第2章

第12話

 ここがギルドで教えてもらった宿か。


 ここは、初心者用の冒険者御用達の店らしく、他にそういった宿屋はあまりないらしい。


 かと言って満員というほどでもなく、急に行っても部屋を取ることが出来た。一週間分位とっておくか。


 一週間で、銀貨5枚。一日銅貨70枚ほどといったところだろうか。


 王都だからかこれでもかなり高いらしい。


 基本的に銅貨100枚が銀貨1枚、銀貨100枚が金貨1枚となっている。銅貨の下に鉄貨、金貨の上に白金貨がある。


 大体銀貨一枚が1000円ぐらい。一泊700円位と考えるとかなり安いと思うのだが。


 ただ、王都の初級冒険者はこういった宿を使わない。


 そもそも冒険者として成り上がった結果、王都に来る冒険者が多いため、そもそも初級冒険者が少ない。王都の初級冒険者は、すでに王都に実家がある場合が多く、わざわざ宿を取る人間はいない。そこそこ稼げるようになったらもう少しグレードの高い宿にするらしい。


 実家と言っても、孤児院だとかスラムだとかだったりするらしいが。


 まぁ、基本的にはならず者がなる職業と行ったところだろう。


 あと、どんなランクの冒険者でも必ず有事は徴兵される。冒険者ギルドの設立にあたって、国の中に国をまたいだ組織を設置するための条件だったらしい。


 とはいっても、ランクが低いものは補給の仕事だったり、治療の手伝い、武器の調達の手伝いだったりと殆どが雑用らしいが。


 こうすることで、国としては有事の際に動ける人員と強力な戦力、コストを掛けず潜在的な軍事力を有することができるとうことで、様々な国家が冒険者に門徒を開くことが出来たって事か。冒険者ギルドとしても、冒険者がただのならず者集団という認識から、いざという時に市民を守ってくれる人間だと意識されることで、やる気の向上や規律の上昇に繋げたかったんだろう。重要なルールの一つだ。うん、モニから教えてもらったことは覚えてるな。


 まぁ、だからだろうか、身分証だけ欲しくて取り敢えず冒険者に登録するといった人間はあまりいない。


 万が一、有事の際に戦争に参加しなかった場合、冒険者ギルドからの除名はもちろんのこと、その情報は商人ギルド、職人ギルドなどの各組織に知れ渡り、そこのギルドには所属できなくなる。


 当然か。身分証はほしい、だがこの国に貢献するつもりはない。


 これでは、どこかの国のスパイと疑われてもしょうが無い。


 こういう情報が出回ると、世界中に広く分布している冒険者に情報が周り、色々な国での活動がかなり制限される。


 もちろん、名前を変えて、知り合いの誰もいない遠い他の国でやり直すことはできるが、情報伝達も遅く、インフラの整備もない、各町々は排他的ってところで初めから何のコネクションもなくやり直すというのはなかなかに難しい。


 冒険者が冒険者を殺したなんて話は割りと笑い話の一つだが、あそこの冒険者ギルドで徴兵拒否が出たという話は少なくとも決して笑い話にはならない。だからこそだろうか、冒険者になるということは、ある意味それだけで信頼が生まれており、国から国への移動も容易い。


 矛盾しているようだが、自由をねだるのであれば、重い義務を背負わなければならないってことか。


 ちなみにこれも全部モニからの受け売りだ。


 こういったことがあるから、絶対に気をつけるようにとよく教えてくれたなぁ。


 登録時にこの内容は、必ず説明されるが、ここまで脅されるように説明されることはない。どちらかと言うとこの内容は冒険者同士の暗黙のルールという位置づけだ。


 これもモニから聞いたが、冒険者として生きていくのであれば、冒険者ギルドのルールを守ることは当然として、冒険者同士の暗黙のルールを守ることが長く生きる秘訣だと聞いた。


