第9話 メンテナンスが終わった後で。

 その夜のこと。


 メンテナンスが終わった直後に、朱莉はログインする。

 麻耶華とパーティを組むのは明日の予定だが、その前にメンテナンス後のことを知っておきたかった。



 【メンテナンスでの変更点】

 ・クランがオープンしました。

 ・調教テイムが可能となりました。

 ・パーティ人数が3人から5人になりました。



 以上がメンテナンスでの変更点だ。


 朱莉が最初に目を引かれたのは、クランというものだ。

 メニューを開いて、クランを選択する。

 すると、おすすめクラン一覧に六個のクランが出てきた。


 メンテナンス後すぐなので、まだそれだけしかクランが出来ていないようだ。

 アカリは、上から順に確かめていく。


 「ゲームの教本、千本桜、シクラメン、バイコーン、キャンデー、幸福の兎……」


 朱莉は、どれもパッとしない感じがした。

 そのため「クランはいいや」と、メニューを閉じかける。


 しかし「幸福の兎」というクランの下に、「クランを創設する」という欄があり、やはり自分で創ることを決めた。


 「えーと、クランの方針は……」

 と、呟きつつクランを設定していく。



 【クランを創設する】

 クランの方針:◯まったり/コツコツ/がっつり

 クランの加入:即時加入/◯承認

 クランの紹介:よろしくお願いします!

 クランネーム:月明かりの下



 「ふふ、意外といいかも!」


 アカリは、初めてのフィールドで見た月を思い出し、自分の名前とかけ合わせて名前を付ける。


 最後にお金が五万ゴルド必要だったが、所持金を確かめて六万ゴルドあったため、創設が完了した。

 さっそくアカリはクランに移動をして見る。


 「うわー! 広ーい!」

 そこには六畳の部屋があり、奥にもう一つ部屋があった。

 奥の部屋にあった水晶玉に触れるとクランメニューが出てきた。


 【月明かりの下】

 Lv1 メンバー:1/5

 クランランキング:7位

 クランバトル

 クランレイド


 メンバーはアカリ一人だけ。メンバーの詳細を見てみると、アカリの横にFと書いてある。

 もしかしたらランクの低い冒険家のクランには、人が集まらないかもしれない。


 「ってことは誰も来ないかもしれないのか……」


 ぶんぶんぶん、と頭を横に振るアカリ。


 次にクランバトルをタップする。しかし、準備中と出るだけだ。

 また、クランレイドも同じだった。


 少し残念に思ったが、メンテナンス内容はクランだけではない。

 次は調教に目を向ける。


 【調教テイム

 モンスターを倒した時、確率でモンスターを使役できるようになる。確率はLUKに依存。

 モンスターは三体連れて歩くことができ、モンスターによってバフが付与する。


 「モンスターを使役!」


 アカリは目をキラキラと輝かせる。

 それと同時に明日の予定を立て直すのであった。











 次の日、学校終わりにアカリはワープオブジェクトの前で待っていると、麻耶華――もちもちが手を振ってきた。


 「やっほーアカリー」

 「やっほーまや……もちもちちゃん」


 昨日、麻耶華から本名で呼ばないでほしいと言われていたことを思い出し、ギリギリで踏みとどまった。

 いや、麻耶華の鋭い目線を前に怯むしかできなかったのだ。


 「いやあ、あはは……」


 「本当に気をつけてよ?」


 「そ、そうだねえ、なんか人の目線が凄まじいよ」


 もちもちは上位ランカーということもあり、他のプレイヤーから一目置かれている。

 それは聞いていた以上に凄いことなのだろう。

 また、魔導師二人という異様なパーティだからということもあるかもしれない。


 「アカリはクランに入ったの?」


 「ううん、創った!」


 そうアカリが返事をすると、もちもちは少し残念そうに言う。


 「そう、ウチのクランに入ってくれたら嬉しかったんだけど、それじゃあ仕方ないな」


 「え、じゃあそっち行くよ!」


 「いや、クラン建てるのに五万ゴルドもかかったでしょ? もったいないよ」


 それから少し同じやりとりを繰り返したが、アカリはもちもちに説得された。

 それから気を取り直して、今日の予定を話す。


 「今日は鍛冶屋に行くのを手伝ってもらうって言ってたけど、最初に手伝ってほしいことがあるの!」


 そう切り出して、アカリはワープオブジェクトへと移動していく。


 「待って! パーティまだ組んでないでしょ!」

 「ん? パーティってなに?」


 アカリの言葉を聞いてもちもちは固まる。


 「え? パーティだよ、パーティ。組んだことないの!?」

 「え、うん? たぶん」


 アカリの反応を見て、もちもちは捲し立てる。


 「でもサソリと戦った時は二人で戦ったんだよね? パーティは?」


 「うーん……分かんない!」


 もちもちは、もはやカチカチだった。

 アカリの一ヶ月の動向を軽く聞いただけで、スキルのことも聞いていない彼女は考える……。


 アカリは1ー5をクリアしたと言っていた。


 ボスキャラクターは様々な耐性がついている。


 メタルカイトの場合は物理攻撃無効だ。正確には無効ではないが、メタルカイトの物理耐性はトップクラスの剣士がやっと攻撃が与えられる程度の硬度だ。


 魔導師のアカリには物理ダメージを与えられるはずがない。ということは、魔法で倒したということか?


 アカリは黒の神殿にて、ダークリザードマンを倒したらしい。それは、単体攻撃魔法によるものだと、もちもちは断定していた。

 理由は、範囲攻撃よりも単体攻撃の方が威力が高いからだ。

 ダークリザードマンをワンパンでほふる範囲魔法など聞いたことがない。


 しかし、メタルカイトにソロで単体攻撃魔法を当てることなど不可能だ。

 メタルカイトは素早さと防御力中心のステータスで、単体攻撃魔法しか持ってないソロ魔導師ではジリ貧だ。

 ということは、アカリは範囲魔法を持っている。ストーリー1では手に入らない範囲魔法を。

 その範囲魔法でダークリザードマンを屠ったとしたら、もはや規格外のスキルなのではないだろうか。


 もちもちの考えは、半分合っていて半分違っていた。


 「ねーねー、もちもちちゃん? どうしたの固まっちゃって」

 「……あ、いやごめん。考え込んじゃったよ」


 アカリは頭上にはてなマークを浮かべながらも、パーティの組み方をレクチャーされた。


 「ふふふ、それでは白藍の岩窟へレッツゴー!」


 アカリが目指すは小さめのシアライグマだ。あのモフモフを手に入れるため、アカリはワープオブジェクトに手を添えた。

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最強スキルを持つ魔導師は殴打で。〜楽しむことが長続きの秘訣です!〜 キウイ @hajikerukiui

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