58話 火の太子と混合精
雫と別れて
ここは見晴らしがいい。噴火したばかりで風下は煙が多いが、反対側は青空が広がっていた。いくら灯りがついていても、岩に囲まれた空間は暗く、外へ出てから目が慣れるのに少し時間を要した。
会ったのは二、三回ほどだが、
泊まって行けと引き留められ、矢鱈と強い酒を勧められた。俺より先にすっかり出来上がって、
宴席を振り返ったことで、
「さっきは悪かったな」
どちらも確認したいと、上がってくる前に
「お前の連れ……少し言い過ぎた」
口は悪いが、煬も根は悪い奴じゃない。ただ、俺と一緒でカッとなりやすい。更に言えば、熱しやすく冷めやすい俺に対して、熱しやすく冷めにくいのがこいつの特徴だ。
そんな
「そう思うなら後で謝れよ。俺からも言ってやるから」
悪気はないのは分かっている。止めなかった俺も俺だ。雫は謝罪などいらないと言うだろうが、それでは
「……お前の仲間思いは相変わらずだな。
キラという愛称で呼ばれるのも久しぶりだが、『
火はそれ自体で燃え続けることは難しい。出来ないわけではないが、理力の消費が尋常じゃない。だから木とか油とかそういう別属性の物を媒介に生まれた者が多い。
そういう意味では火精は他の属性に比べて
「そんなこと気にすんなよ。俺の親父だって水精だぞ」
雫には言っていないが、実は俺の父親は水の精霊だ。だからと言って俺が
そんな俺でさえ……王太子の俺でさえ、父親が水精だというので流没闘争の際には色々言われた。
「優れた理術で王太子候補にまでなった奴がずいぶん弱気じゃないか」
「弱気にもなるだろ?お前の連れ……あんなに純粋な理力は、
俺達とは数少ない
「ここだ、少し下がれ」
辺りを見回して方角を確認する。噴煙の流れはさっきと変わっていないから、
火山に銅製の扉か……良く溶けないものだ。足場が悪いので半歩ほど下がって、
しかし、暗さよりも気になるのが臭いと温度だ。この臭いはおそらく硫化水素……感じる湿度が実際の気温よりも不快感を増している。おそらくここには温泉がある。
「あまり近寄るなよ」
余りにも暗いので火球をいくつか漂わせて灯りをとった。部屋の様子が少しずつ見えてくる。後ろには閉じた銅扉、前には小さいながらも乳白色の温泉があり、金属製の格子で覆われている。
「まるで囚われの温泉だな。温泉は下にあるって言ってなかったか?」
「……下にもあるがそっちは露天だ。だから目に付きにくいここに水精たちを匿っていた」
確かに外から火山の上部に付いた扉なんて見えないだろう。うっかり見えるとしたら噴火したときくらいだ。
「温泉の中に隠せば水精の気配も弱められるから効率的だった」
なるほど。確かに火の理力に満ちた火山内では効果的な隠し方だ。水精が火山にいたら不自然だが、温泉なら話がつく。
「だがそれを嗅ぎ付けて……アイツがやって来た」
「アイツ? 美蛇か?」
「いや美蛇じゃ……」
急に黙ってしまった煬が気になって顔を覗きこんだ。何か言いたそうな、痛そうな顔をしている。火球で照らすと帽子の下から脂汗を流していた。
「おい、どうした? 具合が悪いのか?」
「ぐ、ふっ!」
床に落ちると間髪入れずにマグマがまとわりついてきた。ある程度まで足腰に絡むとすぐに冷えて岩に変わり、動きを押さえられた。
背中も痛いが腹の方が痛い。顔を上げると片足を腰の高さまで浮かせた
……杖も付かずに。
悪態のひとつも
「何で足が動くかって?」
煬が足を下ろしながら冷ややかに切り出した。何だこれ、尋常じゃなく腹が痛い。普通に蹴られた痛みがこれか? もしかして杖で突かれたか? いや、この痛みはそんなもんじゃない。
「教えてやるよ。俺がどうやってこの足を手に入れたか」
そう言いながら
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