 こんな感じのことをモニから聞いているから大分助かった。この分他の冒険者より一歩リードかな。


 通常宿屋は飯屋も兼ねてるらしく、俺も食事を注文した。


 かと言って、メニューのようなものはなく、今日入った食材で作る一品だけだ。


 日替わりメニューだけとだな。


 そこに、スープとお酒がつく。


 この世界での食事処では基本的に水やアルコールの入ったものしかない。水はそこの川から組んでくりゃいいのだが、ジュースとか牛乳になると途端に物持ちが悪くなる。だから、水かアルコールぐらいしかない。果物が手に入ったときは果汁を絞ってくれるらしいが、せいぜい風味付け程度らしい。


 ホントは水でも良かったのだが、ここでは成人は15歳からとみなされており、10歳を超えれば十分労働力として認識されるらしい。ここで見ても、12,3歳位なのに酒を飲んでるやつもいる。…せっかくだからお酒を飲んでみるかな…。


 水なんて魔法で出せるし。


 「いただきます。」


 日本にいた頃の癖でついつい食事の前の一言を告げる。


 今日の日替わり定食は、何かの肉と何かの野菜の炒め物だ。両方の色が想像していたよりも若干濃い。これは、焦げてるというよりも元々の色が濃い…のかな。


 理由はわからない。ただ、これで食欲がなくなるほどじゃないな。だけど、念のため最初の一口目は少なめにしとくか。念の為ね。


 お。うまい。


 焼き加減はウェルダンか。いや、でも余分に焼けている舌触りじゃない。


 うん。うまい、うまい。


 肉が厚くて大きいのが嬉しい。調味料が独特だ。少し辛味がある。


 コショウのようなものに辛味のある香草で味付けをしているようだ。こりゃ止まらんな。


 パンは若干固めだが、スープに浸して食べると十分に柔らかくなる。うまい。


 人間が人間のために作った食事がこんなに美味しいとは思わなかった。


 俺も努力してなるべくうまい飯を作ろうとしてたけど、やはり金を取るレベルのものと比べたら話にならない。


 モニにもこの定食を食わせてやりたかったな。いや、モニはもともとこの世界で生きてきたんだ。これぐらいの飯ならいつでも食べれただろう。


 毎日俺の作ったサバイバル料理じゃ物足りなかったろうな。俺がもっと料理の勉強をしてれば…。


 あ、そういや酒を呑むのを忘れてた。せっかく大人なのだし頂いてみるか。


 ゴクッゴクッ…


 ……薄い…?


 なんか、薄くない?


 少なくともアルコール?の味らしきものはしない。


 いや、こんなもんなのか?初めてお酒のんだからそもそも違いがわからない。


 うん。お酒っていうのはこういうものなんだろう。


 よく考えれば、これぐらいだと食事が進む。ような気がする。


 結局酒を何倍も頼み、食事もおかわりをしてとにかく腹一杯まで飯を食った。


 これで、食事代は宿泊料込みっていうのがとんでもないな。

 

 お酒に関しては2杯めから支払わなきゃいけないのだが。

 

 それでも、銅貨50枚も行かなかった。やすい。うまい。量が多い。冒険者御用達の理由がよく分かる。


 食事には十分満足したし、自分の部屋に行くか。


 部屋はベッドと、椅子と、丸机か…簡素だな。


 風呂はないらしい。体を拭く用の布と石鹸の代わりになるカラシの実をもらった。

 

