士の模擬戦を指差して聞いてみましたが……聞いてはいけなかったのでしょうか?

 何故かセリスの魔力の色に靄がかかったように感じた。


「何て言うか……ずいぶんとお上品な戦い方……

 メリル、あれは演武の練習だよ。

 間違っても模擬戦なんて言っちゃいけないからね」


「え、えぇ……」


 強く言われて驚き空返事してしまいました。

 ……あれは模擬戦ですよね?

 ターニャと何度か来てますから見る機会はそれなりにありましたから見間違えるはずない……と、思います。

 ほら、私は戦うなんて対魔物の護身用として使う魔法くらいでそれ以外はからっきしですもの。




 ・




 ターニャが手続きを済ませて私達はスペースに付きました。


 トレーニングの際は手続きの必要は無いようですが、さっきターニャも言ってましたが模擬戦をする為の魔道具が存在し、使用手続きをしてお金を払い利用する形になります。


 この魔法具には守りの魔法が込めらており、体にペタリと張り付けて効力が発揮します。

 守りの魔法は一定以上のダメージを受けると張り付けた印と一緒に消滅します。

 守りの魔法がどれくらいの耐久力が残っているから色で分かり、印を張り付けた者同士だと何の反応もありませんが、付けてない相手に攻撃しようとすると痛みがするそうです。


 模擬戦のルールは単純で魔法が消滅した方が敗者。

 相手の印が効力の減った赤になっているの強力な魔法を使うなど殺すつもりで放つも同然なのは反則負け。

 眼球への攻撃は禁止。

 これだけの分かりやすいルールですが、あると無いとでは大怪我をするリスクが天と地ほどの差があるそうです。


「ふうん……ま、いいや。それじゃ手加減してやろう。

 ドラゴンに挑むのと同じ覚悟で掛かって来るがいい」


「……じゃあお言葉に甘えて先にいくよ」


 ターニャの装備は剣と盾で、盾を装備しているのにとても早く距離を積めて剣で突く。


 それをセリスは軽い足取りでスレスレを避けます。

 ほんの少しの動きで回避したセリスはナイフを器用に使い、剣に擦り付けるように進めターニャの顔を狙う。


「えっ?」


 当然ターニャは盾で防いごうとしていた。

 そこまでは目で追えたけど気が付けばターニャの重心が崩れて転び、セリスがナイフを振り下ろす。


「おっと、ここで守りの魔法を削りきったら掛け直すのにまたお金掛かるんだろう?」


「え……ええっと、分かりません」


 当たる寸前ナイフを止め、クルクルと回しながら確認してきたけど、そこら辺私はよく分からないです。


 それよりも……セリス今何したの?

 魔法の気配一切無かったんですけど?


「……あぁ、掛け直すのには金が掛かるぞ」


「なら剥がれるまでやるのは勿体ないから仕切り直しね。

 今度はもっと指導できるよう努力するよ」


「……本気で行かないと勝てそうにないね」


「ん?だから手加減してあげてるじゃないか。

 私は魔法を一切使わないから魔法への警戒は捨てて良いよ。

 あと、私は誰かに指導するのは初めての経験だから下手くそでも許しておくれ」


 セリスの余裕に満ち溢れた言葉を聞いてもターニャは嫌そうな顔も魔力もしていません。


 それにしても魔法は使わないですか……ちょっぴり残念です………


 ターニャは盾をメインにした動きでセリスに攻めにくくさせる形で攻撃を仕掛けます。


 ターニャは自分のペースで攻撃を続けセリスは攻撃を反らしたり避けるばかりです。


 しかし、ターニャが攻めているのに苦い表情をしていて、逆にセリスは焦るどころか自分の被っている帽子が汚れないよう気を使うくらいの余裕が見てとれます。


「ハッ、ハッ、ハッ……」


「疲れてしまったかい?う~ん……筋は……まあ良いと思うよ?

