121話 雫の実績作り
いきなり僕を推薦するなんて
僕は高位精霊になったばかりだ。そして雨伯の子といっても養子だ。幽閉された精霊を助けるなんて重大な仕事……とても勤まらない。第一、失敗したら雨伯の顔に泥を塗ってしまう。
「やだやだ! こんなに可愛い
「ぶふぐゅっ!?」
僕にデザートをくれた隣の
「まぁ、皆待つのである。確か
後ろから潟さんが近づいてくる気配があって
「雫さまは見た目に反して豪傑でいらっしゃいます。流没闘争の解決にはじまり、貴燈山や月代連山での活躍はご記憶に新しいかと」
……やめて欲しい。流没闘争の解決って言っても淼さまに楯突いた兄が自滅したようなものだ。貴燈は何も得たものはなかったし、月代だってまだ鑫さまの妹さんはまだ行方不明だ。僕は何もしていない。
「何より雨伯の養子でもありますが、元理王と
それも僕の手柄ではない。会ったことのない父上が理王だと知ったのはつい最近だ。それに変なプレッシャーを感じてしまうのであまり考えないようにしていた。
「ふむ。そなたの言うことは分かった。しかしな、いくら我輩の養子でも御上の侍従を勝手に動かすわけには行かないのである。ましてや戦いの最中には」
雨伯が不自然に話を止めた。不思議に思っていると視界の端に楽器を持った精霊が入ってきたのが映った。さっき呼ばれてしまった楽士だろう。タイミングが悪い。
急いでやってきたらしく肩で息をしている。重い空気を感じ取ったのか気まずそうだ。更には周りの給仕からけんもほろろに追い返された。気の毒になってきた。
潟さんは壊れた空気に渇を入れるように咳払いをして話を再開する。
「その点はご心配に及びません。多少の外出は私が同伴するということで許可されております」
多少という言葉の範囲が気になるけど
「あら~、潟が一緒なら大丈夫かしらね~」
「えっ!?」
「姉上!?」
「何を言うんだ。潟どのの実力が高いのは聞き及んでいるが何も……」
「雫に何かあったら御上になんてお詫び申し上げたら良いか……」
さっきとはまた雰囲気の違うざわめきが生まれる。当事者の僕が少し置いていかれ気味だ。
「少し黙るが良い」
ピタッと黙る子供たち。雨伯の声はそんなに大きくはなかったけど威厳と迫力があった。視線が自然に雨伯に引き付けられる。雨伯は思案するように目を瞑り、腕を組んで袖の中にしまう。
「そなたの意見を受け入れよう。雫の経験を積むにも良い機会である」
「父上っ!」
大きな声をあげたのは誰だろう。皆がざわついたけど雨伯が軽く手を上げると再び静かになる。雨伯はすぐには口を開かず、液体で喉を潤した。
「侍従の仕事とは言い難いが、御上の側に仕える者として見聞を広めるのも必要である。行ってみるが良いぞ」
雨伯の言葉に返事が出来ない。でも反論するような隙なんてない。淼さまとまではいかないけど、逆らえないオーラが出ている。こんな展開になるなんて全然予想してなかった。
◇◆◇◆
翌朝。
雨伯の子供たちはそれぞれ持ち場へ帰っていった。各自忙しいらしく、中には昨日の夕食後に帰った人もいたらしい。残ったのは竜宮城を管理する雨伯とその補佐をしている
その二人に見送られ
「ご心配なさることはありません。ちょっと行って叩いて助けて帰ってくれば良いだけです」
潟さんと二人きりになると自然とため息が漏れた。不安な僕の気持ちとは裏腹に
「何でこんなことに」
「雫さまの実績作りにはちょうど宜しいかと。私も付いておりますのでご安心ください」
昨日も潟さんは僕の実績があるからどうのって言っていた。潟さんが僕を推したのは実績があるからではなくて作るためだと言う。だとしたら……
「僕、実績なんて望んでないです」
少しふて腐れてみた。大して広くない空間で潟さんが足を組んだので僕の椅子にぶつかる。真っ白で足は見えないけど僅かな振動を感じた。
「雫さまが望まなくとも御上がお望みです。あとひとつ実績が欲しいと仰っていましたから」
「どういうことですか?」
淼さまが何故僕の実績を望んでいるのか。侍従に戦闘の経験が必要なのだろうか。いざというとき淼さまを守るためだとしても、僕より淼さまの方が絶対強い。
「その内お分かりになります。私の口からは申し上げられません。また余計なことをと父に叱られてしまいます」
「もう着きますよ。昨日来た使者は先に花茨へ戻っているそうです。それと木の王館からも応援が来るはずですので後で合流できるかと」
花茨城の使者とは会っていない。怪我は完治して日が昇るとすぐに出ていってしまったそうだ。詳しく話を聞いておきたかったけど仕方ない。早く帰りたい気持ちは分かる。
「分かりました。僕たちは花茨に入って
「そうです。
ぶっ……て何?
あと倒してしまいましょうって軽く言って澄む問題なのかな。
もう一度雲の隙間から外を覗こうとすると、遠くから何かが破裂するような音がして、
「
「早速、歓迎されましたね」
僕の肩を押さえたのと反対の手を開く。潟さんの手には金属の丸い玉が握られていた。何故木精の城から金属の玉が飛んでくるのか。
「これって……」
「狙われましたね」
宣戦布告かそれとも威嚇か。早速状況は良くない。この分だと
「潟さ」
「存分に叩いてやりましょう!」
潟さんの鼻息が荒いのは絶対気のせいじゃない。
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