第7話エリザベート・バートリの末裔

この血をもってあのお方の心が安らぐならば、唇から流れ出る血を捧げましょう。葡萄酒よりもかぐわしく、薔薇の花のよりも赤く染まって、この私の血があのお方の舌を蕩かせるのなら本望です。そのときあのお方は睡余のけだるさに身をあずけ、頽れた聖書を黒いエナメルヒールで踏みつけて、婉然と笑んでおられることでしょう。あああのほほえみがうるわしい唇から絶えぬようにと、幾人もの血が流れてきました。鳩の臓物のような生牡蠣をひとつふたつと啜るように召し上がり、豪奢なフィンガーブレスレットをつけた御手で私を招き、リングにほどこされた刺で私の唇を傷つけて、さらなる血をご所望になるあのお方は、エリザベート・バートリの末裔、あるいは彼女のしもべにして生ける鋼鉄の乙女。私の亡き母も、そして煉獄にて浄めの焰を待つ姉もあのお方にお仕えした末に、体中の血を捧げて果てました。もののはずみで首を刎ねておしまいになるほどあのお方はご性急ではなく、私の母は剃刀の刃が仕込まれたアメジストのネックレスで日々少しずつ血を抜かれてゆきましたし、姉は全身に薔薇とユニコーンのタトゥーを施され、血のにじむ針をあのお方が一本ずつ嘗めとって、三年かけて果てました。ええ、あのお方は他でもない、貴婦人と一角獣のタペストリーを姉の躯に彫ったのでした。貴婦人のまなざしはあのお方の瞳そのものでした。裸身に黒薔薇のレースのヒールを履かせて、ガラスのケージに閉じ込めて、あのお方は朝な夕なに姉を眺め、煙草とコニャックの芳醇な香りに満たされて、夜が更けてゆくのを怠惰にお楽しみ遊ばしたものでございます。私のさだめもすでに知れたこと。この唇の血が尽きるまであと幾年かかることでしょう。どうかこのたましいが体を離れ、憐れな女たちとなぐさめの抱擁を交わすまで、私はあのお方にお仕えしとうございます。

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