第13話
取り敢えず、服を揃えるために古着屋に行こう。こういうところでは基本的に古着を買うらしい。新品の服というものはあまり買わない。庶民は、という意味だが。流石に下着については新しいものを揃えるか。服について冒険者はあまり頓着しない。どちらかと言えば、防具や武器についておしゃれさを出している。男でも女でもだ。
服は上下1つ、下着を3セット買った。全部で銀貨50枚。ついでに向かいの雑貨店でバックも買おう。獲物を入れる袋とかもだ。
あとこっちが、ギルドで教えてくれた防具屋か…。
「いらっしゃーい。冒険者かな?」
「はい。防具一式を揃えに来ました。」
「予算は決まっているのかな?見たところ新人のようだが。」
「はい。大体金貨1、2枚でお願いします。」
「ほ。結構お金持ちだね。それだけ出せばそこそこいいのが揃うよ。」
「できれば動きやすくて、音を立てないものがいいです。あと、片手で扱える盾みたいなものがほしいです。これは出来れば金属製で、硬いものがいいですね。」
「大分決まってるね。なら、胸当て、肩当て、膝当て、肘当て、股間のプロテクターを革製で揃えようか。ん?胸に何か付けてるのかい?」
「あぁ、これは投げナイフ用を装備するためのベルトです。邪魔になりますかね?」
「うーん、まぁね。ベストタイプの防具を着て、その上にベルトを付けるってのはどうだろう。」
「出来れば、投げナイフを隠したいのですが…。」
「なら、その周り外套で覆ってみたらどうだろう。悪いことは言わない。新人のうちはなるべく防具をいいものにした方がいい。」
「…そうですね。それでお願いします。」
「うん。了解だ。今見繕ってこよう。」
店主に選んでもらったものを体に合わせてもらう。
おぉ…、なんか冒険者っぽくなってきた。ちょっと…、ちょっとかっこいいな…。
「うん。いいんじゃないかな。こっちの盾はどうだい?重いかな?」
手から肘までが覆われる丸い鉄製の盾だ。ん。魔力も伝わせられる。重さもそう違和感がないな。
「大丈夫です。これでお願いします。」
「はいよ。金貨一枚と銀貨90枚だ。ついでに腰に下げたショートソード?ナイフ?かな?の鞘をおまけとして付けとこう。まぁ、冒険者から引き取って売れるレベルじゃないから困ってたものだが笑」
「いえ、ありがたいです。抜き身は危ないですから。」
「そうだね。武器も防具も大事に扱ったほうがいい。ちなみに銀貨10枚で、防具のメンテナンスセットも売っているんだがね…イシシ笑」
「…メンテナンスの仕方を教えてくれたら買います。」
「はっは。いいよいいよ。それで売ろうじゃないか。そうは言ってもそう難しいことじゃない。血や汚れを毎日落とすだけだ。これが、洗剤と洗浄セット、ついでに仕上げ兼防水用の塗料だよ。塗るときと掃除するときはいらない布を使うといい。」
「それだけなんですか?もっと複雑だと思いました。」
「毎回完璧に治そうと思ったらそりゃ複雑になるからね。それは我々の仕事さ。もちろん修理も承ってるよ。ここで大事なのは毎日やるってことさ。自分の防具のどこに、どの程度の傷が、どれくらいあるのか。これを把握していなきゃならない。自分の命を預けるものだからね。」
「なるほど。交換や修理の時期ってどう判断したらいいでしょうか?」
「そうだね~…。下着や素肌が見えるレベルの傷があったらもちろん交換だが、防具を押してみて変に変形したり、水を吸いすぎて変色し始めたりしたら一度見てもらったほうがいい。」
「なるほど。わかりました。ありがとうございます。」
「新人なのに腰が低いね~。こういう時期は皆防具なって気にもしないもんだけどね。」
「死ぬのは怖いですからね。」
「全くだ。なら、当然回復薬は持った方がいい。」
「回復薬?なんですか、それ。」
「傷を治す飲み薬さ。普通新人は手が出せないけど、冒険者は必ず傷用と解毒用に一瓶ずつ忍ばせてるもんだよ。ちなみに、この防具にも胸のところに隠して入れられるよ。」
「おお…。ホントですね。ぜひ買っておきましょう。」
「うん。そうした方がいい。君はお金に余裕があるようだから。勧めておくよ。王都の魔法具店ならどこでも扱っているだろう。」