 体力もあるし才能は……まあ、天才とは言えないがあるだろうね。

 ただ攻撃が素直すぎるから……ただの実戦じゃなくて、血と泥臭い戦い方を覚えて、薄氷のような勝利を重ねていけばもっと延びるんじゃないか?」


 ターニャは途中から隙を作ろうと力を込めた大振りの攻撃を増やしていった結果息が絶え絶えになっている。


 そして今、セリスはわざと話し掛け時間を作りターニャの回復を待ってあげています。


 私が実際に見てきた冒険者の中でターニャはかなりの実力者に入ります。

 そのターニャが目の前の一回り程年下の姿をしたセリスに手も足もでない光景に凄く違和感というか複雑というか……

 うん、現実味の無い光景に不思議な気持ちになりますね。


 セリスの本来の姿を知っていても異様に見えるこの光景ですから、この場にいた他の利用者にとってはもっと異様……というより異常な光景にみ見えているに違いありません。

 周囲の目線が二人に集まってしまっています。


 休んでは攻めるを長い時間続け、


「ハッ、ハッ……参りました…………」


 ついにターニャが剣を持ち上げられなくなってしまいました。


「良く頑張ったね。

 最後の技、ただ放つのでなく先に砂を相手に掛けるなど一工夫すれば当てやすくなるだろうから自棄にならないように」


 最後の最後にダメ元で放ったターニャの技、剣が赤く光、速度と威力を上げるパワースラッシュも簡単にいなされてしまう。

 そしてついに疲労で剣を持ち上げられないターニャが降参をしました。


「おいターニャ!」


 息を整えているターニャに呼び掛けてきたのは2つ横のスペースを使用していた団体の一人……

 アウルさんですね……悪い人じゃないですけど私この人は好きじゃありません……


「なんだ……アウルのおっさん……」


「アウル?」


 セリスが一瞬反応を示しましたが顔を見た瞬間興味が失せたのか私の隣に並んできました。


 そのアウルさんは不機嫌そうな声色でターニャに返事を返します。


「お前こんな子供に負けるって弱くなったんじゃないのか?

 こんな弱いドリーミーの娘なんかとばかり旅してるから鈍るんじゃねーのか?」


「あ?」


 セリスからとても冷たい声が出ました。


 同時に魔法使いでは絶対に無視できないだけの強大な魔力が一瞬だけ漏れ出した。


 ドリーミーである私の羽は当然として、私意外にもこの場にいる魔法使いがセリスの魔力を関知してしまったらしく、彼らは気楽な様子から一変し、顔をこわばらせ固まっている。


 それを見てそんなに怖いかな?

 と思いましたが、私に対してはセリスが守ってくれているのだと魔力の流れから分かって、だから傍観者のような感想しか浮かんでこなかったのかと気づきました。


 ……まあ、怖くは無いですけど、セリスが怒っていてどうなるか不安ではありますよね。


 現在は魔力を外にこそ出さないようにしていますが、セリスの中に渦巻く魔力は穏やかではありません。


「貴様が誰だか知らんが、そのドリーミーの娘と言うのはメリルの事を言っているのか?だとしたら訂正しろ。

 貴様が思うよりずっと彼女は強い。この私が認めた程にだ」


 セリスは鋭い目付きを更に細め、薄い笑みを浮かべている。

 猫のような笑みを見慣れてきていた私にはその笑みが少し怖く感じました。


「何を怒ってんだ嬢ちゃん?

 あんな呑気な旅をしてれば腕も落ちるのは当然だ。

 だがまさか嬢ちゃんみたいな小さな子に負けるほどとは思わなかったがな」


 アウルさんはしゃがみこんでセリスの目線に合わせて子供に言い聞かせるようにそう言った。

 怖いもの知らずというか何ていうか……さっきの模擬戦見てなかったのでしょうか?


「訂正する気は無いか……なら私と模擬戦をしようじゃないか。

 私の友を侮辱したことを後悔させてやる。

 完膚なきまでに徹底的にそのプライドをズタズタにしてやるから己の愚かさを噛み締めながら感謝しな、ド素人」


「流石に口の聞き方が悪すぎねえか?

 ……仕方ない、小さな女の子を殴るのは気が引けるが教育してやろう」



 ・



 アウルさんは私がターニャと出会う前からターニャの事を知っている人で悪い人ではありませんが口調のキツイ人です。


 私の事をドリーミーの娘と呼びますが、ドリーミーだからと差別する他の人と比べればずっと同じ"人として"接してくれます。


 ただ、アウルさんのせいで私がドリーミーだと言うことがこの町ではそれなりに広まってしまっているのも事実ですけど……


「おい嬢ちゃん、構えなくて良いのか?」


 お互いに魔法具を張り付け向かい合う。

 しかしセリスは先程と違い手には何も持っていないだけでなく棒立ちです。


「構え?何故私がそんな事をする必要があると思った?

