第71話 魔法と魔術。

 

 俺達は魔術師アリゼ・クウェルの提案に乗って、冒険者パーティー『グリンガム』に同行させて貰う事にした。


 暫く洞窟の外で待っていると、内部を探索していた大柄な剣士と細身のシーフの二人が戻ってくる。


「待たせたな。中々の収穫になったぜ。村に着いたらお披露目といこうや」

「バンタスがまた罠に引っかかって大変だったよ。あれ程慎重に進めって言ってるのに!」

「悪りぃなコム! ビクビクしながら進むっていうのはどうにも性に合わん」


 どうやらリーダーの剣士がバンタス、シーフがコムという名らしい。豪快な所がなんだかイゴウルに似てる。


 髭を生やしたらきっとそっくりだろうなぁ。


「待ち侘びたよリーダー! この子達、両親と逸れて困ってるみたいなの。クレッセルまで同行させたいんだけど良い?」

「おう! アリゼが面倒見るなら良いぞ!」

「……少しは悩もうよ二人共」

「コムは臆病すぎるのよ! こんな可愛らしい子供達に悪意なんてある筈無いでしょう?」


 頭を抱えるコムと相対して、アリゼとバンタス、更には無口なテメロが同時に頷いていた。

 この僧侶、もしかして良い奴なんだろうか?


「テメロは子供大好きだもんね〜?」

「子供は……可愛い」


 そのテメロの台詞を聞いてシルフェが肩越しに大丈夫か? っと視線で合図を送ってくるが、問題無いだろう。

 本当に殺気や害意を感じられない。


「皆様。図々しいお願いをしてしまい申し訳ございませんが、弟共々街まで宜しくお願い致します」

「おおっ! こりゃあ随分と礼儀正しいお嬢さんだな。俺はこのパーティーのリーダー、バンタスってんだ! 村人出身で名乗る様な性はねぇから、呼び捨てで良いぜ!」

「同じく斥候と罠解除を主にしてるシーフのコム・コルアです。よろしく」

「本当にありがとうございます。私はシルフェ、この子はグレイズと申します」


 シルフェは頭を深々と下げながら礼を述べた。

 俺も続いて首だけを動かして頭を下げる。


「気になってると思うけど、もう一人のメンバーはちょっと恥ずかしがり屋でね。基本的にうちら以外の人がいると隠れて姿を現さないの。いずれ紹介も出来ると思うから気にしないでくれるかなぁ?」

「構いません。無理を言っているのはこちらなのですから」

「シルフェちゃんは本当に素敵ね。見たところまだ成人していないようだけど、とってもしっかりしてる」

「アリゼさんこそ、先程は見事な火魔法でしたね」


 シルフェが何気なく褒め言葉を口にした途端、アリゼは不思議そうに首を傾げた。

 一体どうしたんだろうか?


「さっきの火は魔術よ。シルフェちゃんはどうして魔法だと思ったのかなぁ?」

「ごめんなさい。ちょっとアリゼさんの仰っている言葉の意味が分かりません……」


 俺もシルフェも本当に質問の意図が分からなかった。

 さっきの火が魔術だったのなら初めて見るから仕方がとして、何が問題なんだ?


「本当に分からないのね。魔法はほんの一握りの天才、それこそ城に仕える宮廷魔術師クラスの人間しか使えないのよ。それなのに貴女達はまるで当たり前の様に『魔法』と言ったわ」

「「ーーーーッ⁉︎」」

「そう! その『拙い!』って表情を後ろのグレイズ君もしたわね? 貴女達はもしかして魔法が使えるのかしら?」

「……えっと、どう説明したら良いのか」


 シルフェは言葉を詰まらせて焦っている。仕方がない。ここは俺が助け舟を出すしかなさそうだ。


「この両手足の呪いを代償に、僕が魔法を使えるんですよ。お姉ちゃんはこの事を気軽に他人に喋っちゃいけないって両親から言われてるんです」

「グレイズ君が? 正直に言って信じられないわーー」


 ーー『風の矢ウインドアロー』。


 俺はアリゼの言葉を遮る様にして、地面に風の矢を突き立てた。

 無詠唱まで見せて良いのか悩んだけど、詠唱なんて知らないから仕方がない。


 それに、まだどうして彼等が俺達の探知に引っかからなかったのかも分かってない。下手に嘘はつかない方が良いだろう。


「「「「ハァ〜〜ッ⁉︎」」」」

 四人が一斉に顎が外れそうなほど口を開いて愕然としている。あれ? 思っていたリアクションと違うぞ?


「本当にこんなチビ助が魔法を使いやがったぞアリゼ!」

「信じられない……天才が目の前にいるよバンタス!」

「僕、初めて魔法見た……」

「凄い子供、可愛くて凄い子供……」


 どうやら悪印象では無いみたいだから良かった。シルフェはどこか自慢気に胸を張っている。


 お前も魔法を使えるだろうが。


『ちょっとこの反応からして、シルフェは魔法を使うな。話が拗れる』

『はい! 流石は坊っちゃまです! 素直な賞賛が心地いいですね』

『致し方が無い対応だっつの。話を合わせろ。多分この後僧侶が俺の治療を開始しようとする筈だ』

『畏まりました』


 念話でやり取りすると、予想通り僧侶のテメロが近付いて来た。


「呪いなら、解けるよ?」


 手を翳そうとして俺は首を横に振る。

 試してみて貰うのも良いかと思ったけど、下手に詮索されるのも危険だ。


「この呪いは通常の解呪じゃ解けないらしいんです。僕達が商売をしながら旅をしていたのは、特殊なアイテムを探すという目的もあります」

「そう、か。どちらにしろ、教会で一度試させて、欲しい」

「はい。その時はお願い致します」


 そのままテメロは俺の頭に掌を置くと、くしゃっと撫でて小さく微笑んだ。

 子供好きなんだなぁ。口下手だけど嫌いじゃないね。


「さぁ、これ以上の話はテイレンの村に村人を送り届けてからしようぜ! 俺は腹が減って死にそうなんだ」


 バンタスが賊を縛った縄を引っ張り、コムが背後を見張り進む。アリゼとテメロは村の女性や子供達を誘導していた。


 賊が抵抗しないのは、縄にも魔術が施されていて脱出出来ないからだと教えて貰う。


 村人達はまだ恐怖を拭い切れていなかったみたいだけど、次第に安堵したのか涙を零しながらグリンガムの四人に感謝の意を述べていた。


「坊っちゃま。良い人達と出会えましたね」

「そうだな。村に行ったらそれとなくここがどこの国なのか調べよう。下手に聞いてばかりいると、それこそ種族を怪しまれかねん」

「魔法を使える人がレアだって聞いて思ったんですけど、『収納空間アイテムストレージ』って人族も使用出来るんでしょうか?」

「俺もその可能性を考えてた。俺達の常識は竜人の常識だ。迂闊にスキルや魔法を見せるのは良くないな」

「畏まりました。指示に従います」

「うん」


 それにしても魔術か。俺達の目からは魔法と何が違うのか理解出来なかったな。


 確かカティナママンから、魔術は魔力の低い者が魔法陣で代用する技術だって教わった。


 調べる事が沢山あるけど、自分の世界が広がっていくこの感覚は堪らない。


 どんどん吸収して、知識を溜め、知恵を磨こう。


 ーー早速、目的への手掛かりが増えたぞ。

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