第二章 9.
「トウヤさんの魔法は、私の教わった魔法と、だいぶ違うものみたいですね?」
ティセの魔法は、精霊の力を借りて世界の理を書き換えるものだ。しかも、大それた書き換えはほとんど行うことができない。先ほどトウヤが使った言葉を使うなら、「練習すれば習得できること」を、精霊にやってもらっているだけだ。
実際、魔物と戦うにしても、防御するためなら鎧を着て、盾を持てばいい。火で攻撃したければ松明と火薬を持ち、そして傷を負ったのなら、治るまでじっとしていればいいのだから。
しかし、トウヤの魔法は、そういう制約がまるで無いように思えてしまう。あの水流を捕まえるということからして、既に桁違いの奇跡だというのに、それに加えて、過去の人物の記憶を持ってくる、なんて、どこをどうすればいいのかも分からない、異常な奇跡を起こしてみせるのだから。
トウヤは、真面目な顔になって答える。
「実は僕も、僕自身の魔法の正体を、知らないんだ」
「知らない、って、どういうことですか? 自分がやっていることを理解せずに行動するなんて、できないと思うんですけど」
「その通りだね。料理だって、どの調味料がどんな味と香りを与えるか、食材をどう切ればどんな歯ごたえがあるか、そういうあれこれを知らなければ、うまい料理は作れない。君の言っていることは、至極もっともだ。ただね、僕は本当に、自分の操る魔法が、どんな原理の元で成立する奇跡なのか、知らないんだよ」トウヤは重ねて言う。「それどころか、僕の知りうる限り、魔法使いというものは、根本的に『魔法』という現象の原因を知らされていない。分かっているのは、世界のルールを好き勝手に書き換えて……創り直している。そしてその方法を、言語として理論化することができていないんだ」
「トウヤさんが住んでいた国の魔法ですか?」
「いや、国というより、世界、と言うべきだろう。僕はどうやら、異世界からやってきたらしいんだ」
「い、異世界?」
ティセが、裏返った声を上げる。トウヤはしかし、気分を害するどころか、ほっとしてしまった。
「驚いてくれるのか、よかった。僕も、最初にこの世界に降り立った時は、自分のいた世界のどこかなんだと思っていたんだけど……あの魔物を見て、まるで違う世界だと思い知らされたよ。なにしろ、あんな珍妙な姿で、おまけに魔法まで使うような生物、僕がいた地球にはいなかったからね」
「違う世界、なんでしょうか?」ティセは、怯えるように眉を顰めて言う。「だって、この星だって、『地球』なんですよ?」
言われて、トウヤは思い出す。今朝空に見上げた太陽は、確かに彼の知る太陽とよく似ていた。それに、夜には月が浮かんでいることだってある。気にもしていなかったが、ひょっとすると他の天体も、トウヤの故郷である地球と、まるで同じ場所で瞬いているのかも知れない。
「……ということは、並行世界、と考えればいいのかな」
「並行世界?」
「世界が同時並行で二つ、あるいはいくつも存在するという考え方だよ。魔法は、その別の世界で生み出されたエネルギーの流出だ、なんて説もあるらしい。もっとも、僕はあまり魔法について研究はしていないから、表面的なことしか知らないけれど」
ティセは中指でこめかみを揉んでいる。必死で理解しようと頭を回転させているようだった。
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