 水は裏の井戸から汲んでくれとのこと。


 ま、俺は魔法の訓練も兼ねて自分で水を出し、火魔法でお湯にするけどね。


 体をカラシの実で洗ったが、浮島生活では基本的に毎日風呂に入っていたからか、あまり汚れてないな。


 ただ、服はボロボロで正直臭う。…早めに買い直そう。


 体を水で拭いてすっきりした後、日課の訓練に入る。


 練習用の鉄のナイフだ。


 そのナイフを固めたり、丸めたり、細長い棒にしたりととにかく加工しまくる。


 なるべく、細かく、繊細なものを作るようにする。


 自身の魔力で作り出した型取り用の魔法の手を使うと、どんな形状の加工でも可能になる。


 とにかく、自分の脳内の想像力次第だ。


 この想像力っていうのが意外と曲者だ。


 感覚的にではなく、自分の中の絶対的な尺度として、長さや、色や、形状を頭のなかに作り出す必要がある。


 魔法だからそこら辺適当に補ってくれるのかとも思ったが、とんでもない。


 補うのは自分であって、魔法が補ってくれるわけじゃない。


 例えば、自分の手にそっくりなものを作り出したいとする。


 そうすると、自分の脳の中に立体的な手の映像が描けなければならない。それも具体的にだ。


 中指の根本から爪先までの長さが、2.5cm、四本の指を揃えたときの横幅が4.2cm、肌の色はコーヒー牛乳の色より少し薄い程度、とかだ。もちろん、長さや色の基準は別でもいい。親指の爪1.5本分とか、自分の肌と全く同じとか。


 そして、細かいイメージをするのは難しく、加工するのに必要な魔力が増える。


 今は、それに加えてとにかく早く作れるようにしている。


 これにも当然必要な魔力が増える。


 俺が鉄のナイフを作るときは魔力の手と読んでいるものを使って作っている。


 この型取り用の魔力の手は様々な形状に変化可能だ。だからこそ、色々なものを作れる。


 ただ、作りたいものが細かくなると、当然魔力の手は複雑な形状になるし、一気に全ての部分を作ろうとしてもイメージが大変だ。これをクリアするためには、ゆっくり、一部分ずつ作るのが確実だ。


 しかし、訓練のために敢えて、なるべく一息で、より細かいものを作ろうとしている。


 今作れる限界の形状が50巻くらいのスプリングだ。これを一秒で作る。


 ナイフは鉄からだったら0.5秒とかそんなもんだ。慣れてきたからより複雑な形状に変えていく。


 スプリングを一秒で作ろうとすると、相当量の魔力が飛んで行く。とにかくこれを寝る前に繰り返し繰り返し実行する。


 色々な属性の魔法を訓練したほうがいいのかもしれないが、とにかく今は一つのことを極めることにする。


 一つでも他の人より優れたアドバンテージがあれば、いざという時の保険になる。…気がする。


 このアドバンテージが広く知られていれば、簡単に対策を取られるが、そうでないなら相手にとって脅威だ。


 まぁ…、極めることが出来たら…の話なんですが。


 そうやって訓練をシてると疲労が溜まってくる。


 魔法ってのは不思議なものだ。


 筋トレとか運動とかでの疲れとは全く違う。


 例えるならなんだろう。朝起きてから夜寝るまでぶっ続けでゲームした後の疲れというのだろうか。


 目の奥がシパシパするというか。何も考えたくないというか。とにかく、ダルい。そういう状態に近づいてくる。


 魔力が空になるという感覚になるまでとにかく魔法を使い続ける。そして、気付いたら寝ていた。というのが自分の中で最もよく出来た練習の時だ。


 そこまでやれればその日の訓練は目標を達成したと行ったところだろうか。


 今日も訓練をギリギリまで続ける。訓練は毎日続ける。モニとの約束だから。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 ゴーン…ゴーン…ゴーン


 遠くでなっている鐘の音で目が覚める。


 もう朝か…。


 こちらに来てからだいぶ早起きになったな。


 夜は訓練ぐらいしかやることがないし、訓練してるとすぐ寝てしまう。自然と起きるのも早くなるか。


 こういう生活をしてると、確かに体調は良い。


 毎晩遅くまでゲームしてたり漫画読んだりと結構不健康だったんだな。日本にいた頃は。


 やってるときはめちゃくちゃ楽しかったけど、今はそれほどやりたいとも思わなくなった。


 不思議だな。


 …日本では部活に入ってゲロはくまで運動してるのをバカにしていた。


 けど、自分が確かに成長しているのを経験すると、運動部に熱心だったクラスメイトの気持ちが少しわかる。楽しいのだ。そして、少しずつだが自信がつく。


 漫画を沢山読んでいて、自信がついたことはそんなになかった。知識は増えたことあったか。


 ゲームは…、自分がプロになることを目指してストイックにゲームをしていたかというとそんなことはない。


 そりゃあいつらモテるはずだ。いや、女に見る目があったと言うべきか。毎日ゲームしたり漫画読んだりしてるようなやつの何が魅力だって言うんだ。何も成長してないじゃないか。