 ……あぁ、私が魔法使いだって事も解らないくらい目が悪かったのか、それなら謝罪でもしようか?」


 とても平然としていて鈴を鳴らしたかのような声でそう言ったセリスなのですが、完全に怒っている事が魔力から伝わってくる。


 怒りながらもその魔力に淀みは一切なく、常に一定の速度で身体を巡回しているように感じてとても不思議な感覚がする。


「それに……出さずとも絶対に勝てる戦いで何故全力を出す必要があるんだい?」


「……こりゃ口喧嘩じゃ勝てそうにねえな。

 だがくっちゃべってないでさっさと掛かってきな。

 攻めを譲ってやるよ、レディファーストだ」


 セリスの魔力が重たいものに変わっていってる……

 けれど笑っている。私の知っている笑みと同じなのに毛色が違いすぎて別の笑みに見える。


「……貴様は馬鹿を通り越してどう評価したら良いか分からないな。魔法使いに先手を譲る?

 チリも残さず消えたいようだな。

 だが……確かにその方が格の違いが分かりやすいかもしれん。

 良かろう、ではこの覇王がその願い聞き入れてやろう」


 セリスが手を上げると、その手の平から浮かぶように青い光を放つ球体の形をした魔法陣が出現する。


 その魔法陣は見たことのない模様で作られており、模様は一瞬毎に他の模様へと変化するのが見てとれる。


「ーーーーーーーーーーーーー」


 自信に溢れた表情をしたセリスは聞いたこともない言語で詠唱を開始する。


 その溢れる魔力により地面が変色し魔方陣と同じ青い光を放ち出す。

 私はその光景に魅了されたかのように、半分放心したかのようにに自分の帽子を外し、翼に全神経集中させて魔力を感じようとするけど自分の行動に気付けない。

 それくらい私は魅了されて、その魔力は私に対してはとても暖かく優しくて温もりすら感じる中、限りなく感じにくいもののハッキリと怒りを感じる。


「クッ!」


「レディファーストはどうしたんだい?おにいさん?」


 アウルさんが技を放ち体が一瞬赤く光と瞬く間に距離を詰めて木剣で切りかかるが、セリスは身を反らすだけで簡単に避けてしまう。


 魔法は中断されてしまい、地を光らせていた心地よい魔力も四散してしまう。


 もっとあの魔力を感じていたかった………


 ………いくらなんでもアウルさんをお兄さん呼びって無茶じゃありませんか?

 アウルさんは40歳ですよ………


 ここで自分の手に帽子がある事に気づき、いつ外したんだろと想いながらも急いで被り直しました。


「ふざけんな!殺す気か!!!」


「それが望みだったんだろう?

 男が自分の言葉に責任取れないとは嘆かわしいと思うけどね」


 アウルさんの余裕の無い叫びをなんでもないようにあしらう。


 どこまでも小馬鹿にした口調なセリスはとうとう余所見を始め、私とターニャの方に顔を向けた。


「ターニャ、これから私が見せる戦い片を覚えておくんだよ。

 絶対に参考になるだろうからさ」


 セリスが余所見しをていてもアウルさんは攻撃を仕掛けようとしませんでした。

 男性としてセリスに指摘された事を気にしているのでしょうか?


「メリル、あれは攻撃しないんじゃなくて攻撃できないんだ。

 余所見してるがアウルのおっさんの微妙な動きに合わせて重心を変えている。

 セリスは挑発して誘い込んでいたが煽り過ぎて逆に警戒されて気付かれたんだよ」


 と思っているとターニャが小声で耳打ちし補足してくれました。

 なるほど、動けない………良く分かりませんけど言いたいことは何となく分かりました。


「む、私の挑発が失敗したみたいな言われで気に入らないな。

 それに挑発してた訳じゃないしね」


 え?今の聞こえたのでしょうか?

 かなり小さな声だったのに………


「さてアウル、貴様が良い奴だろうが悪い奴だろうが関係ない。私が気に入らない奴は等しくぶちのめす。

 それはこっちに来てからも変える気は一切ない……ね!」


 今度はセリスが距離を詰める。


 大人と子供の体格差と剣を持つと持たないのリーチの差は明白で迎え撃つアウルさんの攻撃の方が先にセリスに届くがそれを危なげ無く避ける。


「パワースラッシュ!」


 アウルが続けて技を放ち、技の派生の速さもあり回避は不可能と思えた。


「……え?」


 次の瞬間、アウルさんが宙を舞う。

 数十㎝の高さを高速で回転したアウルさんは顔面から地面に落ち、崩れ落ちそうになったのところをセリスが蹴りを腹に当てた。


 結果、V字を逆にしたような体制でアウルさんはお腹を抑え呻き声をあげている。


「今の動きは見えなかったな……何をやったらあんな回転が入るんだよ……」


「まあ最終的にこんな事もできるようになれば良いんじゃないかって見本だからね。

 ほら、いつまで寝てるんだい?

