第一章 11.
(魔物の血も、赤いの……?)
まるでそれは、人間の血だ。まったく体の形が異なり、人間と相対するものとして存在するはずの魔物が、人間や他の動物と同じ、赤い血を巡らせる生命体であるということに、ティセは今さらになって新鮮な驚きを禁じ得なかった。
突然、哄笑。それはトウヤの口から発せられていた。端正で知的な彼の印象からはほど遠い、相手を侮蔑し、罵倒し、そして呪いさえするような、生臭い笑い声。
「ははは――! 薄汚ぇ魑魅魍魎風情のくせに、人間サマと同じ血の味たぁ、笑わせてくれるなよ!」
トウヤは、乱暴に剣を振り回す。無骨に見えるその剣筋が、しかし鮮烈な曲線を幾筋も描くたび、魔物の体がずたずたに切り裂かれていく。魔物はもはや、反撃する方法もその意思も失った様子で、のろのろとその場を離れようとし始める。
「させるかよ!」
言い、トウヤは剣を地面に突き立てる。凍った大地をバキリと割り、その下を走っていた触手――魔物の触手を、一気に断ち切る。
魔物は分裂したように見せて、実は植物のように地下で繋がっていただけらしい。背後から最後の復讐を目論んでいた魔物の半身が、酸に触れたようにぶすぶすと溶け始める。
「――っらア!」
大きく剣が振るわれる。三日月のように空気を裂き、剣は魔物の首を刎ね飛ばしていた。歪に膨らんだ魔物の頭は、緩い弧を描いて雪の上に落下する。べちゃりと汚らしい音の後に、溶けかけている体が倒れ伏した。頭だけは、それでもまだ逃げようというのか、細く青白い触手を四方八方に伸ばし、ずるずると雪の上を這い進もうとするばかりだ。
「ふん」
トウヤはその様を鼻で笑い、重く分厚い底のある靴で、躊躇いなく踏み潰した。緑色のぶよぶよした肉塊が、赤い血にまみれて四散する。ティセはその色と音、そして生臭い匂いに、思わず吐き気を催した。
「ウジ虫め、また涌いてみやがれ。切り捨ててやらぁ」
乱暴な口調とともに、トウヤは剣を鋭く一閃した。刃にこびり付いていた血糊が、一気に吹き飛ばされる。トウヤは鈍く輝く刀身を一瞥し、吐き捨てるように「ナマクラめ」と呟いた。
「おい」
トウヤが振り返り様、ティセに声をかけた。まるで固い石で殴られたような気がして、思わずティセは目をぎゅっと閉じてしまった。
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