cent neuf
翌日、休日出勤を終えて帰宅するときょうだい全員と兄も自宅を訪ねていた。
「お帰りなつ、先に着替えてきなさい」
「うん」
私はメイクを落として着替えを済ませると、ダイニングの指定席に腰を落ち着けた。姉と秋都で夕飯の配膳を済ませると五人で食事を開始する。そう言えばこの光景久し振りだなぁ、前回は私だけ考えが合わなくて居心地が悪かったけど、今日は普段通りというか違和は感じない。
「今日はなつ姉ちゃんクサくないね〜」
「ねぇ、その『クサい』って何なの?」
その問題十年くらい前から放置されてる状態なんだけど。
「う〜ん、そろそろ言ってもいいかな〜。嗅覚で分かるニオイじゃないんだけど、人生の舵を他人任せにする人って不快なニオイを発してるんだよね〜。これ僕にしか分からないから〜」
「で、十年前私からそのニオイが出てたの?」
「そういうこと〜。四年くらい地獄だったし、この前一緒に来てたオトコもクサかったんだよ〜」
嗅覚で分からないニオイなんでしょ? 防ぎようが無いじゃない。
「十年前は分かんなかったけど、バランスの悪いカップルからも発生するみたいなんだよね〜」
つかさちゃんじゃないけど、冬樹は独自で察知する“ニオイ”で私の変化に嫌悪を示してたってことかな?
「それってなつ姉以外でも分かるのか?」
「うん分かるよ〜。参考までに言うと他のみんなからは出たこと無いから安心してね〜」
「お〜そうか、よかったよかった。今日ニオってないんなら一定のケリは着いたんじゃねぇの?」
完全にとはいかずとももう連絡を取る気は無いのでブロック設定にしてある。ケータイ完全新規契約し直そうかな? で思い出した。
「そうだお姉ちゃん、話って何?」
「えぇ、実は私たち戸籍を揃えようって話をしてるのよ」
ってことは養子縁組? 確かに歳上の戸籍に歳下が入る以外認められてないから兄が五条姓を名乗るのかな? けど兄は長男、姉も長男なんだけど家はあと二人男がいるからそこまでの影響は無い。
「ん? 養子縁組?」
「ううん、ちょっと面倒なんだけど至君のご両親と養子縁組するの。つまり戸籍上はきょうだいになるわね」
へぇ。にしてもいつの間にそんなとこまで話が進んでたの?
「なつ姉ちゃんがオトコにうつつを抜かしてた間だよ〜」
「カミナリ先生と兄貴のご両親ここに来てたんだぞ、なつ姉が予定外の外出してる時にな」
聞いてないわよそんなの、そういうことは……。
「私はちゃんと話したわよ、なつが聞いてなかっただけ」
「うっ……」
いつ? いつそんな話してたの? 全然思い出せない。
「遅刻しかけた日、送る時車の中で。あの時期あんたおかしかったけど」
「杏璃が来てた日もその話してたろ?」
「あぁ、あの子が証人だよ」
そんな込み入った話よその子いる前で話する?
「わざとよ、身内だと信憑性が薄いからね」
「第三者介入は信憑性を上げる鉄則でしょ〜」
「遅かれ早かれ報告はするんだからどうってことないさ」
「手間が省けて一石二鳥だな」
何か違う気するけど話を聞いてなかったことに関してはごめんなさい。さっき流しちゃったけどカミナリ先生が何で?
「そう言えばさっき『カミナリ先生』って……」
「あぁ、祖父なんだ」
「えっ?」
カミナリ先生って兄のお祖父様なの? 国分寺家具の先代社長だったんだぁ。
「知らなかったのかなつ姉? カミナリ先生の娘さんが兄貴のお母さんなんだぞ」
娘さん? タウン誌情報によるとお子様は確か現社長含め三兄弟だったと書いてあったけど。
「えっ? 国分寺家具の先代社長って……」
「何言ってんだなつ姉、朝比奈貿易の会長だよ」
朝比奈貿易の会長って知らぬ者無しと謳われてる財界人トップの朝比奈泰造氏? マジっ? 全然知らなかった。
「マスコミ嫌いでメディアにはほとんど顔出してないからな、だからいろんな街にフラフラ立ち寄って書道を教えるなんて芸当ができてるんだと思う」
と混乱気味の私に兄が補足説明をしてくれる。うわぁ〜お姉ちゃんそんな凄い方のお孫さんに見初められたの? かくいう私も一時片思いを……何と畏れ多い。
「取り敢えずここまでは理解できた? まだ続きがあるから」
「うん……」
んで、姉は国分寺家に養子入りして兄とはきょうだいとして共に暮らすこと、それに伴って▼▼町にある兄の元のご実家に移り住むことになると話した。んで、今姉と兄はそれぞれ別会社のケータイを使ってるんだけど、これを機に携帯会社を揃えようと考えてるらしい。そう言えば現時点で私、秋都、姉と冬樹でそれぞれ携帯会社が違う、私は大学時代に奴と揃えてそれっきりだ。因みに秋都は例の三馬鹿と同じ携帯会社で揃えてるはずだ、無料通話の名残だろうな。
「至君と秋都は同じ携帯会社だからなつとふゆと私が乗り換えって形になるわね、嫌なら構わないけどどうする?」
「そろそろ買い換えようと思ってたとこ、良い機会だから番号も変えちゃおうかと」
「そこまでしなくてもいいんじゃない?」
「ううん、そうしたいの」
もう二度と足跡に惑わされないために。
「なら近いうちに休みを合わせて手続きしましょ、来週の土曜日でいいかしら?」
「うん、空けとく」
それから一週間後、私は心機一転してケータイを買い換えた。
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