少女達は考えた
ニーナの問いには、誰も答えられなかった。彼女は確認するように見回し、再び口を開いた。
「私が遅れて到着した時、他で問題が起きていたと言ったわよね?」
「何があったんですか?」
「ゴーレムが出たの。何もせず、移動もせず、ただ立っていただけだから、被害はなかったのだけど……」
「けど、なんですか?」
「核が魔法で守られていたの。並みの者では壊せなかったわ」
「ニーナじゃないと無理だったノ?」
「そこまでは言わないけれど、強い魔力と豊富な知識がなければね」
「ということは、もしかして……」
「ええ。『神の子』でないと。それも『知識の子』が訪れた後のね。『神の子』と言えど知識が伴わなければ、ちょっぴり魔力が高いだけで大した魔法は使えないの」
ニーナがちらりとトールを見て、彼はバツが悪そうに目を逸らした。獣の耳がぺたんと折れている。可愛い。じゃなくて可哀想。
「『知識の子』が来ない人もいるノ?」
「すぐに来る人もいるし、何百年経っても来ない人もいるわ。現にトールだってようやく来たのだし」
「どういった基準で遣わされているのか全くわからぬ。正に神の気まぐれじゃ」
そう言う彼は、アイラスがいるのに知識を得ていない。あの妖刀も、知識があれば何とかなったんだろうか。そこまで考えて、ある可能性に気がついた。
「もしかして……刀を何とかできる人……エェト、つまり……」
「正解よ。知識を得た『神の子』を炙り出すためだった……私はそう考えているの」
「は? わし……?」
「もしくは『知識の子』をね。むしろそっちの方が頷けるわ。だって、知識を得た『神の子』をどうこうできるとは到底思えないもの。まだ魔力が人並みの『知識の子』の方がマシでしょ?」
「エ、じゃあ、私?」
「犯人が魔法使いなら、おぬしの持つ知識を求めるやもしれぬな……」
「魔法使いってね、居心地がいい場所に集まりがちなのよ。この街がそう。だから私以外の『神の子』と、それに伴う『知識の子』がいる可能性を考えたのかもしれないわ」
「全くもって不愉快じゃ。仮にそうだとして、目的の者が現れなんだら、あの刀をどう始末をつけるつもりだったのじゃ」
「抑える力がある人なのカモ?」
「そんなだったら、知識も持ってるんじゃないかな」
「『神の子』が全ての知識を授かってるとは限らないわよ。私だってザラムに請われた知識を持ち合わせてなかったのだし……」
「ザラム? ザラムが何を求めてたんですか?」
ニーナは少し遠い目になり、すぐに首を横に振った。
「その話は今度にしましょう。とにかく知識を得たいのなら『知識の子』を捜した方が楽で早いのよ。アイラスには自分を守る力がないのだから、一人にはならないように気を付けてね」
誰かがトールや自分を狙っているかもしれない。アイラスは身体が震えてきて、自分で自分の肩を抱いた。
ロムがすかさず、その上から手を重ねてきた。両肩を掴まれる形で真剣な顔で見つめられた。
「大丈夫。俺が守るから」
「ロムは今の話を聞いて、もう刀が持てるようになったのかしら?」
「いや……まだ無理だと思う……」
痛いところを突かれて、ロムは恥ずかしそうにうつむいた。一瞬すごくかっこよかったのに、一瞬ですごく可愛くなった。
その気持ちが嬉しいのと、赤くなった顔が可愛いのとで、アイラスの顔は自然とほころんだ。
「それでもいいヨ。ありがとう。頼りにしてるネ」
「今考える事ができるのは、これくらいかしら?」
そう言って、ニーナが立ち上がった。お開きになるのだと思い、お皿に残っているお菓子に目をやった。
「犯人としては、目的を達成していない事になるわ。また同じような事が起きるかもしれない。みんな気を付けてね。この事はホークとレヴィにも伝えておくわ。何かあったら彼らを頼ってね」
全員、神妙な顔で頷いた。
気楽に暮らしていた昨日までの生活を懐かしく思った。
四人はニーナの館を出て、お土産にもらったお菓子を食べながら、レヴィの工房へと向かっていた。
「そういえば、リンドが戻って来たって事は、アドルから返事がもらえたのかな?」
「うむ。明日来るそうじゃ」
アドルは今、レヴィに呼ばれて有頂天になっているだろうなと思った。
でも明日話される内容は、アドルにとって嬉しいものではないかもしれない。
彼はレヴィを嫌ってしまうだろうか? アイラスの知る彼なら、人種や種族に偏見を持ったりはしないと思う。そうであったなら、最初から身分違いで年上のレヴィを好きにならないだろうから。
それでも少しだけ心配だった。
逆にレヴィはどうなんだろう。最近はアドルに対して優しくなったし、その仲は少し進展したんじゃないかと思っている。
でも自分の正体を伝える事は、彼女にとって拒絶の意味になるのではないか。
レヴィはアドルの事をどう思っているんだろう。
重苦しい気持ちで考えているうちに、レヴィの工房が見えてきた。
横を歩いていたロムが、不意に声をかけてきた。
「大丈夫だよ。アドルはレヴィに酷い事を思ったりしないし、レヴィはアドルを故意に傷つけたりもしないよ」
そう言って、手が差し伸べられた。
何も言ってないのに、ロムには何の心配をしているか伝わったのかと驚いた。
だから、その手を取って何も言わずに頷いた。
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