 …やっぱ成長してなかったのかな。


 色々なゲームしたり漫画読んだり。やっぱ売れてたし、面白く、涙するものだって多かった。人は馬鹿にするかもしれないけど、俺は確かに感銘を受けた物だってある。


 感動したとき、あの時俺はきっと楽しかった。そういう成長の仕方だってあるだろ。


 いや、…やめよう。どっちが上とか下とか。こういうことを考えてるのは昔の自分みたいだ。


 少なくともモニと過ごしていたとき、上も下もなかった。


 ただ、俺とモニがいただけだった。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 宿での朝食を食べ終え、俺は依頼を受けた修道院に行く。


 だんだん、道や人が汚くなっていく。


 そして、他の家々よりも少しだけ高い建物があった。広さはそこそこある。あれが修道院だろう。


 門を通り抜け、少し大きめの庭を歩き抜ける。走り回ってる子供がこちらを見てる。好奇心旺盛に見ている子3割、敵意むき出しで見ている子6割、自分のやっていることに夢中な子1割といったところか。この世界の世知辛さを表しているようだな。


 「ごめんください。冒険者ギルドの依頼を受けてきました。イニーア様はいらっしゃいますか?」


 「…は~い!!はいはい!随分丁寧な方ね!あれ?この街じゃ見慣れない顔ね。最近街に来たの?」


 「はい。つい昨日この街に来ました。こちらで依頼をこなせば読み書きを教えていただけるとのことでしたので。」


 「あ~、なるほど。冒険者なのに随分と熱心ね。素晴らしい姿勢だわ。じゃあ、取り敢えずこの依頼と報酬のルールを説明するわ。」


 「はい。」


 「依頼書を見てるから知っていると思うけど、こちらが望むことは食料の確保と修道院の修繕。もちろん一回で全部やってもらおうとも思っていないわ。少しずつでもいい。そして、こちらの読み書きの授業も決まった時間に少しずつやっているの。毎朝1時間読み書きの授業。その後は、自由時間よ。これでいいかしら?」


 「十分です。今日は修繕から手を付けたいとおもいます。修繕箇所はありますか?」


 「了解よ。ついてきて」


 修繕をお願いするだけあって、かなりボロが目立つ。廊下のささくれ、壁の継ぎ接ぎ、隙間風。なかなか厳しい経営状況のようだ。


 と考えていたら、裏口から外に出た。


 「ここよ。ここから屋根に登ってほしいんだけど、最近になって雨漏りがひどくなってきてね。色んな所から水が漏れてくるのよ。隙間風もひどくなってきたし。小さい動物も入ってくるし…、あ、ちなみにこの鼠の子はあたしの相棒のペディちゃんだから。殺さないでね。」