「ありがとうございます。必ず買っておきます。」
取り敢えず、防具を揃えた後、古着屋で外套を買っとこう。フードがあり、体全体を覆うものがいい。雨が降ったときの対策にもなるし、何より手の動きがバレないのがいい。
防具屋で勧められた店で、外傷用と解毒用の回復薬も調達せねば。両方合わせて金貨一枚か…。高ぇ…。しかし、いざという時の命を救うものだ。ついでに、軟膏タイプの回復薬を2つ購入する。効果は同じだが、長持ちしやすいことと塗ってからの回復が遅いことで、安めだ。こりゃいいかもな。2つで銀貨50枚。回復薬と比べれば安いな…、比べればね。
解毒用はここらにいるような魔物の毒は全般に回復してくれる。外傷用は取り敢えず、骨までくっついていたら元通りになるようだ。いや、すげぇな。切り落とされた腕とかの再生までは出来ない。当たり前か。普通に考えれば不可能だよなと思っていたら、そういう薬はあるにはあるって…。ただ、王都や貴族の騎士ぐらいにならないと持てないほど高いらしい。というより、彼らが大体独占してしまっている。高ランクの冒険者になると何故か一つか二つは持っているらしいが。
ちなみに、魔法具屋では簡単な魔法の授業なんかもやっているらしい。もちろん有料だが。基礎4元素の魔法は使えるが、他にも有用な魔法がある。光源の魔法とか、風読みの魔法、消音・消臭の魔法などがあるらしい。基本的に基礎4元素の複合か応用らしいので、元となる元素魔法を習得していれば、会得は難しくないとのこと。コツは必要だが、こういった授業はコツを教える授業みたいなものだと言っていた。
こういう魔法の教わり方もあるんだな。教わるのはあくまで広く一般的に知られている魔法だからか、魔法を教える方もそこまで気にしていないようだ。もっと秘匿されているものだと思っていたんだけど。
一応、どんな魔法を教えてもらえるかだけ聞いて帰途についた。明日から、食料調達とお金稼ぎだ。頑張らなければ。
宿について食事、体拭き、魔力訓練を済ませ早々にねる。明日は読み書きのために修道院に行かなければならない。鐘がなる一時間前と言っていたからな。早く寝ないと。
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ガヤガヤと朝の声が聞こえてくる。
実は日が昇るあたりから目が覚めていた。でも、こんなに早く行ったら迷惑じゃない?とか、でも遅れたら失礼だし…とか考えていたら時間がかかってしまった。この国は時間を詳細に知る方法がないから大分困る。仕事終わりにしてもらったほうが良かったかな…。あとで、相談してみよう。
早く朝食を食べて修道院に向かおう。
「随分と早かったね。ショー」
「すいません。鐘のなる一時間前っていうのがよくわからなくて…」
「あぁ、別に鐘がなってからでも良かったよ。でも、あんた冒険者だろ?冒険者は鐘がなり始める時間からが仕事の始まりだからね。あまりじゃまになりたくなかったんだよ。」
「そうなんですか。次からはもう少し余裕を持ってきます。」
「そうしなさい。ゆっくりでもかまわないんだからさ。」
「はい。それじゃあ、早速読み書きを教えていただけますか?」
「うん。それじゃあ、こっちにおいで。」
この部屋か、結構広いんだな…。でもやっぱりあちこちボロが目立つな。
お、なんていうか、懐かしい…何でだ?
あぁ、そうか。学校の教室に似てるんだ…。
「はい。この子はアナリア。あんたの先生だよ。」
「?!…イニーアさんが教えてくださるわけじゃないんですか?」
「まぁ、私も忙しいしね。それに、修道院の修繕の恩恵はこの子達が受けてる。受けた恩は本人が返すのが筋ってもんだろう?」
「いや、まぁ、そりゃ理屈ですが…。」
「読み書きの基礎の基礎ならこの子達で十分さ。あんたみたいに読み書きを習いたい人は他にもいるけど皆この方法さ。結構うまく回ってるんだよ。」
周りを見渡すと確かに読み書きは子どもたちが教えているようだ。教わっているのは十人もいないが、確かに子どもたちから教わっている。……ん?
