少年達は捜し始める

「普通、身体の機能が停止すると、魂はアールヴヘイムに帰るわ。でも、強い想いや特殊な魔法等に縛られていると、魂だけが残ってしまうことがあるの。それを捜すのよ」


 魂なんて、普通は見えないだろう。今まで数え切れない程の命を奪ってきた。でも、亡骸から魂らしきモノが抜ける様など見たことがない。




 ロムは少し考えて、口を開いた。


「それは魔法使いじゃないと、見つけられませんか?」

「ええ。色の確認も、魔法を使わなければ無理よ。だから、一つ問題があるの」

「何ですか?」

「この街には、それが可能な魔法使いが少ないの。白い悪魔のせいで、何人か普通の人に戻ってしまったものね」


 思わずホークを振り返ると、少し申し訳なさそうに微笑んだ。彼ならば可能だったのではないだろうか。今はもう、どうしようもないのだけど。




 ロムは再びニーナを見た。


「ニーナはできるんですよね? ザラムは?」

「私はもちろん可能よ。ザラムは無理ね。魂は感じる事が出来るようだけど、色を見る事はできないでしょう? 他はリンドと……あの二人だけかしら」

「あの二人って……」

「当のアイラスとトールよ。私とリンドは、この街を長く離れられないわ。広い範囲を捜そうとすれば、あの二人の協力が欲しいところね。頼めるかしら……」

「それならば、冒険者ギルドを通じて、各国に依頼を出してはどうでしょうか? 報酬は国で負担できると思います。僕から話してみます」




 ロムは、アドルの的確な進言に苦笑した。可能性が見えたら、すかさず案を出してくる。彼はホークに王位を継いでほしいようだけど、彼自身が最もふさわしいんじゃないのかと思えてくる。




「一連の話……魔法が消える件も、伝える事になると思います。……いいですか?」

「いいも何も、知っておいてもらった方がいいわ。頃合いを見て、全世界にも通達する必要があるのだから」

「でしたら、報告の際にはニーナ様と兄上も一緒に来ていただけますか?」




 アドルの目には、強い意志が込められていた。ホークを城に戻す事を諦めていないのだとわかる。

 レヴィが、あからさまにため息をついた。何か言いかけたが、ニーナがそれを手で遮った。


「わかったわ。三人で伺いましょう」






「この件、あのお二方……トール様とアイラス様には、お伝えするので?」


 メモを取っていたジョージが、顔を上げて言った。


「難しいわね……トールはともかく、あの子の気持ちがわからないもの。すでに心が決まっているなら、余計な事と嫌がられるかもしれないわ」

「ロム、お前はどう思う?」

「え……俺?」

「この中では、お前が一番あいつと接触してるじゃねえか」


 接触と聞いて、アイラスの唇と舌の感触を思い出した。

 いや、今言われているのはそういう意味じゃない。火照った顔を横に振り、深呼吸した。




「俺にも、あの子が何を考えてるかなんて、よくわからないよ。だから……言わない方がいいと思う。反応が予測できないから……」

「何も言わずにいて、あいつが勝手に逝っちまう可能性は?」

「少なくとも目的があるんだから、それを終えるまでは大丈夫だと思う。監視だけは、怠らないようにしないとダメだけど」

「じゃあ、動向を見守りつつ、心づもりを探ってみてくれるかしら?」

「俺が? 無理ですよ!」

「あら、どうして? 仲が良さそうに見えるのだけど」

「いや、ちょっと……今日、嫌がる事しちゃって……今は、すごく嫌われてると思います……」


 その詳細を聞かれたら、どう答えよう。あの場面を見た者は、ここには居ない。本当の事は言い難かった。




「オレ、やる」

「ザラムが? ……大丈夫か? お前、あいつとまともに話せるのか?」

「念話、できる」

「私があの子に呼び掛けても、反応がなかったわよ? トールと同じで遮断しているのではなくて?」

「違う。あいつ、魔力低い。接触感応、できた」

「何か話したのか?」

「少し……」

「じゃあ、俺とザラムで見張るか」




 ここでようやく、自分にできる事が何もない事実に気がついた。アイラスを救う手立てを探すつもりだったけれど、魔法が必要なら無理だった。


 目的は彼女を助ける事であって、自分がそれに貢献するかどうかなんて、どうでもいい。そうは思っても情けなくて、ため息が漏れた。






「もう一つ、手を打っておかないかい?」


 ホークが意味ありげに笑いかけてきた。彼がこんな風に笑うのは、意地悪を思いついた時が多い。嫌な予感を感じながら、それでも一応聞き返した。


「何かあるんですか?」

「依頼を出して、その結果をただ待つだけは居心地が悪いだろう?」




 見透かされている。ロムは二の句が継げなかった。


 いいから早く内容を言って欲しい。不満が顔に現れてるだろうと自覚しながら、ホークの次の言葉を待っていた。

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