「あ、はぁ…、はい。」


 確かにイニーアさんの肩に鼠が乗ってる。随分慣れてる鼠だな。異世界は鼠も頭がいいんだろうか。


 お、裏口には梯子みたいなのが有るな、それで登れということだろう。


 イニーアさんの指示の通り、屋根に登ってみる。


 すると確かに、かなり老朽化しているようで、ひびや割れ、欠けが目立っていた。


 「直せるー?」


 「材料はあるのでしょうか?」


 「うーん…要らない薪とかはあるけど、それじゃ無理よねぇ。」


 「いえ、それで構いません。好きな様に使っても?」


 「?えぇ、もちろん構わないわ。でも本当にそれでいいの?」


 「構いません。それと、工具類はありますか?」


 「基本的なものはあるんだけど、釘とか鎹とかの消耗品はないのよね…」


 「…そちらについては心当たりがあります。取り敢えず一日時間をいただけますか。」


 「えぇ、わかったわ。ちょっとずつでも直してくれるとありがたいわね。」


 「了解です。」


 イニーアさんの了解を取ってすぐ、材料調達に向かう。


 向かった先はアルマさんの店だ。


 「ごめん下さーい」


 「おお、君は確かショーくんだったかな?」


 「はい。突然ですが、くず鉄を譲っていただけないかなと思いまして。」


 「たしかに突然だね。まぁ、譲るにやぶさかじゃないが、くず鉄といえども我々の財産だからね。くず鉄集めの子たちの食い扶持にもなっているしね。タダでというのも彼らに申し訳ないしなぁ。」


 「そういえば、この前確認のためにまとめた金っていくらぐらいになるんですかね?」


 「…」


 「クズの金を一つにまとめてしかも純度はかなり高い。元の金より大分価値が上がったと思うのですが。」


 「わかった、わかった。お譲りしよう。また、ナイフでも作るのかね?」


 「いえ、修道院の修繕活動で釘とかが必要なので。」


 「なるほど。そういうことであれば、譲ろうじゃないか。僕だって奉仕の精神はあるんだ。」


 「素晴らしいですね。きっとそうじゃないかと思っていたんです。」


 「ふん。君はどうも一言多いねぇ。ほら、これくらいあればいいかな。ついでに工具類も持ってくといい。こいつらはもう使わないからね。修道院に寄付だ。」


 一抱えほどのくず鉄と金槌、ノコギリ、バールのようなものとその他もろもろをもらった。


 「足りなくなったらまた来ますね。」


 「…そういうのは、僕が「足りなくなったらまた来てくれ」って言ってからの言葉じゃないのかね。」


 「奉仕の精神がお有りだと聞いたもので。」


 「はいはい。イニーアによろしくね。」


 「ご存知なんですか?」


 「まぁね、彼女には色々世話になっている。持ちつ持たれつってやつさ。」


 「じゃあ、最初からくださいよ。」


 「若者を成長させるために、良心に鞭打ったのさ。」


 絶対この人性格悪いよな。いい人なんだろうが、性格は悪い。


 アルマの店を出た後、一応ドアに足で砂を掛けた後、修道院に戻った。

 

 屋根の構造は、まず、土台となる部分が木でできており、板をつなぎ合わせて平になっている。その上に、瓦の役割をしてる木が重ねられているようだ。


 土台となる部分の木が腐ってたり、ひび割れてたりすることで、隙間ができている。


 さらに、瓦のようなものも同じようになっており、水が中までしみているようだ。


 屋根は結構広い。目につく瓦だけなおしても隙間風までは防げないだろう。取り敢えず全部の土台部分を調べる必要があるのかな?


 いや、雨漏りしてる部分を調べればいいのか。うーん、でもな~…。そこだけ直してもまた他の部分が雨漏りしてくるんじゃないのか。


 最近ひどくなってきたって言ってたし、屋根全体が劣化しているんだろう。


 腐った木の瓦を手遊びしながら考える。


 取り敢えず、これを直すのは薪とくっつければ簡単だよな。


 試しに、薪のいち部分を腐った部分と切り貼りしてみようと魔力を流してみる。


 へぇ、新しい薪より古い瓦のほうが魔力を通しやすいのか。


 不思議だな。でも腐った部分はやはり魔力の流れが違うな。ちょっと抵抗があるというか。


 両方に魔力を流し、腐った部分を切り離し、新しい薪を瓦に接合する。これだと、薪に瓦がくっついたよくわからないオブジェになっているから、適当な部分から薪を切り落とす。まだ形がいびつだから、魔力の手を使って、形を整える。


 ほら、こうすれば新品同様の瓦の出来上がりだ。


 うーん、腐った部分が端にあると簡単だが、真ん中にあると難しいな。


 あぁ、腐った部分を移動させればいいのか。川底から砂鉄を集めた要領で腐った部分だけを端に寄せる。その後、端を余裕を持って切り落とし、薪をくっつけていく。


 これで、修繕の目処はついたか。とにかく直すことはできるな。


 瓦を全部取っ払うのかぁ…。面倒くさいな…。何かいい方法がないか。


 ん?いや、別に取っ払う必要はないのでは、屋根に魔力を流せばどこが腐食しているかはわかるわけだ。その後腐食してる部分を移動させられれば、直すところはほとんど少なくて済むんじゃないか?