 こんな平和な町周辺に閉じ籠って世界を見ようとしないから弱いんじゃないのかい?」


 う~ん……セリスが凄いのは分かりますけど、そんなになのでしょうか?

 動きが凄いのは分かりますよ?

 凄すぎて私には分からないくらい凄いって事くらいには……


 問題は守りの魔法が掛けられていても痛いものは痛いということですが、痛みを和らげる効果はあるんですよ。

 常日頃から鍛練してるのにこの悶絶のしかたって…………

 痛みや死と隣り合わせなのが冒険者と言っても過言じゃないと思っていたのですけど……

 もしかして認識が違っているのでしょうか?

 華やかな一撃ではありましたがアレだけで身動き取れなくなるのは以外です。


「ターニャ、守りの魔法が掛けられているのにあんなになるものなのですか?」


「守りの魔法は攻撃を受けても怪我をしなくする効果と『痛みを和らげる』効果しか無いからな。

 それだけ重い一撃を受けたんだろうが、何故魔法が剥がれてないんだ?」


 なるほど……理屈は分かりますがよく分かりませんね。

 ただ、何故剥がれてないかは分かります。


「セリスは蹴る時に魔力を流して守りの魔法が壊れないようにしてたので当然だと思いますよ」


「鬼かアイツ」


「覇王だよ。……と、そうだ。

 良いこと教えてあげよう、悪の心得その11。

 力の差を理解できず突っ込んでくる阿呆は絶好の金蔓だ。

 むしり取れるだけむしって放してやると数ヵ月後にまた収穫できる」


「やっぱり鬼だろお前」


 どうしよう……否定してあげたいけどできない。


「さて、ようやく立ったね。

 謝罪もせずこの結果を選らんだのは貴様自身だ、私が満足するまで付き合ってもらおうか」


「ま、待ってくれ!謝る!謝るからもう止めてくれ!」


「言ったろ、この結果を選らんだのは貴様だ。

 もう……「セリス、もう良いですから、許してあげてください」


 ………え?何でそんな呆気にとられたような……


「あの、私そんなに信じられないような事言いましたか?」


「え、いや、メリルが良いと言うなら私はそれでも良いんだが……良いのかい?」


「私の変わりにセリスが怒ってくれたので十分です、ありがとうございます」


「お礼なんて必要無い。その……友達なんだから当然だろう?」


「それでもですよ、ありがとうセリス」


「………そっか、うん、わるくないね……よし、じゃあ友達として何か言いたいこと頼みたい事があるなら遠慮なく言っておくれ!」


 照れて頬を掻いてたセリスが胸を張って照れ隠しをする。

 うん、可愛い。

 なんと言いますか、可愛すぎてからかいたくなる感じです。


「う~ん……それなら元の姿に戻ってほしいです。

 今の姿も可愛いですけど、頼り概があって綺麗で格好いい姿の方が私は好きでしたので」


「ん……んん~……そうかいそうかい」


 照れすぎてとうとう帽子を使い顔を隠してしまいました。


 ……と、思ったら帽子を高く投げ、私が帽子を目で追った一瞬の隙に元の姿に戻り帽子をキャッチし被り直す。


「フフフ、お望み通り頼り概があって綺麗で格好いいセリスさんに戻ってみました」


「うん、凄く素敵だと思います」


「当然。あ、すまないねターニャ、技術を見せるとか言ったけど見せるのは今度になりそうだ」


「おう、全然構わないよ」


「さて、区切りも良いし一旦昼食にでもするかい?」


「そうですね。今日のお昼はお魚が良いです」


「私は肉が良い」


「私も今は魚の気分だから2対1で魚だね」


 思ってもないトラブルもありましたが大きな問題にならなくて済みました。

 アウルさんには悪いですけど、少しスカッとした気分で私はセリスの横に立つと、セリスが手を握ってきたので握り返しました。

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