少年は相談した

 元々、夕飯で呼びに来たというザラムと共に、四人は食堂に移動した。




 食事を取りながら、ザラムがシンの言葉で話しかけてきた。


「何か、わかったか?」

「目的はわかったよ。それを防ぐ方法が、まだ思いつかないけど……」

「勿体ぶるな。目的は何なんだ?」

「説明すると長いんだよ……簡単な話じゃなかったんだ」

「オレ達だけじゃ、対応できない?」

「うん……他のみんなにも、相談した方がいいと思う」




「でしたら今夜、あのお二方が就寝後に『安全なお部屋』にお集まり下さい」




 突然、背後からジョージが会話に加わってきて驚いた。

 彼は何でもないような仕草で、果物をテーブルに並べた。


「シンの言葉……ご存知だったんですか?」

「ええ。それより今夜、よろしいですか?」

「それは、まあ……。でも、安全な部屋っていうのは?」

「それはもう。守りの魔法がかけられた部屋の事でございます」


 ニーナの部屋の事だ。固有名詞を使わずに話そうとしている。


「夜間の護衛の者以外、集まるよう声をかけておきます」

「護衛も、もういらないかもしれないけど……」

「なんですと?」

「あ、いや。いいです。あの二人から目を離したくないし」






 その夜、アイラスが寝室に入り、トールが寝静まってから、少年達三人はベッドを抜け出した。事情を知るケヴィンに目配せし、他の大人達が待つ部屋へ急いだ。




 歩きながら、打つ手はあるだろうかと考えた。

 トールには自信満々に答えたけれど、八方塞がりで手は無いように思う。それでも、ニーナなら何とかしてくれるかもしれないと、望みをかけていた。






 部屋に入ると、ニーナとジョージ、レヴィの他に、ホークも居た。


「なんで、先生まで居るんですか?」

「さあ? 私も呼びつけられたものでね。理由は、君が説明してくれると聞いたのだけど?」


 含みを持たせた笑顔にうんざりした。アドルが喜んでいるのは良いけれど、やっぱりこの人は苦手だと痛感した。






 ロムは、夕方にトールから聞いた話をそのまま伝えた。話が進む度に、ニーナが、レヴィが、不安そうな顔になった。ジョージとホークは、そんな二人を心配そうに見ている。


 対して、ザラムとアドルの表情は変わらなかった。

 いや、違う。ザラムの拳は硬く握られ、震えていた。






 話を終えて大人達を見ると、ため息をついてお互いに顔を見合わせていた。咀嚼するのに時間がかかるかもしれない。


 ロムは、気になっていたザラムの方を見た。元々白い顔がさらに蒼白になっていた。普通じゃない。その様子には、アドルも気付いているようだった。




「ザラム……」


 彼の手に自分の手を重ねると、驚くほど冷たかった。硬く握ったせいか、血の気が失せている。


「大丈夫? どうしたの?」

「大丈……夫」

「いや、全然……そうは、見えないけど」




「魔法が消えるから、じゃない?」




 振り向いて見たアドルの顔は、部屋の中で誰よりも落ち着いていた。


「魔法が消えたら、ザラム達の……『神の子』の不老も、消えちゃうんでしょ?」

「別に……そんなの、どうでもいい……」

「ニーナ様も、そうなんですよね?」

「そうね……」

「……アドル。止めたまえ」

「兄上!」


 なりふり構わないように、アドルが叫んだ。


「ニーナ様と一緒に、城に戻ってよ! 魔法が消えたら、ニーナ様は今まで通り暮らせないでしょう!?」

「そうして君は、レヴィと一緒になるのかい?」

「それは……! だって、レヴィだって、魔法が消えたら……!」




「止めろ」




 静かだけれど強いレヴィの声が、部屋の空気を止めた。


「今は俺達の事はどうでもいい。……死ぬわけじゃねえしな。まずはアイラスの問題が先だろ? あの子は、放っといたら消えちまうんだぞ?」




「そんな事、言ったって……そっちは、どうしようもないでしょう?」




 アドルの冷たい物言いに、ロムは目を見張った。


 これが王たる者の考え方なのか。出来る事と出来ない事を見極め、無駄な努力に労力をかけない。そのために、多少の犠牲を払う事もいとわない。


 頭ではわかっていても、気持ちがついていかなかった。ロムは重苦しい気分になり、床に落とした視線を上げる事が出来なくなっていた。




「そんな事はないわ」




 ニーナの言葉に、ロムは顔を上げた。オウム返しに聞いた。


「何か、方法があるんですか?」

「魂が抜けるなら、別の魂を入れてやればいいの」

「別のって……別の魂が入ったら、人が変わったりしないんですか?」

「人の……いえ、あらゆる生き物の心と記憶は、身体そのものに宿っているのよ。魂は、それらを起動する鍵のような物……。合う鍵を探せばいい」

「合う合わないがあるんですか? どうやったら、それがわかるんですか?」

「色が似ていれば、合う可能性が高いわ」

「色?」

「魂には色があるの。魔法使いなら、それを視認できる」

「で、でも……待って下さい。アイラスのために、誰かから魂を盗るんですか?」




 そんな事を本人が許すはずがない。彼女はクロンメルで被害を出さないために、一度は自殺している。自分が生き長らえるために、誰かを犠牲にするとは思えなかった。




「まさか。彷徨える魂……地縛霊を捜すのよ」




 ロムはすがるようにニーナを見つめた。希望の光が見えていた。

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