 ということで、早速やってみる。


 うん、魔力は通せるな。どれくらいまで広げられるかな…、うわぁ~…結構腐ってたりひび割れてたりすんだな。とりあえず、こいつらを屋根の端の方までずらしていこう。隅っこの方に…、と。


 一回の診察で四分の一は終わらせられるようだな。ついでに瓦にも同じことをしよう。


 取り敢えずこれだけならすぐ終わる。とっとと全部の屋根の診断を終わらそう。


 

 結果的に、畳2畳分位のひび割れや腐食が見つかった。これを全て隅の方に寄せたから、隅の部分はまぁヒドイことになっている。流石にこれは全部作り直したほうがいいな。


 土台用の板は薪を加工していくらでも作れる。平らにするのだって魔力の手を使えば簡単だ。かなり精度良く作れる。やはりあの訓練は間違ってなかったのだ。ふふ。…間違ってないよね?冒険者の成果と言われると微妙だが。


 さて、次は板を打ち付けなければ。ここでアルマさんから貰った鉄くずの出番だ。


 鉄くずを釘に加工しまくる。これも簡単だ。今なら何本でも作れるぜ。…だから間違ってないっちゅーの。


 作った釘を使い、板を打ち付けていく。あとは、組み立てるだけだ。だけど、釘を打ち付けるほうが難しいな。日曜大工すらやったことないしな…。


 釘の打ち付けに四苦八苦しながら、板の打ち付けを終わらせる。残りは瓦か…。もう日中は過ぎているな。瓦を作り終わったら終了といったところだろうか。


 取り敢えず、薪を元に瓦を作りまくる。瓦は作ってしまいさえすれば、後は重ねるだけだからな。バンバンやってこう。


 結局全ての瓦を作り終えたら、空が少しだけ赤みがかっている。とはいえ、後は重ねるだけだ。


 急ピッチで仕上げを済ませる。


 一通り終わってから、イニーアさんに報告だ。


 「イニーアさん。屋根の修理終わりました。」


 「うん?おつかれさん。長い時間すまないね。今日はどこまでやったんだ?」


 「いえ、全部終わりました。」


 「全部?全部って屋根の修理はもう全て終わったってこと?」


 「そうですね。」


 「…一応確認してもいいかな?」


 「当然でしょう。僕も漏れがないか気になりますし。」


 彼女と一緒に外に出る。というかこんな暗い中確認ってどうやるんだろう?瓦を一枚一枚ひっくり返すんだろうか。


 そう思ったら彼女がおもむろに魔力を集め始めた。なんとなく、感覚でわかる。


 「神様~~。結構大量の水をくださいな。」


 言った途端、大量の水が屋根に落ちていく。屋根にだけスコールが降り注いでいるようだ。


 「うぇ!?すご!!」

 

 「ふふん。水属性の魔法については結構自信があるからね。」


 そうして、20分か30分くらい水を流し続けた後、もう一度中に入る。


 「…水漏れは…一切ないね。だいたい雨が降って10分もすると水漏れし始めるんだけど…」


 「どうやら、修理漏れもないみたいですね。よかった。」


 「…ありがとう。まさか、こんなに早く屋根の修理が終わるとは…。これから毎日鐘がなる一時間前にここに来てちょうだい。読み書きの練習をしましょう。すでに言葉が話せるなら、よみかきはそう難しものじゃないわ。」