「アナリアです!ショーさんですよね。雨漏り直してくれてありがとうございました。雨の日は私のベッドの上から雨漏りしてきてたんです!雨漏りがなくなってホントに快適になりました!読み書きは私に任せてください!あたしすっごい得意なんです!」
たしかに頭の良さそうな子だ。10歳位だろうか。元気だなぁ…、ちゃんとお礼も言えるし、俺10歳の頃って何やってたっけ…。…ま、いっか。
「ショーです。今日はよろしくお願いします。」
「はい!!じゃあ、あたし準備してきますので、その机に座って待っててください。すぐですので!!」
こちらの返事も聞かずに廊下を走っていった。素直そうで良い子だなぁ…。
「あの…、男性には女の子を、女性には男の子をあてがっているのは意味があるんですか?」
「ん?あぁ、あれはね。お互いのやる気を出すのと、熱くなりすぎないようにさ。」
「?どういうことです?」
「いい年になってようが、子供だろうが異性相手だと大体見栄を張ったり、張り切ったりするもんさ。それに、冒険者は短気な人間が多いけど、子供相手だと怒るに怒れないだろ?まぁ、それでも怒るやつは怒るんだが、読み書きを習いたいって理性的な奴は子供相手に感情的にはならないね。それに、物を教えることで理解が深まるって狙いもある。」
「は~~。結構理にかなっているんですね。」
「あぁ。こういうところから子どもたちの次の職が決まったりもするしね。ま、いいことづくめさ。」
「ショーさん!!準備ができました!!始めていいですか!」
「あ、はい。お願いします。」
「それではまずこちらの本を読んでいきます。あたしが文章をなぞりながら読み上げるので、ショーさんはその後に続いて読んで下さい。この本は、全ての発音の基礎が乗っているそうです。これを全部読み上げることができれば、後はどんな文章でも読み上げることが出来ます。そうすれば、すでに話ができるショーさんは他の文章も読み取ることが出来ます。」
「また、あしたからこの本を書き写すための紙を持ってきてください。明日は読み上げながら書き写し、また読み上げるということを繰り返します。そして、この本を全部覚えてもらうまでしてもらいます。この本があれば、どこでも練習できますしね。」
「なるほど。たしかにそうだね。うん。よろしくお願いします。」
「はい。じゃあ、早速・・・・」
5ページ位の簡単な本だな。騎士がお姫様を助ける王道的な話だ。この本は日本で言うところの、いろはにほへとちりぬるを…、みたいなものなんだろう。確かに覚えておくべきものだ。明日からは、紙を持って教わりに来よう。発音さえわかれば、普通に話せている今の俺だ、大体の本は読めるのじゃないだろうか。
ま、ゆっくりやっていこう。
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授業が終わってからは、昨日冒険者ギルドで教えてもらった一角うさぎ、二突き豚、巻角羊の生息地に向う。俺の大事な飯のタネだ。
持っているのはバックパック、獲物を保管するための袋、各種整備用品、防具、投げナイフ、腰に下げた大きめのナイフといったところだろうか。
取り敢えず、盾を装備した状態で歩き続ける。
最近は投げナイフの作り方も変わってきた。今まではとにかくシンプルなナイフということしか意識してなかったが、最近は重心を先端にするように心がけている。とにかく、先端を重くするのだ。そうすると、ナイフの刃先が対象に向かって飛ぶようなきがする。まぁ、うまく刺さりやすいと言った具合だろうか。
それに加えて、魔力を流せばかなり貫通力が上がる。徐々にではあるが洗練されている印象がある。あとは、風魔法とかを使って飛距離と精度を上げられないかなとも考えている。これはまだ、考えている段階だ。しかし、属性魔法の訓練ってどうやるんだろうな。モニは基礎的な魔法の使い方しか教えてくれなかったからなぁ…。
そうこう考えている、見晴らしの良い草原に出た。ここは、一角うさぎと巻角羊が出るところだ。できれば、羊が出てきてほしい。的が大きい方が安心するし、うさぎはかなりのスピードがあるとも聞いた。
最初の的はなるべく動かないほうがいいからな。
お?なんかこっちに向かってくる生き物がいる…。ぴょんぴょん跳ねながらこっちに来る。羊っていうのは意外とジャンプ力がある。ましてやここは異世界。飛びながら移動する羊がいてもおかしくはあるまい。だんだん、姿形がはっきりとしてきた。どうやら長い一本の角らしきものを備えているようだ。…ふむ。巻くというイメージはいくつかある。巻き貝のように巻いてある状態と、雑巾を絞るときのように捻るような状態も巻くといって過言じゃないだろう。巻角羊…噂に違わぬ可愛らしい姿だ。その生き物は目前にまで迫っている。長い耳が特徴的だ。羊っていうのは長い毛に隠れているが…ガインッ!
