奏《かなで》の物差し 【期間限定公開】より

入国審査 ※一部抜粋

厳しいと言われるヒースロー空港の入国審査で、

とうとうあたしの順番が回ってきた。


「ウィアユ フロ(ム)?」


「え? 風呂?」

(やだぁ〜!

この入国審査官のオヤジ、

レディーのあたしに一緒に風呂に入ろうかって誘ってんのかなー?)


「おっちゃん、それセクハラ!!」

入国審査官の男性にそう返した後、

あたしは真剣な表情で待ち受け画面を表示したままのiPhoneをそのまま耳にあてる。

「もすもす、あたしだ。

実はな、敵国に着陸までは上手く行ったんだが、

入国審査でちょっと問題があってな……。

・・・

何? 何が問題かって?

・・・

オ、オヤジがな、あたしがお風呂に入っている姿を想像して欲情しているんだ。

・・・

ああ。確かに奴も男だ。

キュートでプリティーなあたしのあられもない姿をみたい気持ちはわかるんだ。

それにあたしだってな、一度くらいは欧米人の男性とあんなことやこんなことをする関係を持ってみたいって言う願望もあるにはあるんだ。

だけどな、オッサンは無しだよな?

・・・

もしもし?

ああ、もちろん気持ちは嬉しい。

だけど実際問題、歳が離れ過ぎてたりとか文化の違いとかいろいろあんじゃないか?

だから……、ごめんなさいしようと考えている。

あたしのタイプじゃないから、金積まれても無しと答えていいよな?」


「ウオワッ!?

セィザアゲン?」


「おっちゃん今何て?

あたしを自分のモノに出来ないかったからって逆ギレしてあたしに正座しろって、しょうゆーことー!?」


「アイドンテゥノー!」


(もー!

さっきから早すぎて何言ってんのかわかんねーし〜!)


「ワイズザポーパス?」


「あ、あ、アイムジャパニーズオンリー」


「ノーノーノー!

ビジネス ワアザー?」


(あー!

目的ってことね!

観光って言っとかないとだから……)

「ツアー!!」


「イェ〜ス!!

テンキュー!」


(あ〜。なんとか通じたみたい)


「ハローン、ウィユービスティング?」


「え? え?」


「ンン〜。

ワッデイ?」


「んーんー」


「オッケー。

プリーショミーザバーチャ?」


「・・・」

少しの沈黙の後、あたしはまた電話をかける。


「もしもしあたしだ。聞こえるか?

実はな、あの後またホニャララ言われたんだが、どういう意味だかわかるか?

・・・

なっ、なっ、なんだとぉぉおー!?」


しーーーんーーー〜〜〜………。



それまで渡航者の声でざわついていた入国審査場は、あたしの声の後、しんと静まり返った。



あたしの声が大き過ぎたのだろうか?

順番待ちの外国人達は一斉にあたしの方に注意を向ける。


『じろーーーーーー』


『ドスー!グサー!チクチクー!!』

「うぉー!!

視、視線が痛い。

一体何が起こっているというんだー!?

これもきっと機関の陰謀に違いない!」


『ワァオ〜!』

『アハハ! アハハ!』

『ザッツアメイジーング、

インセインガァァール!!』


周りの反応は無視して、

あたしはまたもやスマホを耳にあてる。

「何ー!?

やはりそうか?

こいつらは機関の刺客だったと言うんだな?

その話kwsk頼む!!

・・・

つまりこのオッさんは、

ばあちゃんのプリーツ(スカート)を見るのが趣味な人なんやな?

そっか、やっぱりな」


(やっぱおっちゃん……、変わってるわ〜!!!)


「電話で相談にのってくれてありがとう。

ウソ・クサイ・コングゥルー」

そう言ってあたしは電話を切った。


あたしは入国審査官とそんなこんな会話がすれ違いながらも、危険人物として日本に強制送還される事無くなんとか入国審査をクリアーすることが出来た。

審査官のおっちゃんも世話になったな!

イカ・クサイ・コングゥルー」


「ホワッツ???」

あたし流の別れ際の挨拶に、審査官のおっちゃんは何故か不思議そうな顔をしていた。


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