第6話あやかし万華鏡

麗しき人形を愛でに愛でても儚くて、手ずから壊してしまった過ちにおののいたところでもう遅い。きっとさぞかし私を怨んでいるのでしょうね。兄様がくださったこの人形を命にも代え難いほど大切にしていたというのに、時が過ぎればただの置きものとなって、日に日に色褪せてゆくさまに愛想を尽かして早七年、兄様もこの家を出て美しい花嫁のお婿さんになりましたから、私の片恋も破れてしまったのでした。幼かった私は兄様がくださった人形のように髪を伸ばし、母さまからいただいた紅椿の浴衣を纏って、 金魚鉢を覗きながら童歌を歌ったものでした。人形になれなかった私は人形の真似をして、母さまの点てたお茶を兄様の部屋まで運んだものの、一足踏み入れるなり兄様からお叱りを受けたのでした。兄様は万華鏡を集めるのがお好きで、部屋にはその蒐集物が所狭しと並んでいたのです。女子供の愛でるような万華鏡に御執心だったのがきっとお恥ずかしかったのでしょう。ある時私は兄様のいらっしゃらない折にお部屋に忍びこんで、数多と並べられた万華鏡を覗き込みましたが、その奥に儚げな美女が映ったのは幻だったのでしょうか。ほどなくして病がちだった隣屋のお嬢さんが亡くなったと聞きました。万華鏡に映じた美女はそのお嬢さんのお顔で、兄様の初恋の人だと知ったのは、それからしばらく経ったのちのことでしたが、それきり兄様は万華鏡を集めるのをぱたりとやめて、お婿へ行ってしまったのでした。私は部屋に残された万華鏡を一つひとつ眺めましたが、そのうちのひとつに私の顔が映っているのを見てしまった時にはすでに、人形の腕をいでしまったあとでした。

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