28 道具渡し
「重量は九百キロ。処理士一人が指揮をとって、上級補助士が
「はい」
「じゃ、これな」
と渡されたのは、静電気防止バンド。機雷は電気で発火する機構を持っているため、それを防ぐために腕に巻く。
「始めていいか?」
「あ、はい、お願いします」
一希は新藤の右手にスタンバイする。
「八号レンチ」
工具箱の中を覗き、レンチが入っている場所から数字の「8」が書かれているものを見付けて渡す。
「ドライバー」
そう一口に言われても、大小さまざまある。
「すみません、どれ、です、か?」
「何に使うかわかるか?」
「えっと……隙間に入れて角度の調整、ですか?」
「とりあえずはな」
手頃と思われるサイズのものを一つ渡してみる。新藤はその先端を見つめ首を振る。
「一号上がいい」
一希は今返されたドライバーを他と見比べて一号上を見付け、それを渡す。
「ライト」
「ライト?」
「明かり。照明。懐中電灯」
「あ、はい」
懐中電灯を渡そうとすると、新藤は右手にレンチ、左手にドライバーで時限装置と格闘中だ。
(あ、そっか……)
一希は斜め上から新藤の手元を照らしてやった。すると新藤の手が伸びてきて、一希が持っている懐中電灯をぐっと低い位置に引っ張る。なるほど、時限装置周囲の隙間の中を照らせということか。
「ブラシ」
一希は泥落とし用のブラシを渡し、元の位置を再び照らす。
そんな調子で、新藤は一人二役をこなしながら一希にあらゆる道具を要求した。こうして模擬離脱作業が終わる頃には、一希はその場にへたり込みそうな疲労感に襲われていた。新藤が
「まあ、最初はこんなもんだろう。しかしこのままじゃ好んで使ってはもらえんな」
それは一希にもわかる。
「道具の名前はもちろん、号数まで正確にわかってないとまずい。手早く渡せるかどうかは準備の問題だ。あとは相手の世代とか出身地によって呼び名が違ったり、中には外国製品を好んで使う奴もいるから、微妙に形状が違ったりするってのが厄介だな。それに関しては暇を見付けてこれをじっくり見ておけ」
と渡されたのは、ずしりと重たい工具図鑑。
「あとは状況だ。現場でわかりきったことをいちいち口に出すのは安全上必要な時ぐらいだ。道具なんか細かく指定しなくても常識で察しろって空気がある。何に使うのか、なぜ今なのか、その辺りを察せるかどうかも補助士の腕の見せ所だ」
「はい」
実際に難しさを体験することによって、今後の方向性が自ずと見えてくる。これは学校では感じたことのない一歩前進の実感だった。
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