 「ありがとうございます。取り敢えず、依頼完了ということでいいのでしょうか。」


 「えぇ、それでいいわ。できればこれからも定期的に受けてくれると助かる。あなたは礼儀正しいし腕も確かだしね。」


 「こちらも色々教わりたいことがあるので、願ったり叶ったりです。」


 「うん。じゃぁ、このサインした書類をギルドに持っていけば依頼完了となるわ」


 「ありがとうござます。」


 俺は初めての仕事が終わった後、意気揚々と冒険者ギルドに帰った。



 ギルドで依頼完了の書類を渡すために列に並ぶ。あと一人だ。なんとか大丈夫そうだな。ここって時間が来たらすぐに帰っちゃうからな…。この世界全体がそうなのか、ここがそうなのかわからないけど。


 「ガルーザさん…。また、護衛の依頼者から苦情が来ていますよ。あなた達のせいで荷物に傷がついたと。」


 「す、すい、申し訳ありませ、せん……。で、でも…」


 「ちょっとまってくれ。護衛対象は商人だけだったはずだ。荷物も本人も護衛の対象なら、もっと高い料金になるし、冒険者のランクだって城下級は必要になるだろう?その料金を出し渋って私達村長級の冒険者に依頼を出したんじゃないのか。」


 「アンナさん…。たしかにそうです。しかし、依頼人はあなた方が狩った魔物の血につられて他の魔物をおびき寄せたと言っていますよ。」


 「本来城下級での依頼任務を安い村長級の我々に頼んだんだ。途中で狩った魔物は我々の成果にするとも最初に言ってあるはずだ。」


 「…しかし、それで他の魔物をおびき寄せては依頼人を危険に晒すでしょう?」


 「結果的に依頼人には傷一つ付けてない。荷物に傷はついたかもしれないが、荷物に関しての護衛は依頼されていない。」


 「……」


 「そもそも、本来村長級に護衛依頼など頼めないはずだ。それをパーティーを組んでいるからと、特別に我々に依頼してきたんじゃないか。だったら金を出し惜しみするなと言いたい。」


 「…分かりました。確かに依頼自体は完了しています。だから、苦情という形でギルドに話が来ていたということはお忘れなく。」


 「いいだろう。次からはこういった依頼は受けないようにしよう。」


 「…次の方。」


 どうやら前のグループはあまりうまく行かなかったようだ。そういうこともあるだろうな。


 「修道院の補修について依頼を完了しました。」


 「あら、ショーさんですか。完了の書類をお持ちですか?」


 「これです。どうぞ。」


 「評価がすごくいいですね。あまりこういった依頼は高評価にならないんですよ。冒険者も結構適当にこなしたりしますからね。」


 「報酬をもらう以上、真剣にやりました。」


 「…真面目ですね~、いや、こう言っては失礼ですね。そういった方はギルドからの評価も高くなりますよ。」


 「ありがとうございます。これからも精進したいです。それと、食料調達もしたいのですが、新人にも狩り安い獲物ってありますかね…?」


 「狩りやすいですか…、一角うさぎとか、二突き豚、巻角羊などは新人にも狩りやすい魔物たちです。戦闘能力がある新人という意味ですが。」


 「なるほど。たしかに随分と物々しい名前ですね。」


 「えぇ、これらの魔物は好戦的で、人を見つけると襲ってきます。これらを打ち取ることができるなら、新人のうちは食うに困らないでしょう。武力が必要というのもありますが、狩りというのは獲物を見つけることこそが大変です。これらの魔物は全て向こうから寄ってきますので、そういった意味で新人には優しいといえるでしょう。」


 「分かりました。とにかく試してみましょう。修道院からの報酬を定期的にもらうために、定期的に食料調達したいのです。」


 「そういうことでしたか。では、これらの獲物の生息地をお教えしましょう。これらは依頼としては出していませんが、狩猟ギルドに持ち込めば買い取ってくれるはずです。冒険者のカードは狩猟ギルドでも使えますので。もちろん、冒険者としての実績にもなります。あと、防具類は揃えたほうがよろしいですよ。そちらのお店もお教えしましょう。」


 受付の人に獲物の特性・生息地・売れる部位などを教えてもらった。明日はまず、防具類も調達しよう。あと、服もいい加減揃えなきゃな。


 

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