あ、すんません。これうさぎですわ。盾構えててよかった~。
やはりと言うべきか、うさぎの動きは早い。盾にぶつかってきては弾かれ、俺の周りを回った後、またぶつかってくる。俺はうさぎの動きに合わせて盾を構えたまま回転。
「ギィッ!!」
ガインッ!!
こんな風に殺すつもりで向かってくる生き物は初めてだ。浮島の鳥たちはのほほんとしてたからな。しかもなかなか重い体当たりだ。中型犬くらいのサイズはある。
「ギィッ!!ギッ!!」
ガンッ!!
落ち着け。投げナイフ…は当たらないだろう。腰のナイフでたたっ斬ればいい。俺は右手にナイフを持って大上段に構える。もちろん盾は左手に構えたままだ。
「ギッ!!」
ガッ!!
「ギッ?!」
「オラッ!!」
当たってくるタイミングに合わせ盾を押し出す。うさぎが体制を崩した瞬間に大きく踏み込んで力いっぱいナイフを振る。
ダンッ!!
「!?」
瞬間。除けられた。そう思った瞬間うさぎがこちらに飛び込むために足に力を入れているのが目に入った。
「ぅぁぁぁああ”あ”あ”!!!!」
地面に寝転がりながら芋虫のように避ける。考えてできたことではない。とっさに避けた結果そうなっただけだ。除けた体の上をうさぎがとんでもないスピードで通り抜けていったのを感じた。
「うあ”!あ”あ”!!あ”あ”あ”あ”!!」
追い打ちをかけられたらやばいことはわかっている。体をがむしゃらに振り回し、そこら辺を転げ回る。
土まみれ、草まみれになりながら起き上がる。
「ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!」
盾を構えたままうさぎを睨みつける。奴はこちらを伺っているようだ。飛びかかってくる気配がない。…どういうことだ?と考えながら、ナイフを持つ手を握りしめる。すると、右手がぬるっとしているのに気づく。うさぎから目をそらさないように、右手を持ち上げ、うさぎと右手を視界に収めながら手の確認をする。
血だ。右手が真っ赤に染まっている。
落ち着け。右手は動く。貧血…のような症状はない。意識はしっかりとしてる。恐らく、先程の攻撃が肩をかすめたのだろう。右肩がズクンッズクンッといっているのがわかる。
だから攻撃してこないのか。血を流し続ければ、そのうち動きは悪くなり、都合が良ければ死に至る。奴は無傷だ。慌てる必要はない。
回復薬…を掛ける隙は見逃してくれないだろう。このまま戦うしかない。
ちくしょう。舐めていた。こいつに出会う前なんて考えていた?巻角羊の方がいいなぁとか考えていなかったか?こっちに来るのを大人しく眺めてはいなかったか?遠目から取り敢えず投げナイフで牽制くらいすればよかったじゃないか。
いや、反省は後だ。今、どうするか考えなければ。
奴は今動いていない。投げナイフのチャンスじゃないか?右手で正確に投げられるか?いや、なるべく失敗したくない。こちらに遠距離攻撃があると知られたくはない。右手は…動く。力も入る。俺はナイフを腰に戻し、右手に盾を構える。ゆっくりと、うさぎから目を離さないように。奴は動かない。長期戦になると踏んだのだろう。当然、長いこと戦えば向こうが有利だ。
左手でゆっくりと投げナイフを取り出す。盾に隠れるように。奴に見えないように。
盾を前に出し半身の姿勢になる。左手の位置は、左肩の上に添える。この位置なら盾が邪魔してやつから見えないはずだ。投げる力は…軽くでいい。奴に届けばいい。とどめを刺そうと思うな。俺と同じ状態にしてやると思え。今は俺が負けてるんだ。上から目線で考えるな。その代わり、魔力を出来るだけ込める。全力で、ナイフに入りきるだけ。…くそっ!!そういえば体に魔力を込めるのを忘れていた。身体強化も肉体強化もしていない。すっかり忘れていた。緊張していたのか?とにかく両方の強化も終わらせる。
よし。これなら、失敗してまた突っかかってきても大怪我することはないだろう。回復薬があれば、怪我も治るだろう。大丈夫。大丈夫。まだ、失敗できる。
「スーーーーー、ハーーーーーー、スーーーーーー、ハーーーーーー。」
息を整える。
肩の力を抜く。
ナイフの握りは軽く。
「フッ!!」
「!!」
盾を引くと同時にナイフを投げた。
くそっ!反応してやがる。
しかし、奴の足の付根を掠った。よし、少しでも傷つけたなら
バンッ!!
