少年は相談した
「ロム? どうしたんだ?」
また工房を訪れたロムを、レヴィが驚いて迎えた。日は大分傾いていた。用件だけ伝えてすぐ戻らないと、アイラス達が心配するだろうなと思う。
「武術大会の賞金が届いたんだ。思ってたより多くて使いきれないから、相談に来たんだよ」
「……相談?」
レヴィがザラムをちらりと見た。彼はレヴィの見つめる気配に気づいたのか、少し頭を下げた。
「ザラムには内容を話してるから、聞いてても問題ないよ。あのね……」
ロムは新しい工房の話を伝えた。
レヴィは静かに聞いていた。表情が固い。納得していないのだと思う。それでもロムは、他にいい方法を思いつかなかった。
「どうかな……?」
「お前……俺がそれを、はいそうですかと受け取ると思ってんのか?」
「思ってないよ。でもあの管理人に没収されるの、悔しくない?」
「……それは、わかる」
レヴィが、ニヤリと口の端を上げた。
「俺も、いつまでもここに居ようとは思わねえ」
「じゃあ……!?」
「俺も金は貯めてある。まだ家を買える程じゃねえけどな」
「いや、俺の賞金を使ってくれないと困るんだけど……」
「最後まで聞けよ。共有名義で買うんだ。金は半分ずつ出す。お前にも所有権がある。いずれその権利は俺が買い取る。そうすれば、お前も将来に向けて貯金をした事になるしな」
「うん、それでいいよ! じゃあ決まりだね」
「まあ待て。共有名義にはメリットもデメリットもある。明日、冒険者ギルドに相談に行こう。受付のあいつなら、不動産についても詳しい」
言われてロムは、刀鍛冶の妻で、若いくせにやたらと有能な受付のお姉さんを思い出した。確か冒険者向けに不動産の紹介や相談にも応じていたと思う。
「わかった。じゃあ明日の朝、ギルドで待ち合わせよう」
「いや、先にここにアイラスを連れて来てくれ。もう次の工程に進める。あいつもゆっくりしてられないからな」
そう言ってレヴィはザラムの方を向いた。
「お前さ、明日は一緒にここに来てくれねぇか? 最近物騒だからな。アイラス達だけ残して留守にするのは不安なんだ」
特に治安が悪くなったとは聞いていないので、レヴィはニーナから例の話を聞いているのかもしれない。誰かが、トールかアイラスを狙っているかもしれないという話を。
それと同時に、レヴィもザラムを信頼してるんだなと思った。自分だけが疑ってたと思うと、今は少し恥ずかしかった。
「わかった」
「すまねえな。礼は……」
「要らない」
「じゃあ、貸しにしとくぜ」
ザラムは楽しそうに、にやりと笑った。ちょっと待って。なんか自分に対する態度と違うんだけど。
「なんでレヴィは対等なんだよ……」
「は?」
「何でもない。帰る」
「お、おう。じゃあ明日な」
外はすっかり暗くなっていた。アイラス達は晩ご飯を食べただろうか。彼女達の事だから、待ってそうな気もする。だとしたら急がなければならないのに、足取りは重かった。
「アイラス、怒ってるかなぁ……」
「チケット、返される」
「……だよねぇ」
「受け取れ」
「それじゃあ意味が無いよ。あれをアイラスにあげたくて頑張ったのに……」
「お前、使う、ふり」
「ふり……?」
「店、女の服、頼む。買物、一緒、行く」
一瞬言っている意味がわからなくて、立ち止まって考えた。ザラムも立ち止まって振り返った。
「あらかじめ、お店に女の子用の服を頼んでおいて、その後でアイラスに俺の買物に付き合ってもらう……っていう事?」
「そう」
「それいいね! その作戦でやってみる! ありがとう!」
笑顔で礼を言うと、ザラムは少し驚いた顔をした。それから照れ臭そうに笑った。いつもの上から目線ではなかったので、ロムは少し嬉しかった。
保護区に戻ると、予定通りアイラスからチケットを返された。素直に受け取ったので怪しまれたけれど、自分が買いに行く時に一緒に選んで欲しいと頼むと、とても嬉しそうに頷いてくれた。
行くのは、次に絵の工程が止まった時という事になった。それまでに店の方に手を回しておかなくてはならない。明日ギルドに行った帰りに寄ろうかと考えていた。
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