ガチで婚活三十路前 〜関西弁の初恋相手編〜

trente-trois

 今日はいよいよ郡司くんと十六年振りの再会だ。姉は朝から先輩とデートらしく家にはいない。代わりに有砂が前乗りで家に来ていて、朝も早よからファッションコーディネートにネイル、メイク、ヘアアレンジと私の加工に大張り切りだ。

「そこまで張り切らなくても」

「何言ってんの? 恋をしようよなつぅ」

「いやいや、私だけ浮いちゃうわよ」

「浮きまくりなさぁい! 今日はお主が主役なのだぞ怪力女王」

 誰が怪力女王だ、全然持ち上げてないじゃない。

「あれ~? 今日もデートなのぉ?」

 またしてもきったないスウェットで部屋を覗きに来る冬樹、この流れは定番なのか?

「違うわよ、同そ……」

「そうだよ冬樹ぃ、これでなつの人生が決まると言っても過言ではない一大事なのだぞ人格クズ少年よ」

 同窓会レベルでいいだろ? げんとく君とあんたも一緒なんだから。それ郡司君の前で言うなよ。

「へぇ~、ヤリマン屑女プロデュースで上手くいくのぉ?」

「経験豊富と言いやがれ超絶シスコン大学生め」

「え~っ、お股ゆるキャラ三十路前に言われたくな〜い」

 冬樹は多少ムッとした表情で有砂に言い返している。当然だとは思うけどシスコンと言われるのはあまり好きではないみたいだ。にしても二人揃って変なあだ名付け合ってる場合じゃないでしょうが。

「同窓会みたいなものだから! 有砂も変なこと言わないで」

「え~っ、あんたもうちょい積極的になろうよぉ」

 有砂はそう言いながらも着々と私を加工していく。今日のネイルは……マセンダってちょっと派手すぎない?

「こっから更にアートしていくからねぇ」

 何で? そこまでする必要ある? 手先はかなり器用だからきれいなのは作ってくれるだろうけど……張り切り方が半端無くて温度差を感じるわ。

「同窓会にしては派手すぎな~い?」

 冬樹まだいたんだね。

「ただの同窓会じゃないっつったろ、姉の幸せを祈れんのかシスコンチェリーが」

「だってお○○ぽ勃たないんだも~ん!」

 もう! あんたのお○○ぽ事情はどうでも良いわ!

「それはともかくなつはもうちょいお洒落した方がいいよぉ、平凡だけどブスじゃないんだからさぁ」

 有砂は冬樹のアホな訴えを軽くスルーした。

「身の丈を弁えてるだけよ」

「いやいや地味に収まる必要ないでしょ、身長もまぁまぁあるしスタイル良いんだから服なんて選び放題だよぉ」

 まぁ有砂は身長百五十センチほどだからね、おじさんの身長も私くらいだし遺伝よきっと。でもそれはそれで可愛い服が似合ったりして羨ましいけどなぁ。

「そんなこと無いわよ、小柄な方が絶対可愛い」

「そぉかなぁ~? 似合う服限定されるよぉ。高すぎても逆の意味で限定されるけど、なつは程よく高いくらいだから羨ましいよ」

 有砂はネイルを乾かしてる間にメイクをしてくれる。ちょっとチーク塗りすぎだって! 福笑いレベルじゃないの!

「チーク濃すぎない?」

「今からぼかすから心配しなさんな怪力女王」

 有砂は真剣な表情でチークを指でぼかしてる。冬樹はドアの前に座って私の加工過程を見つめてる。男の子にしたら女の子(って厚かましく言ってみた)のメイクって面白いのかな? 元カレも私がメイクしてる時よく横で見てたけど。

「ちょっとぉ~、僕のこと無視~?」

「今忙しいんだシスコンチェリー、姉の変身に少しは勃ったか?」

 おいそれ軽くヤバいやつだろ、近○○姦はあかんだろ。

「さすがに無理だよ~、僕お腹空いたぁ」

「下にあきがいるはずだからご飯用意してもらいな」

「うんそうする~。あき兄ちゃぁん! ご飯~!」

『おぅ、とっくに出来てるぞ。顔だけ洗ってこい』

 はぁ~い。冬樹は空腹に勝てず下に降りていった。


 有砂に加工してもらった後、軽食を摂ってから今回の待ち合わせ場所である駅南のショッピングモールに向かうと、既に作務衣姿のげんとく君が長身の男性と一緒にいた。げんとく君も長身なんだけどその方も同じくらいの身長で……。