と思ったら、足の付け根ごと吹っ飛んだ。ナイフは掠っただけなのにだ。
ナイフに魔力をありったけ込めるとこんなことになるのか…。
奴は右足が吹っ飛んでも逃げようとしている。もう俺なんか見もしない。とにかくここから離れようとしているのだ。必死で。
たとえどんなに弱そうに見えても、冒険者初級の的だとしても、必死なんだ。生きるためにあらゆることをするし、油断することなんてこともない。
もう二度と油断はしない。
盾を構えつつ、投げナイフでとどめを刺した。
「ギィッ!ギィッ…ギッ……ギ………」
動かなくなるまで確認した後、盾をしまい、軟膏タイプの回復薬を肩に塗る。
ちょうど肩当ての外だったようで、傷は意外と深い。とはいっても骨が見えるほどではなかった。痛みが抑えられ、じくじくと肉がくっついていく感覚がわかる。
水魔法を使い血を洗い流す。その後、一角うさぎを血抜きし、解体する。解体作業は鳥と似たようなものだろう。このうさぎの売れるところは、肉と、革と、角の部分だ。特に角は、鉄よりも丈夫で軽いとされており、槍とか矢の材料としての需要がある。特に新人用の槍や、矢として人気が高い。大分ランクが上がった冒険者でも一角うさぎの槍使いがいたりするらしく、なかなか需要のあるものらしい。ただし、こちらが不利だとわかると逃げの一手に入る。これが、手に入りにくい理由らしい。
「ふぅ…」
解体も終わり、一息つく。
まだ、日も昇りきっていない時間だ。まだまだ狩りを続けよう。
これぐらいでヘタっちゃダメだ。強くなるのに立ち止まる時間はない。それにわかったこともある。投げナイフに魔力を込めればかなりの攻撃力があることがわかった。ナイフに魔力を全力でこめ、当てることだけに専念して投げる。そうすればかなりの確率で相手を行動不能にできそうだ。
出来れば、奇襲をしたい。こちらがなんとか相手を探せないか…。
魔力の手を使ってみたらどうだろう?魔力の手を細長い棒状にして自分を中心にして回転させる。鉄とか石とかに魔力を流す感覚だ。途中にあるものに魔力が流れれば、先にこちらが発見できないか?
試しにやってみると、途中にある草とか石とかそういったものに魔力が流れていく感覚があった。が、物が多すぎて何が何だか分からない。しかも、魔力が流れたものを検知しようとしているからか、どんどん魔力が流れていく。これは燃費が悪いな。
うーん。そういえば、メリィを捕まえるときは魔力を薄くしてたな。薄くすれば魔力の節約になるだろうか。
丹田から来てる魔力をまた元に戻す感覚で魔力を薄めたものを伸ばしてみる。
お!これは余計なものを拾わなくなったな。生き物も感知しなくなったら意味ないんだが、どうだろう。薄めた魔力の手をできるだけ伸ばし、自分を中心に回転させる。これは…、左前方50m位のところに動きのあるものを感知した。魔力の手をそこに固定し、ゆっくりと近づいていく。こちらは風下だ。ちょうどいい。
30mくらいに近づくと、どうやら一角うさぎだとわかる。先程の個体よりも大きめだ。投げナイフは確実に当たる距離じゃない。せめて10m…いや、5mまで近づきたい。
ゆっくりと、音を立てずに近づく。どうしても歩くときに音がなってしまう。だから、風が吹いて草を揺らしているときに合わせて歩をすすめる。10mくらいに近づくと相手の動きがわかるようになる。意外とこまめに動いたりジャンプしたりしている。このジャンプに合わせて一歩づつ近づく。こういうのを呼吸を合わせる、というのだろうか。8m…7m…いや、これ以上は無理だ。なんとなくだけど、これ以上は近づけない。頭を高くして耳を立てているからだろうか、向こうも違和感を受けているようだ。
この距離から投げるか…。魔力を極限まで込めたナイフを構える。急所に当てなくていい。体の何処かに当てればいい。2投目をすぐ投げられるように両手にナイフを構える。先程は左手で投げたが、右手のほうが命中率はいい。ゆっくり…ゆっくり…軽く…軽くだ。練習のときも全力で投げるより軽く投げたほうが命中率は良かった。ナイフは軽く握り、人差指に引っ掛けるくらいがいい。
うさぎはそばだてていた耳を下ろし、頭を下げた瞬間。
「フッ」
ダーツのようにナイフを投げる。この投げ方のほうが左右のズレが少ない。威力は出ないが、今、威力は必要ない。
あたった!
