少年は説明を受けた

 グリフィスは、部屋についても入ろうとしなかった。


「私はここで失礼するよ。これから刀鍛冶のところに行ってみようと思う」

「え? 刀は、流行り始めただけなんですよね?」


 なぜそんなに急ぐんだろう。疑問に思って聞くと、グリフィスが苦笑した。


「刀は、我々の使う剣より切断する能力が高いらしいじゃないか。白い悪魔は翼を斬り落とすと元の人に戻るのだろう? 可能なら殺さずに済ませたいからね。有効そうなら、騎士団としても正式に導入したいと思う」


 意外と真面目に考えていて驚いた。


「だったら、もし指導が必要だったら来て下さい。俺はこの館からあまり動けないと思うので。俺の他にもう一人、刀を扱える子もいますし」

「君と決勝で戦ったという子かな?」

「そうです。……あっ、刀鍛冶の人も扱えるけど、型がめちゃくちゃだから教わらない方がいいです」

「君もはっきり言うねえ。……じゃあ、頼りにしているよ」




 ロムはグリフィスを見送り、みんなから少し遅れて部屋に入った。


「あっ、やっと来た!」


 部屋に入ると、アドルが嬉しそうに言った。

 彼は相変わらずレヴィのそばに居て、リンドはトールにくっついていた。アイラスはザラムの隣に座っていて、ちょっと嫉妬した。


 レヴィはコナーを気にして、不機嫌そうに口元をゆがめていた。そういえば武術大会の時には、かなりもめていた。一緒に暮らす事になるのだけど、大丈夫だろうか。

 いや、レヴィはあの時、コナーが自分を傷つけたから怒ったんだと思う。自分がしっかりしていたら、二人がもめる事は少ないはずだ。




「みんな、揃ったかしら? 今朝説明した人も居るけれど、改めて言うわね」


 ニーナの後ろには、猫の使い魔と初老の執事、それから見た事のない綺麗な男の人が控えていた。頭に獣の耳が付いているから、使い魔だと思う。


 誰だろうと見つめると、ロムの視線に気づいてにっこり微笑んだ。向こうは自分を知っているような気がした。

 髪は灰色で目は金色だった。それは、いつも出迎えてくれる狼と同じ色だった。




「この館に居る使用人や使い魔は、全員単独で白い悪魔と渡り合えるくらいの力を持っているわ。でも誰かを守る……護衛する程となったら、この三人だけなの」


 ニーナは猫の使い魔と灰色の彼を示して言った。


「リサとケヴィンよ。今夜から、あなた達の寝室で護衛をしてくれるわ。彼らはこの後、夜に備えて休むから、何か知りたい事があったら今のうちに聞いておいてね」 


 リサと呼ばれた猫の使い魔が、あくびをかみ殺している。昼食に呼ばれた時、彼女は休んでいると教えてもらったのだから、今は寝ていたところを起こされたのかもしれない。




 次にニーナは、初老の執事を示した。彼はうやうやしく頭を下げた。


「ジョージよ。彼とレヴィ、ロム、それから今日来てくれたアドルとコナーが護衛という事になるわ」


 護衛の中にザラムが入っていない事が、ロムは気になった。彼は不満そうな顔をしていたけれど、何も言わなかった。

 実力的には申し分ないはずだけど、悪魔の元が人だと知って殺せなくなったから、ダメなのかもしれない。


「魔法使いは、彼らのうちの誰か……もしくは私と一緒に居るようにして頂戴。それと、ロム、アドル、コナーは、護衛の任が無くても、できるだけ魔法使いのそばに居てね。あなた達は、白い悪魔や白い裂け目を感知できないのだから」


 アイラスもそれがわかるんだろうか。工房に白い悪魔が出た時は、何かが来る気配を感じたとは言っていた。

 彼女を守り、守られるなら、ここでの生活も楽しいだろうなと思う。


 アイラスをちらちらと見ながら考えていたら、ニーナにバレて苦笑された。


「そんなに難しく考えなくても、基本的に自由に過ごして構わないわ。今言った条件を満たすならば、出かけても結構よ」


 それならば、アイラスを服飾店に誘いたいなと思った。昨日ギルドに行った帰りに話は付けておいた。店で見せられたサンプルはどれも可愛くて、彼女に似合うと思う。今着ている服だって、とても可愛いのだから。




「そうそう、ロムとレヴィには護衛の報酬が出るわよ。国から冒険者ギルドを通じての特殊依頼になるの。手続きはもう済んでいるわ。だからレヴィは、ここに居る間は売るための絵とか描かなくても大丈夫じゃないかしら?」

「僕とコナーには無いんですか?」

「アドルは報酬が欲しいのかしら?」

「いえ、要りませんけど……」

「コナーには騎士団からの給与があるでしょう?」

「はい~」




「他に質問はないかしら?」

「あの……」


 アイラスが遠慮がちに手を上げた。


「何かしら?」

「ホーク先生は、ここに来ないノ?」

「彼は教師の仕事を優先したいそうよ。彼も含めて、この街の魔法使いには全員転移装置を渡してあるから、何かあったらすぐここに飛んでこれるわ」

「そっかぁ……」

「心配してくれるのね? ありがとう」

「私も、心配だけど……ニーナが、心配じゃないかなって……」


 ニーナは少し驚いた顔をして、それから優しく微笑んで、もう一度お礼を言っていた。

 それを聞いていたアドルが目を白黒させている。


「ホーク先生って、誕生会の時にちらっと見た人だよね? ニーナ様の、その……いい人なの?」

「うん、まあ……王様には内緒にしといてね」

「そりゃあ、もう……」




「他は大丈夫かしら?」


 誰も答えなかったけれど、アイラスとトールが顔を見合わせて不安そうな様子だった。それに気づいたニーナが優しく言った。


「不安はあるわよね。新しい生活が始まったばかりだもの。何かわからない事があったら彼らに聞いて頂戴」


 ニーナの後ろで、使い魔達と執事が軽く頭を下げた。アイラスも、あわててぺこりとお辞儀していた。




「さて……トールとアイラス。それから……そうね、ロムとレヴィ。私の部屋に来て頂戴」


 そう言ってニーナはさっさと部屋を出て行ってしまった。ロム達四人は、あわててその後を追いかけた。

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