「お待たせ~♪ 郡司君、五条夏絵でぇす」

 有砂は長身男性の前に私を突き出して彼を“郡司君”と呼んだ。えっ? 彼が? 中学時代のワルっぽさがほどんど消えちゃってて言われるまで気付かなかった。よく見ると面影は残ってるけど、あの時よりも数段格好良くなってるからドキドキしてしまう。それだけに他己紹介が軽いっ! 分かってはいたがお前それはちょいと軽すぎるわ!

「ご無沙汰、してます?」

 うわああぁっ! 変な緊張してつい疑問形で挨拶しちゃった! これじゃ有砂と一緒じゃない! 普段疑問形をこんな使い方しないわよ! その誤解はどうやって解こう?

「あ、あぁ……久し振り」

 普通こうなるよね? そんなん聞かれても知らんがなってなるよね? いや、ちょっと待って! 二人とも離れようとしないで! 私は有砂のバッグを掴んで引き留める。

「ちょっと離れんじゃないわよ」

 私は郡司君に聞こえないようこそっと耳打ちする。

「え~っ、積もる話もあるでしょぉ?」

 積もる話と言われても……中一の頃だけなのよ彼の人生に関わってるのって、郡司君だって困ってるはず。

「五条って普段からそんな格好してんの?」

「いいいいぃえぇまさかぁ!」

 今度は霜田口調が降臨、私はただただヤバい女になってる。

「普段はもっとこさっぱりしてるぞ。どうせ内海・・が張り切っただけだ」

 げんとく君がテンパってる私の代わりに答えてくれる。

「だって普段の五条って地味地味なんだよぉ」

 地味地味って……まぁ地味ではありますけどね。でも最近ちょっとはオシャレに気を遣うようにはなったのよ、前はほぼしなかったアイメイクだって今は……と言っても普通の女の子にとってはごくごく当たり前の事なんだろうけど。だって私は一重まぶた、アイメイクしたって大した効果なんて無いもの。あぁ、姉のような美しいお顔があれば。

「だから友として一肌脱いでやったのよん♪」

「そ、そうなんや」

 何だか申し訳なくなってきた。郡司君ごめんなさい、私のお洒落事情に興味なんて無いよね。前乗りまでしてここまで作ってくれた有砂には申し訳ないが、私は今の格好がとんでもなく恥ずかしくなってくる。

「普段の五条も見てみたいけど、今日のもアリやと思うで」

「でしょでしょお♪ 五条だってやれば出来る子……ぐぬぬぅっ!」

「あーもうお前は黙ってろ、話が前に進まん」

「ぐるじいっ、首を絞めるな凶悪坊主」

 有砂は首に絡まっているげんとく君の腕から逃げ出そうとバタついている。それかえって首締まるから大人しくしとけ。

「ところで最初に行くのか? 後藤の所に」

 後藤? あぁまこっちゃん家ね、確か隣のクラスだったから男の子だけの授業の時に顔合わせてるのか。でも何の用だ? ひょっとして仕立てでも頼んだの?

「いや、最後にするわ。それより『安倍商店』ってまだ残ってんのか?」

 安倍商店とは子供の頃散々お世話になった駄菓子屋さんだ。今は代替わりしてお嫁さんが継いでいるが、ここで作られているクレープはそこらの洒落たお店のものよりよっぽど美味しいと思う。

「代替わりはしているが残ってるぞ」

「クレープあんのかな? あっこの『焼肉クレープ』大好きやってん」

 あるぞ。げんとく君は有砂の首を締めたまま引き摺るように商店街方向へと歩き出す。郡司君と私もそれに付いて行き、ちょっと滑稽な四人組の“団体行動”が始まった。

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