右後ろ脚を掠ったようだ。刃先の部分が当たらなかったからか、ふっとんだのは足首から先だけだった。だが、動きを止めるには十分な威力だった。盾を構えながらゆっくりを近づく。
「ギィ…ギィ…」
逃げようとしてるようだ。茂みに隠れようとしている。油断せずゆっくりと近づく。
血の跡がある。急いで近づく必要はない。魔法の手を細く伸ばしたものを回転させ、周囲の警戒もする。周りに生き物はいない。
右手に新しいナイフを握る。少し…手に汗が残っている。投げるときに少し狂いが出そうだ。今後の課題だな。なんとかしよう。ナイフに込める魔力は少なめに。全力の四分の一くらいにしておく。今までの結果から判断すれば、妥当なところだろう。
「フッ」
今度は首の後に刺さった。ナイフはそのまま貫通し、地面にめり込む。まだ、込めすぎていたらしい。
ピクリともしない。絶命したようだ。
先ほどと同じ要領で解体し、めぼしいところを回収する。今回は皮も売れるかもしれない。
袋にはまだ入りそうだな。今度組み立て式の背負子を買ってこよう。この前雑貨屋にあったけどそこまで狩れるはずがないと思って買わなかった。けどこのペースなら買ってもいいんじゃないだろうか。まぁ、それも今日の結果次第か。
日が暮れるまで時間がある。ギリギリまで狩っていこう。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
結果としてかなりの成果になった。一角うさぎ7羽、巻角羊一体だ。いくら位になるのか楽しみだ。
ただ、問題もあった。思いの外、投げナイフの精度が悪いということだ。絶対当てられる距離は10mも行かない。飛距離を伸ばしつつ、精度を上げる。これが当面の目標だろうか。風魔法あたりを応用すればできる気もするんだけどな…。
冒険者ギルドで勧められたとおり狩猟ギルドで獲物を売らないと。めんどくさいなぁ。
「すいません。狩った獲物を納品したいのですが。」
「はい。成果物をこちらにお願いします。冒険者ギルドに所属されてる方ですか?」
「はい。こちらがギルドカードとなります。それと、こっちが狩ったやつです。」
「おぉ~、かなりの成果ですね。あれ?解体の方もかなり慣れていらっしゃいますね。」
「そうですか?自分なりに丁寧にやったつもりです。」
「仕事が丁寧な人はそれだけで信頼されます。素晴らしいことだと思いますよ。これで新人なら大分有望ですね。早速査定に入りますね。」
「ありがとうございます。お願いします。」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「全部で金貨4枚となります。」
「結構貰えるんですね。」
「えぇ、特に一角うさぎの角が高いです。基本的に強いものには向かっていきませんし、危機に瀕したらすぐに逃げます。人間の足ではなかなか追いつけないでしょうからね。でも、イッカクウサギの角には愛好家がたくさんいて需要があるんです。逆に、巻角羊は肉くらいしか需要がありません。重量があるから、食用肉としては需要がありますが。全部納品されるということでよろしいですか?」
「あ、じゃあ、巻角羊の肉はこちらで引き取ってもいいでしょうか。」
「えぇ、構いませんよ。では、金貨3枚と銀貨20枚となります。こちらの証書を冒険者ギルドで提出してください。評価になりますので。」
「ありがとうございます。」
こちらでなんとか食っていけそうな算段がつき、ホクホクですよ。冒険者ギルドに証書を出さねば。
「すいません。証書の提出です。」
「…かなりの成果ですね…。これはご自身で狩ったということでよろしいのですね?」
「はい。もちろん。」
「失礼しました。それでしたら今日からショー様は家長級に昇格いたします。」
「随分と急なんですね。」
「えぇ、村長級までは受付の判断で昇格できるようになっています。城下級からは昇格試験がありますが。家長級への昇格基準は戦闘能力があるかないかだけです。これだけの獲物をかれるのであれば、戦闘能力は問題ないでしょう。」
「ランクが上がる分には問題ありません。家長級にしてください。」
「はい。少々お待ちください。……はい、こちらが家長級のギルドカードとなります。」
プレス機のようなもので、家長級の文字が印加されたものを渡された。大分簡単なようだ。
仕事を終えた後、修道院に行って肉を渡したら大分喜ばれた。喰いきれないから別に大したことなかったんだが…。
食料調達はなるべく頻繁に行おう。子供が喜んでくれるのは、まぁ、…悪くないかな。
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